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銃から死を遠ざける 米国で「スマートガン」の可能性を探る日本人研究者

中村正人助教授。専門は地球環境工学。エネルギーの再利用や公害対策を研究する分野だ。スマートガン研究も、弾丸が発射される際の余分なエネルギーを、付随する電子機器の動力源として転用できないかという発想からスタートしたのだという。

中村正人助教授。専門は地球環境工学。エネルギーの再利用や公害対策を研究する分野だ。スマートガン研究も、弾丸が発射される際の余分なエネルギーを、付随する電子機器の動力源として転用できないかという発想からスタートしたのだという。

 3月25日、春と呼ぶにはまだ寒すぎるこの日、セントラルパークの西側を南北に伸びる公道には、民衆の熱と怒りが満ちていた。「銃規制に反対する政治家を落とせ!」――。手製のプラカードを掲げた人々が口々に叫ぶ。2月14日に米東南部フロリダ州パークランドのマージョリー・ストーンマン・ダグラス高校で、17人の命が奪われた無差別乱射事件を契機とするデモ行進だった。ここニューヨークだけでなく、ワシントン、ロサンゼルスなど全米700ヶ所(主催者発表)でデモ行進は行われ、100万を超える人々が銃規制の強化を訴えた。

3月25日にニューヨークで行われた銃規制強化を求めるデモの様子。ニューヨーク市長ビル・デブラシオによると約17万5000人が集まった。

3月25日にニューヨークで行われた銃規制強化を求めるデモの様子。ニューヨーク市長ビル・デブラシオによると約17万5000人が集まった。

 近年のアメリカの無差別乱射事件の頻度と凶悪さは常軌を逸している。史上最悪の被害といわれた2017年10月1日のラスベガスでの事件(59名死亡)以来、たった半年足らずの間にテキサス州(11月5日、27名死亡)、カリフォルニア州(11月14日、6名死亡)、ペンシルバニア州(1月28日、5名死亡)と続き、そして今回のフロリダの事件だ。ワシントン・ポスト紙は「アメリカの無差別乱射事件は劇的に増加しており、特に犠牲者が多い事件はここ数年に集中している」と結論している。

 だが、この国の銃規制は遅々として進まない。全米ライフル協会を筆頭とするロビー団体の強固な反対も大きな要因だが、「自衛のための武装」という建国以来の観念が、多くのアメリカ人にとってそのアイデンティティと不可分であるためだ。ニューヨークのデモ行進の傍ら、無言で「銃を持つ権利を」と書かれたプラカードを掲げた10人程度の集団がいたことが印象に残った。「お前らは狂ってる!」、そんな罵声をデモの参加者から浴びせられても、彼らは最後までその場所から動かなかった。

スマートガンは銃問題解決の糸口となるのか?

 こうした緊迫した状況下で、注目を浴びている技術がある。銃に電子的な機構を組み込み、不正な使い方をしようとするとロックが掛かる等の機能を搭載した「スマートガン」だ。アメリカのテクノロジー産業の中心地といえば西海岸だが、スマートガン研究をリードするのは東海岸。ペンシルバニア州に拠点を置く企業・Lord Star Firearmsは2019年を目処にアメリカ初となる国産のスマートガンを発売するという(2018年現在、スマートガンはアメリカ国内で流通しているが、ドイツ企業のArmatixなどの製品が主流だ)。また、ニューヨーク市ブルックリンでは、2017年6月に同市初となるスマートガンのデザインコンペティションが開催。最優秀賞として100万ドルが授与されるという大規模なものだった。

 同コンペティションのファイナリストのなかに、日本人研究者の姿があった。ニューヨーク市立大学工科カレッジで機械工学と産業デザインの教鞭をとる中村正人助教授だ。他のファイナリストたちのスマートガンが指紋認証などの単一の電子的機構を用いた安全策に着目したものだったのに対して、彼のアイデアは異彩を放っていた。銃の文字通りのスマート化――多彩なセンサーと通信機能を組み込むことで、スマートフォンのようなフレキシブルで高度なセキュリティーを可能にする――。なぜこの発想に至ったのか、そしてどのようなインパクトをもたらし得るのか、話を聞いた。

中村助教授が制作したスマートガン。あくまで機能を確認するための模型だ。動作でロックを解除するというアイデアは、仮面ライダーなどの日本の変身ヒーローが特徴的なポーズをするところなどから着想を得たという。取材時、垂直に素早く振ることでロックが外れる様子を披露してくれた。

中村助教授が制作したスマートガン。あくまで機能を確認するための模型だ。動作でロックを解除するというアイデアは、仮面ライダーなどの日本の変身ヒーローが特徴的なポーズをするところなどから着想を得たという。取材時、垂直に素早く振ることでロックが外れる様子を披露してくれた。

「現在一般的に流通している拳銃の基本設計は、数百年前から変わっていません。そこにコンピュータを組み込むことで、どれほどのことができるのかを示したかった。それが今回のコンペティションに参加した動機のひとつです」

 そう語る中村助教授は、透明なアクリル板でつくられた銃の模型を記者に手渡した。センサーや基盤、配線類がむき出しになっており、指摘されなければそれが銃の模型であることにも気づかないかもしれない。

 主な機能は3つに大別できるという。ひとつはモーションセンサーを使ったロック解除機能。予め特定の動作を登録しておき、その動作をすることで引き金のロックが外れる。盗難された銃の悪用防止、また子どもなどによる誤射の防止が見込まれる。もうひとつは銃口付近に設置された距離センサー。銃口から近い距離に物体があると、自動的に引き金がロックされる。こちらも誤射や、また銃を用いた自殺の防止が目的だ。そして、GPS。学校や教会、病院など、特定のエリアの位置情報を入力することで、そのエリア内では引き金を引くことができない。

 とはいえ、このGPS機能が無差別乱射事件の抑止に直結するかといえば、中村助教授自身も同意するように、かなり難しい。なぜなら、もし無差別乱射を目論むならば、通常の銃を使えばいい。現在アメリカに存在する約3億丁の銃をすべてスマートガンに置き換えない限り、悲劇を根絶することは不可能だ。

 それでもGPSを組み込むことで、銃の安全性や利便性が向上することは事実だという。

「スマートガンにおけるGPSの応用はほとんど議論されてきませんでした。あっても、GPS付きなら所有者の場所がわかる、程度のもので、位置情報を使って何をするかという議論がごっそり抜けていたのです。私のスマートガンは本人認証を拡張した位置認証の考え方がベースになっています。例えば自衛を想定する場合、自宅の半径5マイル以内だけで発砲できるという設定も可能。これによって盗難された銃が悪用されることを防ぐことができます。あくまでテクノロジーで銃の可能性や安全性がどの程度広がるのかという提案なのです」

無差別乱射以上に人命を奪う自殺と事故

 しかし、銃を使った自殺や事故の対策としては、スマートガンは非常に有望な可能性を秘めている。

「特に距離センサーを用いたロック機能で、自殺を半減させられるのではないかと考えています」

 アメリカにおける銃による死で、最大の割合を占めるのは自殺だ。FBIによると、2016年のアメリカ国内の銃による死亡者は1万1004人、そのうち約5500名が自殺だった。一方で、「無差別乱射」に分類される事件の死者はこの50年間で約1000名。銃による自殺を減らすことも、アメリカの銃問題において極めて優先度の高い課題なのだ。しかし、なぜ距離センサーが有効なのか。

「それは心理学者との合同調査にもとづいています。PTSDや鬱を患う人々が自殺を試みる場合、その多くが突発的な衝動に駆られてのものなのです。その際、手に取るのは身近にあり、確実に死ねるもの、すなわち銃です。また、ほとんどがこめかみや下顎に銃口を密着させて発砲している。つまり、銃の手軽さと致死性の高さがアメリカの自殺者数を押し上げているのです。

 距離センサーが組み込まれ、例えば30cm離さないと発砲できない仕様の銃ならば、自殺者の心理にかなり強い躊躇が生じます。そして、自殺願望はほとんどが衝動的なものですから、そうして躊躇している間に、自殺を諦めたり、延期したりすると考えられます。確かに自殺者をゼロにすることはできません。しかし、こうしたスマートガンが普及すれば、統計上かなりの数の人々を銃による自殺から遠ざけられるのは確かです」

スマートガンは普及するのか?

 いずれにせよ、スマートガンが効力を発するためにはその普及が前提となる。電子機器を組み込む関係上、故障やハッキング、バッテリー切れなどのデメリットがあるが、中村助教授はこう語る。

「確かに機械である以上、何らかの不具合が起きる可能性はゼロではありません。しかし、それはスマートフォンとなんら変わりません。スマートフォンを安全と考えるか、脆弱と考えるかで、スマートガンの評価は変わるはずです」

スマートガンの購入者は今後増えていくのだろうか。

「ある日突然、全ての銃がスマートガンに置き換わることはないでしょう。しかし、安全だから、便利だから、といった理由で徐々にユーザーが増えていき、旧来の銃とスマートガンが共存すると考えています。その根拠はとても単純で、優れたテクノロジーは文化や生活習慣、政治的思想を超える力を持っていると信じているからです。便利ならば人々は使うし、不便ならば使わない。そしてスマートガンにはその力があると考えます」

 事実、近年ジョン・ホプキンス大学がアメリカの4000世帯を対象に行った意識調査によると、4分の3の人々が「次に銃を購入する際はスマートガンを検討したい」と解答している。ほとんどのアメリカ人は、自身や愛する者を守るために銃を持つ。それが安全なものならなお良い。

「新たなテクノロジーが誕生する時は必ずこうした議論がありました。自動車のエンジンが発明された時、大多数の人は『故障するかも』『ガソリンが必要なのは不便』『馬車の方が安全』などといって絶対に普及しないと考えました。しかし、現在は車がない社会は考えられません」

 最終的には、スマートガン技術はおそらくIoTやユビキタスコンピューティング、スマートシティ技術などのイノベーションと融合し、新たな社会基盤のひとつとして発展していくと中村助教授は予言する。

「私はスマートガン研究を通して、銃を持つ権利と銃規制のはざまで苦しむ人々に、我々の未来は明るいんだ、未来は暴力に満ちた悲しい世界が待っているんではなく、みんなの知恵で解決できるかもしれないということを示したいと考えます。遠くない未来、『昔はコンピュータで制御されていない”野蛮”な銃が使われていたんだって』というような笑い話が交わされることを願っています」

小神野真弘 Written by
記者。1985年生。日本大学藝術学部を卒業後、朝日新聞出版勤務等を経てフリー。貧困や薬物汚染等の社会問題を中心に取材を行う。2017年現在ニューヨーク在住。著書に「SLUM 世界のスラム街探訪」「アジアの人々が見た太平洋戦争」(共に彩図社刊)等。