現在、ビットコインやイーサリアムをはじめとする多くの仮想通貨が登場している。その中でオタク系コンテンツに特化した国産の仮想通貨として注目を集めているのが、2018年5月9日に、オタクコイン準備委員会によって構想発表会が開催された「オタクコイン」だ。
オタクコインは、アニメやマンガ、ゲームなどのコンテンツ業界内で流通する「コミュニティ通貨」であり、ファンが応援したいプロジェクトに投票できる「投票券」が付与される。このオタクコインを流通させ、世界中のファンやクリエイター、関連企業をより密接につなげ、オタク文化の維持と発展に貢献することを目的としている。
オタクコインを起案したのは、アニメやマンガ、ゲーム関連グッズの海外向け通販サイトなどを運営するTokyo Otaku Mode(以下、TOM)だ。同社COOの安宅基(あたか・はじめ)氏に、オタクコインの仕組みや、その背景にある仮想通貨・ブロックチェーン技術普及に対する思いを聞いた。
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――そもそもオタクコインのアイデアはどうやって生まれたのでしょう?
昨年の秋頃、今後の事業のタネになるものがないかと探しているときに、ビットコインやブロックチェーンに出会いました。調べてみると、投資対象としての盛り上がりは本質的なことではなく、根底にあるのはブロックチェーン技術による非中央集権的な経済の仕組みで、この仕組みが浸透することで、インターネットが普及したときのような社会の大きな進歩が見込めると確信しました。
ただ、「ブロックチェーンがすごい」といっても、ブロックチェーン関連の業界内で盛り上がっているだけではダメで、まずは一般の人が(ブロックチェーンを意識しなくても)使えるような装置や機能を作って浸透させていくことが大事です。じゃあどうしようかと考えたときに、私たちは日本のオタク文化に関わる事業をしているのですから、これと絡めようと思いつき、昨年末に「オタクコイン発行を検討しています」とリリースを出しました。
――反響は?
アニメ、マンガ、ゲーム関連のさまざまな企業に興味を持ってもらい、構想実現のためのオタクコイン準備委員会を設立したのですが、そこに多数の企業や個人の賛同者に参加いただくことができました。
ちなみに準備委員会はTOM以外のメンバーが過半数を占めており、我々が仕切っているわけではありません。せっかくブロックチェーンという技術を手に入れたのですから、そこは非中央集権的に進めないと意味がないと思っています。
TOMはあくまで構成員の一員。今後コイン発行のための協会や財団を作ることになった場合、そのメンバーにTOMがいなくても運用されていくような世界を目指しています。
――構想発表会で発表したオタクコインは、「コミュニティ通貨」と「投票権」という2つの機能を持つものでした。投票権について教えていただけますか?
これまでオタク文化の未来は企業体が主体となって決めていましたが、オタク文化の未来を一般のファンにも考えてもらい、意志決定に直接参加してもらうための仕組みです。
具体的には、オタクコインの保有者に投票権(投票トークン)を付与し、あらかじめ募集しておいたオタク文化の発展に寄与するようなプロジェクトに投票してもらい、投票数が多かったプロジェクトに(オタクコイン準備委員会から)資金提供するという流れ。これにより、ファンが望んでいる作品や、クリエイターが作りたい作品を生み出せる環境を提供し、オタク文化の発展に貢献しようというものです。
――オタクコインを手に入れるにはどうすればよいのでしょう?
オタクコインは全部で1000億枚発行しようと考えていますが、5%分にあたる50億枚を世界中のファンに無償配布する予定(2018年夏〜秋以降)です。ここでポイントになるのがコインの配布方法です。
現状の仕組みだと、相当リテラシーが高い人でないとコイン(トークン)受け取るのは難しい。先ほどお伝えした一般の人が仮想通貨やブロックチェーンを利用できる世の中の実現にはつながりません。そこで私たちは簡単に操作できる専用アプリを作り、アプリをダウンロードすればオタクコインが自動で付与される仕組みを考えています。
――いわゆるウォレットアプリ?
今あるウォレットアプリの多くは、(仮想通貨を)資産運用するためのもので、画面上にいろいろな仮想通貨が並ぶため、一般の人には使いにくいと思います。我々はオタクコイン専用のウォレットアプリを作り、たとえば LINEやインスタグラムを利用できるぐらいの人であれば簡単に操作できるようにと考えています。
ちなみに、最初の無償配布後にオタクコインを増やしたければ、業界コミュニティを活性化する活動をすれば増えるようにしようかと。たとえばアニメを見る、レビューを書く、作品をSNSでシェアするなど、オタク活動を頑張れば頑張るほどオタクコインが増える。皆がオタクコインを求めて尽力するほど、オタク文化も発展するイメージです。
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最終的にオタクコイン準備委員会が目指しているのは、オタクコインを「コミュニティ通貨」として流通させることだ。その根底には、TOM・COOとしての安宅氏の思いもあるだろう。アニメ、マンガ、ゲーム関連のコンテンツをグローバルにやり取りするTOMとしては、海外顧客が負担する手数料など、決済のハードルを下げたいということではないか。
また、オタクコインの取り組みが成功すれば、これを横展開し、オタク以外のさまざまなコミュニティでも仮想通貨を流通させる取り組みが実現するのではないかと安宅氏は語る。
構想が実現するには、ブロックチェーンのさまざまな技術上の課題の解決が必要だ。また、仮想通貨関連の法律が整っていない中で、関係各所との確認も必要で、超えねばならないハードルは残っている。今後の動向を注視したい。