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意外と難しいAIによる物流現場の自動化への課題

NTTデータ デジタルコンサルティング統括部 川口有彦氏(左)と大野有生氏(右

NTTデータ デジタルコンサルティング統括部 川口有彦氏(左)と大野有生氏(右

 増える荷物、足りない人手。社会における懸案の中で、差し迫って深刻なのが「物流需給ひっ迫」だ。

 NTTデータは、そんな物流現場の課題解決をめざして「物流画像判別AIエンジン」を開発した。ディープラーニング技術を取り入れたAI(人工知能)を用いて、世に流通するさまざまな荷物の荷姿、寸法、取り扱い方法、汚れ、破損の有無など最大1000種類の特徴を、スマートフォンで撮影した画像から自動的に判別するという。

 NTTデータは物流大手である鈴与、佐川急便と実証実験を行い、その有用性を検証し「物流業務変革コンサルティングサービス」を開始した。その担当者であるデジタルコンサルティング統括部シニアコンサルタントの川口有彦氏と課長の大野有生氏に実証実験の成果や今後の課題を聞いた。

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――物流の現場ではすでにAIの活用は進んでいるのでしょうか?

「荷姿」という大きな課題があったと語る川口氏

「荷姿」という大きな課題があったと語る川口氏

川口有彦氏(以下、川口):ほぼゼロです。人手不足で物流クライシスだと騒がれたのが2017年。2018年も半分過ぎたこの時点でも、「経営者はやりたいと思っているんだけど現場は変わっていない」というのが実情です。

大野有生氏(以下、大野):流通現場(リテール)の取り組みは速いです。スーパーマーケットなどは「レジ打ちのスタッフが足りない」などと常に人手不足の課題があるわけです。それに対し、各社が無人レジなど取り組みを進めています。それに比べて物流現場では、自動化の取り組みは進んでいないですね。

川口:やはり「人手」で、深夜、早朝の仕分けや梱包の業務を頼っていることが多いようです。

―― 物流業界はまだまだこれからということですね。

川口:物流には大きく分けて「倉庫」と「配送」という2つの機能がありますが、両方とも自動化は進んでいません。唯一自動化が見込めそうなのが「自動運転」、つまり「配送」の部分です。高速道路の幹線輸送に関しては信号もなく一直線であることから、トラックによる自動運転の実現性がもっとも高い分野でしょう。経産省は2020年にトラック輸送の「隊列走行」実現化をめざしています。「配送」については自動化が進むことになるかもしれません。

大野:ただし技術的にできても、法令の整備はまだこれからです。法制度を変えていくのはまだまだかもしれません。

―― 物流の「配送」の方は多少先に進むとして、「倉庫」の部分はどうなんでしょう?

川口:物流系の事業者にとっては、一番抑えたいのがやはり配送コストなので、配車計画、つまり配送効率に関心が高いです。「倉庫」については、いまだに「人を増やして何とかしろ」という感じですね。

物流の自動化はまだこれからと語る大野氏

物流の自動化はまだこれからと語る大野氏

大野:一般的に物流コストの6割強は「配送」そして3割強が「倉庫」のコストだといわれています。なので、削減効果が高いのは「配送」で、事業者の関心事は「配送計画をAIで最適化する」というところです。大阪まで荷物を運んで(復路は)空気を運んで帰ってこないような配送計画をAIで作れたら、となります。

「荷姿」という物流現場独特の問題がある

―― そういう計算は、AIは得意では?

大野:実はAIを使う以前の問題なのです。中小零細さまざまな物流業者が何万といますが、一元的にそのトラックの運行を把握できるプラットフォームがありません。今そういうプラットフォームを作ろうとしている企業が日本13社あってそのうち10社はベンチャーです。しかしプラットフォームができたとしても、「私のトラックにはこれだけスペースが空いています」「乗せたい荷物の大きさはこれです」はい、マッチング成立、とはならないのです。

川口:問題は「荷姿」です。容量だけでははかれない。混ぜて運んではいけないものもあります。そのデータがとれていないんですよ。データさえあればマッチングできるのですが、その前に「荷姿」を認識したデータを貯めていくことが必要になります。

大野:そこで今回の実証実験です。ドライバーがスマートフォンで撮影するだけで、「荷姿」が把握できるわけです。段ボールなのか、タイヤなのか、不規則な形のものなのか自動でデータ化します。そういう情報をデジタル化していかなくてはならないというのがエンジン開発のきっかけです。

―― 「荷姿」の把握こそが、物流業務の自動化のキモということですね。

川口:物流では「荷姿」が全部違う。たとえば仕分けにロボットを使いたくても、次にどんな荷物が来るかわからない。つかみ方もわからない。人がやるしかないですよね。私たちはそのロボットの「眼」を開発したということです。でも、ネックになるのはロボットの遅さです。まだ、人間の方が5倍、10倍早かったりします。

技術的には確認がとれたが次は社会実装という課題

―― ロボットを動かしていくにはもう少し時間がかかるとしても、ドライバーがスマートフォンで荷物を撮影していくことによって、物流業務の効率化について見通しが立つのでは?

川口:それはそうなのですが、現実的にドライバーがその作業を行うことによってどういうメリットを得られるか、サービスを作らなくてはなりません。カンタンにいえば「みんなのために自分がなんでこれをやらなくちゃいけないのか」ということを納得できるサービス。

大野:今回の実証実験では、技術的に可能かということと、クルマと荷物のマッチングにおいて画像認識したデータをため込んでいければマッチング効率が上がるということは確認できました。

川口:それを現実的に行うにはドライバーが荷物をひとつひとつ撮影していかなくてはならない。どうやってこれを普及させるか、「社会実装」が次の課題ですね。

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 物流現場の課題解決のためにAIを活用するという試みについては有用性が確認されたという。しかし、技術的には可能だがビジネスとして社会に導入するためには次なる課題を乗り越えなくてはならないようだ。

 以前、食事の写真から、AIがそのメニュー内容を自動で判別し、食事成分や栄養素を自動で算出するサービスを取材した際も、AIに学習させるための、膨大な数の料理写真を人が撮影する作業が大変だというエピソードがあった。AI導入にあたって新たに発生する作業負荷をどのように簡略化することができるのか。あるいはAI能力を向上、活用するための単純作業は人間が担うことになってしまうか。人の労働環境の質の向上に役立つ技術を目指すなら、解決しなければならない共通の課題がここでも見つかった。これも実証実験の成果のひとつだといえるだろう。

藤木俊明 Written by
ライター、著者。有限会社ガーデンシティ・プランニング代表取締役。ICT関連から起業、中小企業支援、地方創生などをテーマに執筆活動を展開。著書に「マンガでわかる人工知能 (インプレス)」など。