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【後編】対談:田中信彦×高口康太 2018年の中国どんな状況? 米中関係、ユニコーン、スタートアップ…

田中信彦氏(右)と高口康太氏(左)

田中信彦氏(右)と高口康太氏(左)

北元 : 中国国内でのベンチャーへの投資についてはいかがでしょうか?ここまでに(前編)伺った話からすると、スタートアップへの投資は日本より遥かにギャンプル的なものになりますか?

田中 :  まさにそうですね。

高口 : ベンチャーキャピタル(VC)が整備されてまだ4、5年なんです。最初に結成されたファンドがまだ償還期を迎えていない。今年はVCの危機、曲がり角だといわれていて、VCにお金を入れる人が減っている。それが続くかどうかとうのが最近の議論ポイントですね。

田中信彦氏

田中 : 「量」で考える人たちですから、お金をたくさん持っている人たちはたくさん出す。日本だと、10億円投資しようという時は、50億円持っている人も1000億円持っている人も同じようなきびしさで検討しますよね。しかし、中国だと1000億円持っている人は10億円出すのはあまり気にしない。日本は仕組みと手続き重視ですからきちんとやる。事業計画を立てて考える。中国だとそんなに気にしない。中国だと、どこに行ってもどうして稼いだかは知らないけれど、ケタ外れのお金を持っている人が山のようにいるんですよ(笑)。

北元 : そういうお金がまだ回っていると。

高口 : そういう潤沢な資金に支えられて、中国のスタートアップが輝いているというのは間違いないです。スタートアップ業界の栄光が続くのか、それとも2018年が転換点だったのか、数年後にならないと検証はできないでしょう。

高口康太氏

 私が興味を持っているのが、今年は小米科技(シャオミ)などの大型上場が相次いだこと。中国のユニコーン(評価額10億ドル以上の未上場企業)に注目が集まりましたが、今年は上場が相次いで有力ユニコーンがだいぶ減りました。中国ではベンチャーキャピタルが活発で、有力ベンチャーは資金繰りに困っていない。上場は運転資金狙いの確保というよりも、出資者の利益を確定するという意味が大きい。これだけ大型上場が相次ぐと、「評価額を上げられるステージがそろそろ限界なので、利益確保をしておくべき」というトレンドが広がっているように感じます。

アメリカに対する複雑な感情も最後は「自分のメリット」がすべて

北元 : ひとつ気になるのが、アメリカのことを中国の人たちはどのように考えているのでしょうか

田中 : これはなかなか大きな問題ですよね。私の印象ですけど、ほんとに個人差が大きい。「中国人はこうだ」とは、くくりづらいですね。

北元 : 企業は危機感があるのでしょう?

高口 : それはありますよね。

北元 : 今もアメリカには多くの中国の方がいます。留学生もいますし、ITの分野で中核を担っている人も多いことでしょう。こうしたアメリカに今いる中国の人たち、これから留学しようかなと考えていた人たちのマインドっていうのはどうなんでしょう。抵抗感や忌避感はないのでしょうか?

田中 : 抵抗があるのはごく一部でしょう。

高口 : 国籍に対するこだわりはなく、米国籍を取ったとしても、中国人は中国人なので。

田中 : 全部、便宜的な話ですからね。

高口 : アメリカについては、世界最強の国であり、あこがれや尊敬の念は強いでしょう。

北元 : たとえばiPhoneを持つといったようなことに対してはどうなんですか?

田中 : 中国人でもお金のある人はiPhoneを持っていますよね。

高口 : 今はそういう(アメリカ製品の)ブランド・バッシングみたいなものはないですね。

田中 :アメリカはある種のあこがれで、敬意は持っている。その一方で、個人差はありますけれど、今問題になっているドルチェ&ガッバーナの問題が典型的ですが、 “外国にこの150年ぐらい理不尽なやり方をされてきた”という鬱屈した気持ちは、多くの人に共通してあることです。この2つが普遍的にある上で、「自分にメリット(実利)があるかどうか?」がカギになる。お金があって、自分の子どもの頭がよければ、やっぱりアメリカの大学で世界最先端の技術やアートを学ばせたい、世界に通用する人にしたい。自分のメリットのためには、けっこう融通無碍(ゆうづうむげ)に考えるわけです。これらが複雑に絡み合っている心理ですね。

 もう1つ、今の中国は、政府が「こうだ」という方針を示したら、それと明らかに違う意見を声高に言うことは現実的に難しい。メリットがないから言わない。今は日本が善玉になっていますから、日本をほめておいたほうがいい。そういうところには敏感で、今中国に日本人が行くと居心地がいいですよ(笑)。

高口 : 来年は習近平の来日も予定されていて、その傾向はさらに加速されるでしょう。

田中 : アメリカが技術出さないなら日本に協力してもらうぞと。

高口 : たとえば半導体の製造設備なんかは日本にはいいものがありますから、そういうところを買いたいなと思う中国企業はたくさんあるだろうし。

田中 : でも今、中国人がアメリカの悪口を言ったとしても、多少割り引いて聞かなくてはならないでしょう。政府がそう言ったなら、公的にはそう言うしかないのですから。

北元 : 日本にいると、いろいろ思い悩むことはあるわけです。たとえば5Gなどではファーウェイをアメリカは入れないといっている中で、日本はどうするのかとか。

高口 : 中国の企業は国外に進出してどうお付き合いするのかということには、意外と経験が足りない。その中ではファーウェイは百戦錬磨で、90年代から国外でやっている。彼らもロビー活動はしているのでしょうけど、今回については打つ手なしで、嵐が過ぎ去るのを待つしかないと言うところでしょうね。

パートナーとしての中国企業の難しさ

北元 : 最後にひとつ、日本のVCやスタートアップは中国に目を向けた方がいいのか、目を向けるならどういう風に向けたらいいのかお聞かせいただけますか?

田中 : どのぐらいのタイムスパンで見るのかという話だと思うんです。30年先を見るのなら、中国に張ってもいいんじゃないかと。

北元 : それぐらいのガマンを承知できるのだったら、張っておくのに損はない市場という感じですか?

田中 : その会社の株を持って、20年ホールドするとかであれば、当たったら大きいですよね。

北元 :投資する側としてはそう言うことですね。では中国で事業を起こすのはやはりきびしいですか?

田中 : うーん。投資側がいいんじゃないですか(笑)。

高口 : 田中さんがおっしゃったように、中国には“お金を出したい”ところはすごくあるので、今後、中国の色んなパートナーと結びついていくというのはあるのじゃないでしょうかね。中国企業が世界進出していくときに、たとえばTikTokなんかでもすごい量の広告をGAFAのプラットフォームに投下して伸ばしています。今、中国のプラットフォーマーもどんどん海外に門戸を開こうとしているので、そこを使える知恵とか手助けする人が必要になってくるかもしれない。でも、すごく大変そうですけどね(笑)。ちなみに「中国に信頼する人ができた。この人にすべて任せる」は、はっきり負けパターン。お互い強烈な利益関係で結びつかないと信頼が生まれません。

田中 : つまり、お互いにとってメリットのある存在であり続けないと関係が継続しないのですよ。中国はそれがほんとに強く、極めて合理的でドライ。ある意味日本と中国より、アメリカと中国の方が近いかもしれない。“あんたがいないと私はこれをできない。でも私がいなかったらあんたこれできないよね”という関係を常に構築しておかないと続きません。ただし、日本人はそういう関係を続けるのに慣れていなくて精神的にしんどい。とくに日本の組織に長く所属してきた人は、投資するにしろ、事業をするにしろ、中国でやっていくのはきびしいんじゃないですかね。

高口 : 中国市場に出た方がいいし、中国企業やVCからお金をもらえるようになったらいいかなと思うのですけど、現実はたいへんでしょうね(笑)。

田中 : お金をもらったら、それはそれで大変ですが、日本とは違う大きなチャンスがあるのも事実です。若い世代の人たちには国の垣根にとらわれず、むしろドライに協力関係を構築して、しっかり儲けてほしいですね。

北元 : 本日はありがとうございました。

* * *

対談を終えて

 この対談の前半では、中国国内で多くの時間を過ごしているお二人の目を通して、中国の何がすごくて、どの辺りに今後の課題がありそうなのかを、お話しいただいた。後半では「DG Lab Haus」の読者に向け、中国国内でのスタートアップ事情、特に日本から参入することに関する是非についてお二人の意見をうかがった。

 最後に、中国から見た米国を話題にしたのは、日本は先端技術分野でもつい米国寄りの視点でものを見がちになるが、中国企業が存在感を増していく今後はどうあるべきかということを考えるきっかけにしたいと思ったからだ。

 11月下旬に行われたこの対談でも話題にのぼったファーウェイに関しては、現在、米国などの政府機関から締め出されつつあり、日本もそれに倣うことになりそうだ。ただ、話にもあるように、だからといって全ての中国人が米国の存在を軽視しているわけではない。

 今後の中国との付き合いでは型通りの判断をしていると、大事な判断を誤るかもしれない。今回の対談ではお二人から判断の助けになる、多様な見方を提供していただけたと思う。

 

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