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ブロックチェーン 浮かび上がった期待と課題 第5回FinTechフォーラム

日本銀行本店内の会議室で開催された第5回FIn Techフォーラム

日本銀行本店内の会議室で開催された第5回FIn Techフォーラム

 日本銀行が主催する第5回FinTechフォーラムが2月7日に開催された。今回は「ブロックチェーン・分散型台帳技術(DLT)」がテーマとして取り上げられた。

 一般には仮想通貨を支える技術として、その存在が知られるようになったブロックチェーンだが、その技術の組み合わせや進化の方向性、考え方はさまざまだ。まだ研究開発段階にある技術であり、実用にあたっては、セキュリティは高いが、処理速度が遅いなどの課題も多い。

 ビットコインの基盤技術であるパブリックブロックチェーンでは、昨年夏に、処理能力を向上のため、ブロックサイズを大きくすべきか否かの方向性の違いから、ビットコインの分裂騒動があったことは記憶に新しい。こうしたガバナンス上のリスクを避けるため、フィンテックを推進する金融機関などがブロックチェーンの実証実験に取り組む場合、そこで採用される技術は参加者が限定的であったり、管理者を置くなどブロックチェーン本来の哲学とは異なる、コンソーシアム型(プライベート)の分散台帳技術であることが多い。

 この日のフォーラムは、パブリックブロックチェーンの開発サイドのスピーカーがいる一方で、コンソーシアム型などの技術を採用し実証実験を進めてきた金融機関からの報告も行われた。ブロックチェーン・分散台帳技術に関わる幅広い情報を持つ参加者が一堂に会し、現状を認識し、意見を交換する場を設けることが、フィンテックを推進する日本銀行の狙いなのだろう。

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 最初の登壇者、デジタルガレージの渡邉太郎DG Lab CTOは、ブロックサイズを大きくすることで処理能力の向上させ、スケーリングの問題解決を図ろうとする勢力(ビッグブロック派)に対して、異なった解決方法を提案する「慎重派(コア派)」の存在や考え方を紹介した。

 パブリックなブロックチェーンの最大の特色は、非中央集権的に運営されており、特定の管理者が存在しないことと、その特徴からセキュリティが高いレベルで保たれることだ。

 ところが、有力なマイニング事業者が推奨するブロックサイズ拡大によるスケーリング問題の解決では、非中央集権的な特色が弱められ、同時にセキュリティ毀損の可能性が高まるという。そこでボランタリーに活動するブロックチェーンの中心的な開発者グループである慎重派は、ブロックチェーンの上位階層で処理を行うLayer2という考え方を採用しようとしている。

 ただ、どのようなアプローチであっても「利便性とセキュリティはある程度トレードオフの関係になる」(渡邉DG Lab CTO)という。つまり、慎重派は「信頼できる第三者の存在を仮定しない」言い換えれば「悪意のある第三者が影響力を行使できない」というブロックチェーンの大原則を重んじつつ、利便性の向上を図り、現実の利用シーンにフィットさせる工夫を模索しているようだ。

 ブロックチェーンが直面する課題には、技術的な方向性の違い以外にも見過ごされがちな問題がある。現在「慎重派」として活動するブロックチェーンの中心的な開発者は、多くはボランタリーに活動しており、経済的に報われることが薄いという。パブリックなブロックチェーンは社会的なインフラとして大きな期待を集めているが、その一方で処理速度など基本的な部分での未解決の問題がある。その原因は、開発者に対するインセンティブの仕組みが整っていないため、規模にふさわしい開発リソースが確保しにくい仕組みであることも原因となっているようだ。

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 フォーラムの後半は、ブロックチェーン・分散台帳技術を利用する側にある、銀行、証券業界の取り組みと、採用した技術をどのように評価しているのかが紹介された。

 ここで興味深かったのは、ブロックチェーン・分散技術台帳技術を利用、検証していく側の評価軸は、中央集権的要素の有無やブロックチェーンの基本哲学にいかに忠実であるかどうかではなく、当たり前のことだが、それらの技術が自らの問題解決に役に立つかどうかであるということだ。

「MUFGコイン」などブロックチェーンへの取り組みでは先駆的な三菱UFJファイナンシャルグループの相原寛史デジタル企画部部長によると「金融取引のプロダクションで利用可能なブロックチェーン(もしくは類似の技術)は限定的」(同氏プレゼン資料より引用)だという。小切手電子化などではトランザクションの確定に時間がかかるパブリック型は不向きで、参加者を限ったコンソーシアム型であっても、ガバナンスや法整備での点で課題があるという。

 また、日本取引所グループの山藤敦史フィンテックラボ室長からは、パブリックブロックチェーンに関して「非中央集権的という言葉は言い換えた方がいいような気がする。圧倒的な強者を作らないという理解であれば、これまでビジネス上競合し、共有基盤を作ることができなかったすくみが解消でき、安全な情報共有基盤きるのではないか」との指摘があった。つまり、アナーキーな印象を与える「非中央集権」という哲学は、見方を変え、言い方を変えるとビジネス上のメリットとして浮上してくるということだ。

 金融実務に先端技術を導入する側からの声は、パブリック、プライベートと分断するのではなく、利用実態にあった技術の組み合わせや、必要なテクノロジーの速やかな開発に期待するものであったことが印象に残った。また、この場に集った開発者サイドもそういった期待や課題については意識しており、評価の基準を整備し、トレードオフの関係にあるものについて、実装ベースで必要なレベルはどこかを模索しているこがフォーラムの議論から伺うことができた。

Written by
朝日新聞社にてデジタルメディア全般を手掛ける。「kotobank.jp」の創設。「asahi.com(現朝日新聞デジタル)」編集長を経て、朝日新聞出版にて「dot.(現AERAdot.)」を立ち上げ、統括。現在は「DG Lab Haus」編集長。