Open Innovation Platform
FOLLOW US

日本初!Lightning Networkの効果を体感できるECサイトがオープン

左側黒のTシャツ姿がLightningNetwork 発明者のタデウス・ドライジャ氏 。ロゴの 『Ride the Lightning』 はヘビィメタルバンド・メタリカの2ndアルバムのタイトルと LightningNetworkがBlockchainの2ndレイヤーであることをひっかけたシャレ

ECサイトを立ち上げたDG Labのメンバー。左側黒のTシャツ姿がLightningNetwork 発明者のタデウス・ドライジャ氏 (MIT DCI)。ロゴの 『Ride the Lightning』 はヘビィメタルバンド・メタリカの2ndアルバムのタイトルと LightningNetworkがBlockchainの2ndレイヤーであることをひっかけたシャレ

 大きな可能性を秘めた技術として注目を集めるブロックチェーン。そのブロックチェーンを活用したビットコインは、円やドルのような決済手段として活用されることを想定してスタートした。

 ところが、実際に決済を行うにあたっては、「取引完了までの時間が長い」「手数料が想定外に高い」などの問題があることがわかってきた。そういった諸問題を解決するために、考案されたのがLightning Networkだ。この技術は簡単に言うと、これまでブロックチェーンの上で行ってきた決済に伴うトランザクション処理を、別に設けた階層(レイヤー2)で高速かつ大量に行い、その処理をバルクでブロックチェーンに書き込むことで負荷を低減させようという技術だ。

 数年前から、提唱されておりその実装が期待されてきたが、ようやく利用環境が整ったということで、この度、株式会社デジタルガレージのブロックチェーン開発チームがLightning Networkを利用したECサイト「Lightning Store」を開設した。Lightning Networkの利便性を体感し、同時に技術的な課題を探ろうという試みだ。

 開設に至るまでのエピソードや、今後の展開などについて同社のブロックチェーンチームを率いる渡邉太郎DG Lab CTOに話を聞いた。

* * *

――今回Lightning Networkを用いたECサイトを開設したねらいを教えてください?

今回インタビュー応えてくれた渡邉太郎DG Lab CTO

今回インタビュー応えてくれた渡邉太郎DG Lab CTO

 ビットコイン(Bitcoin)は「コイン」なんですが、現時点では投資の対象のように思われています。本来は決済手段として利用されることを意図して作られたものなので、そのように利用される場を作ろうと考えました。

 ところが、現在のブロックチェーンにはそれを妨げる要因というのがいくつかあります。例えばビットコインはボラティリティー(volatility=価格変動幅)が激しいとか、送金速度が遅い、手数料が高いなどといった問題です。

 そういった技術的問題のいくつかを解決できるというもの(Lightning Network)が何年か前に開発されたのですが、マイニングする人たちとの利害対立などがあり、ビットコインになかなか反映されませんでした。それがここ最近、ようやくLightning Networkが利用できるような環境が整ったので、未来の姿のショーケースとして、ユーザーがビットコイン決済を体験できるような場所を作ろうということになったのです。

 「Lightning Networkって論文上だけではなく実際に動いてるんだぜ!」ということをアピールしたかったのと、どれくらいイケてるものなのか試してみようという検証の場でもあります。

――ECサイトを作る上で、なにか困難なことはありましたか

 サイト自体は、世に出回っている普通のECサイト構築ツールで作りましたし、商品のTシャツも専門の業者さんで作ってもらったので、そういったところでは特に苦労はないのですが、仮想通貨決済代行を行なっているところで、Lightning Networkに対応しているところが見当たらなかったのです。決済事業者としては対応する旨味がないということなんでしょうけど……。この現状に、うちの開発者のひとりが義憤を覚えまして、自らBTCPayというLightning Network決済に対応する決済代行の仕組みを立ち上げたんです。

――その他にもなにか予想外の障害などありましたか?

 仮想通貨で買い物ができるお店やサイトって、日本にもあるのですが、多くは“なんちゃって仮想通貨決済”というか、お客さんの支払いは仮想通貨なのですが、決済の途中に仮想通貨取引所が入っていて、お店には通常の日本円で入金されてきます。

 うちの場合はビットコインで支払われたものを、そのままビットコインで受け取るということになりますので、企業の会計処理としてはいろいろと検討すべきことがありました。

――今後のことを教えてください

 Lightning Networkはまだ使い込まれて枯れた(安定した)技術になるところまで行ってないので、利用実績を重ねてクレジットカードのような決済を安定してできるようにしたいですね。また、Lightning Networkの周辺にはまだまだ新しいアイディアがあるので、そういったものを試したいということもチーム内では話し合っています。

――この先はどういったビジネスにつながるのですか

 今回の試みが直接的にビジネスになるというわけではないと思います。これが最初の一歩となり、今後Lightning Networkがプラットフォームとしてインターネットのように世界中に広がるようになると、そこで新しいアプリケーションなどのビジネスが生まれると思っています。

 サイトで売っているTシャツに「reckless」というロゴが入っているのですが、「無謀」という意味なんです。これは「無謀なことに今トライしている」ということですね。既存のクレジットカードなどの決済ネットワークに比べると、とても小さな技術ということからくる気後れでもあり、また、自分たちを鼓舞する気持ちも込められてます。これが当たり前になる世界が3年後とか5年後とかに来てくれればいいのにと思っています。

* * *

支払い用の画面にはQRコード

支払い用の画面にはQRコード

 確かにビットコインは取引して、利益を得るものと考えており、それを使ってネットショッピングすることに慣れていない。試しにこのサイトでTシャツ買ってみようかという方にお伝えすると、利用方法は普通のECサイトのように買いたい商品をカートに入れて、購入フローに進むだけ。ただ、決済の画面ではQRコードが表示されるので、それを読み取りウォレットアプリで決済することでビットコインでの購入ができる。

 ここで買ったTシャツ。何年かの後に見直して「いまは当たり前だけど、これが初めてビットコインで買ったものなんだ~。」と感慨にふけるような世界になっているだろうか。

Written by
朝日新聞社にてデジタルメディア全般を手掛ける。「kotobank.jp」の創設。「asahi.com(現朝日新聞デジタル)」編集長を経て、朝日新聞出版にて「dot.(現AERAdot.)」を立ち上げ、統括。現在は「DG Lab Haus」編集長。