行政機関が保有する人口や観光、防災―、民間企業のインバウンド消費―、さらにIoT機器など各種センサーのデータ。これらを見える化し、データ同士を掛け合わせることによって新しい知見を得る。札幌市が1月から、オープンデータのプラットフォーム「DATA-SMART CITY SAPPORO」 を公開している。目的はイノベーション創出や暮らしの質向上など「札幌の価値の創造と向上」。事業の成否は、データを活用したマネタイズができるか、にかかっている。札幌市のオープンデータ戦略とは。
毎年2月に開かれる、さっぽろ雪まつり。訪日外国人観光客は年を追うごとに増え、12万8000人(2015年)から、約27万3000人(2017年)となっている。併せて開かれる「すすきのアイスワールド」とともに期間中、札幌の中心部には、さまざまな国の言葉が飛び交う。こうした外国人観光客の取り込みを狙って進められる「DATA-SMART CITY SAPPORO」の実証事業のひとつ「インバウンドの周遊誘導、消費拡大」のイメージは次の通りだ。
モバイル基地局とスマホの観光アプリから得られる国際ローミングの使用データ、GPSデータを基に、1キロメートル四方のメッシュ(網目)ごと、どの国からの外国人客が何人いるか―という「人流データ」を取得。これを、付近の商業施設にどの国の外国人客がどれくらい来店し、何を買ったか、よく売れた商品は何かーという購買データと掛け合わせる。
これによって、商業施設が外国人客をどの程度取り込めているか、どんな商品やイベントが外国人客の消費を牽引したかーといった国別、商品分類別の特徴が把握できる。合わせて口コミ(SNS)分析ツールを使って外国人客の嗜好を捉えることで、店舗展開や効率的な販促が可能になる。また、観光アプリのユーザーに、付近の商業施設をレコメンドするプッシュ配信もできる。
企業はプラットフォームに参加し購買データを提供することで、プラットフォームのデータを利用できる。他社の状況と自社を比較することで新しい知見が得られ、参加企業全体の機会拡大を狙う。1月末現在でサツドラ、イオン北海道、東急百貨店、さっぽろテレビ塔などが参加している。
「DATA-SMART CITY SAPPORO」は、札幌市のICT活用戦略(2017年3月)の一環。さっぽろ産業振興財団が事業の実施主体で、総事業費は1.2億円。総務省と札幌市それぞれ6000万円の補助で構築した。機能やデータを追加し、4月から本格運用する。
ウェブサイトでは札幌市が保有する約100種の統計データと、企業やホテルの販売・利用に関する12種のデータを公開。データ項目は現在、1000を超えている。これらを「防災」「経済・観光」「教育・文化・スポーツ」など12分野に分けた「データカタログ」と、「インフルエンザView」「インバウンド消費View」などデータを分析し地図やグラフに落とした「ダッシュボード」(データ活用事例)として公開している。データはクレンジング(品質向上)された上で匿名化、統計化されている。
前述の「インバウンドの周遊誘導、消費拡大」のほか財団は観光、雪対策、健康の3分野で5つの実証事業を実施、計画している。
積雪が多い大都市札幌ならではの活用例は「スマート除排雪」。市内走るごみ収集車にドライブレコーダーやGPSを設置し道路積雪状態や雪による凸凹の状態を把握。さらに加速度センサーや、ABS(Anti-lock Brake System)作動データをリアルタイムに収集し、画像データと合わせて分析することで渋滞の発生や起点を特定、機動的な除排雪を目指す。北海道大学が実施主体となり、すでに札幌・北区で20台のごみ収集車が稼働している。
総務省はオープンデータを(1)機械判読に適したデータ形式で(2)二次利用が可能な利用ルールで公開されたデータと定義している。札幌市のこうした取り組みのように民間を加えたオープンデータ・プラットフォームは全国的に珍しいという。
「DATA-SMART CITY SAPPORO」のカギとなるのが、マネタイズだ。国などの補助が終われば事業も終了してしまうというのでは意味がない。総務省の補助要件は5年間の事業継続。それ以後も「持続可能性を追求するため、データの価値を最大化したい。データの分析に注力し、ユースケースを提示したい」(さっぽろ産業振興財団)という。
そのため、学識経験者や地元企業による検討委員会を2月に設置し、データのニーズ把握や収益事業を検討。また、データ活用コンテストによるアイデアの集約も検討している。札幌市などは2017年6月、札幌AIラボ(ラボ長、川村秀憲・北海道大学教授)を設立している。ラボでも今後は、オープンデータを学習データとし、ビジネス利用の方法を探っていく。
関連リンク
・総務省 オープンデータ戦略の推進