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「規制と共存しなかったからこそインターネットの今がある」 村井純教授 NCC基調講演・インタビュー

基調講演を行う村井純慶応大学教授

基調講演を行う村井純慶応大学教授

 6月19日に東京六本木で開催された「THE NEW CONTEXT CONFERENCE 2018 Tokyo (NCC)」で午後の基調講演を行ったのは村井純慶応大学教授。「日本のインターネットの父」と称される村井教授は、約40年に及ぶインターネットの歴史と自身のかかわりをこの講演のなかで振り返った。その中で、かつてインターネット技術は博士号の対象とみなされなかったことや、1984年に当時は認められていなかった電話回線を介したインターネット接続をこっそりと行ったこと、さらにはこうした試みを陰ながら援助してくれた電話会社の人たちがいたというエピソードなどを紹介した。規制をかいくぐり、アカデミズムなど既存の権威を覆すことで、インターネットは普及してきた。

 この講演の締めくくりとして2016年に制定された「官民データ活用推進基本法」に触れインターネットが普及した今、次はその上を流通するデータをどのように活用するのかが注視されているとの認識も示した。講演後のインタビューでは基調講演を補う形で以下のような話を聞くことができた。

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村井純氏(以下 村井):インターネットの技術はどんどん発展してきて、今は「データの時代」になりました。そうすると、みなさんデータの中身をすごく気にするようになった。これまで、コンピュータやネットワークを全く気にすることがなかった金融や製造業の人たちも、今や逃れようもなくインターネットやデジタルデータの社会で生きることになりましたね。

基調講演を行う村井純慶応大学教授

基調講演を行う村井純慶応大学教授

 そうなると(これまでより)関心を持たなきゃいけない領域が増えてきて、こうした(ネットが普及した)世界を前提にルールや考え方を作り、次にまたそれを前提に技術を考える時代になってきたなと大変興味深く感じています。

――スタートアップが規制と共存する必要については?

村井:規制とは共存しない方がいいと思いますね。

 ルールは変えるもので、変えるための力をつけなければならない。今あるものの中にいると、どこへ向かうべきなのか何をすべきなのか分からなくなりますよ。(規制は)あんまり気にしない方がいいですね。でも規制はないものと思って動くと逮捕されますね。ルール違反で(笑)。

(今までのルールや決まりを変えるには)ぶつかり合いやコンフリクト(conflict)が多少は起こると思うんですね。そうなった時に一番大事なのは「自分が何をやりたいか」「だれのために何を作りたいか」を考えることなんです。

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 インターネットの草創期に参加した人たちに、こうした気持ちや価値基準がなければ、当時は違法であった公衆回線を使ったコンピュータのネット接続に踏み出すことはできなかっただろう。法律やルールはある時点では、混乱を整理し秩序を生み新たな技術やサービスを普及させる力になる。しかし、時間がたてば今度はそれが障壁となる。村井教授が歩んだインターネット普及の歴史からは、規制との賢い付き合い方も学ぶことができる。

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