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技術の力で「言葉の壁」のない社会を 多言語音声翻訳 試作品(PoC)コンテスト

多言語音声翻訳 試作品(PoC)コンテスト

多言語音声翻訳 試作品(PoC)コンテスト関係者で記念撮影

 日本を訪れる外国人観光客や外国人労働者の増加に伴い、観光地や医療現場、教育現場、公共施設などさまざまな場所で、多言語によるコミュニケーションが求められるようになった。

 通訳者の需要は増える一方だが、あまりの急増ぶりに多言語に対応できる人材を育成が間に合わない。そこで注目を集めているのが、音声翻訳技術の多言語化対応の取り組みだ。

試作品を評価する審査員の面々

試作品を評価する審査員の面々

 2019年3月2日、東京・青山にあるTEPIAホールにて、総務省と国立研究開発法人情報通信研究機構(National Institute of Information and Communications Technology「以下、NICT」)が主催する「多言語音声翻訳 試作品(PoC)コンテスト」が開催された。

 NICTでは、音声からどの国の言葉なのかを判断する「多言語音声認識」や、「機械翻訳」、さらには翻訳した言葉を発音する「音声合成」などいわゆる自動翻訳に関するさまざまな技術を長年の間、研究、開発しており、これらの技術を活用したスマートフォン用アプリケーション「VoiceTra」を実証実験のために無料公開している。

 今回のコンテストは、同技術を活用した製品・サービスのアイデアや試作品を一般から募集することで、社会実装を促し、「言葉の壁」のない社会の実現を目指している。2019年1月には技術活用の「アイデア」を競うコンテストが開催された。今回はさらに一歩踏み込み同技術を組み込んだ「試作品」で競うコンテストが開催された。

 この日は全10組が持ち時間10分の中でバラエティに富んだ発表を行った。その中から表彰を受けたアイデアを紹介する。

* * *

 「教えて、プログラミング!」(開発者:西本匡志氏 NICT賞)は、技術者の間では広く知られているプログラミング情報サイト「Stack Overflow」での検索結果を、全て日本語で表示してくれる。「Stack Overflow」は日本語で検索可能な部分もあるが、英語の方がはるかに多くの情報を得ることができる。英語での検索や情報のやり取りが面倒だと感じていた日本のプログラマーには歓迎されるだろう。

 「明後日から期末テストがあります」と、会場を沸かせた現役中学生が開発した「写して翻訳」(開発者:河原慶太郎氏 TIS賞)は、スマートフォンカメラでレストランメニューなどを写すだけで翻訳ができるアプリだ。

「RINRIN」の開発者、仲村怜夏氏

「RINRIN」の開発者、仲村怜夏氏

 高校生の仲村怜夏氏が開発したのは「RINRIN」(開発者:仲村怜夏氏 DG Lab賞)という名前の翻訳機能付き防犯ブザー。緊急時にはブザーが鳴るとともに、契約している警備会社に通報される。またブザーで人を集め、音声翻訳ボタンを利用し、現地の言葉で助けを求めることができる。仲村氏は小型化などさらに改善をしたいと述べ、賞を贈呈したDG Labも協力を約束した。

 さらに車載カメラで海外向けライブ配信を行う際に使用するハンズフリーの翻訳機(開発チーム:Let’s meet in Japan 2020 )も「訪日観光促進にすぐ役立ちそうだ」とJ-TLAC(一般社団法人 日本観光地域活性化機構)賞を受賞した。

 教育現場の多言語化に対応した“連絡帳” 

多言語連絡帳「E-Traノート」を発表する若林氏

多言語連絡帳「E-Traノート」を発表する若林氏

 さまざまな試作品が発表される中、大賞にあたる「総務大臣賞」を受賞したのは、若林秀樹氏の「E-Traノート」だ。

 近年、教育現場では外国人の子どもたちが増えている。こうした子どもたちの保護者が話す言葉は英語以外にも多言語にわたり、先生とのコミュニケーションが難しいという。そこで若林氏が着手したのが、先生と保護者をつなぐ多言語連絡帳「E-Traノート」の開発だ。

 「E-Traノート」は日本語で先生が書いた連絡文、あるいは予め用意された、定型文を選んで保護者に送信することができる。これらのメッセージは、複数の言語に一斉に翻訳し送信でき、反対に保護者からの返信は、全て日本語に翻訳される。

「外国人の子どもは今後もっと増え,どんどん多言語化します。専門の先生に翻訳してもらうとか、通訳を頼むとか、今までのやり方では間に合いません。お金もかかるし、時間もかかる。誰かに頼るのはもう終わりです。『E-Traノート』があれば全ての家庭とスマートにつながれます」(若林氏)

 もともと中学校の教員だった若林氏は、外国人の子どもを10数年担当した後、大学の教員になった。その後、再び教育現場の実態を見る機会があり、「30年間何ら変わっていないことに憂慮を抱き、開発を始めた」と開発の動機を説明した。実際に外国人の子どもを担当する教員に「E-Traノート」を試してもらったところ、「今すぐほしい」という感想が返ってきたという。

 今回大賞を受賞した若林氏は受賞スピーチの中で、「今、3月の受験シーズンです。この3月にも言葉が通じなくて、進学できない外国人の学生が数え切れないほどいます。そういう子どもたちが少しでも減るよう、より良き日本の社会に向かって活用されればと思っています」と表情を崩さず述べた。

 

 

庄司健一 Written by
有限会社ガーデンシティ・プランニングにてライティングとディレクションを担当。ICT関連や街づくり関連をテーマにしたコンテンツ制作を中心に活動する。