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スマートシティは “エッジ”の高性能化が支える~NVIDIA IVA SUMMIT

エヌビディア合同会社 インダストリー事業部 シニアマネージャー 鈴木紀行氏

エヌビディア合同会社 インダストリー事業部 シニアマネージャー 鈴木紀行氏

 2019年3月2日、NVIDIA(エヌビディア)は東京・日本橋で「NVIDIA IVA SUMMIT IN JAPAN」を開催し、IVA(Intelligent Video Analytics : 映像解析)向け最先端技術の紹介と、同社パートナー企業の事例紹介を行った。

 NVIDIAによると、スマートシティ化により、街頭や住居の周りに設置されるカメラは2020年までに世界中で10億台に達するという。スマートシティ(NVIDIAは“AI CITY”と表現)の運営にカメラが果たす役割は大きい。しかし10億台ものカメラがネットワークに接続し、巨大なリアルタイム映像のデータを管理センター(防災・防犯など)に24時間365日送り続けるとしたら、ネットワークにとてつもない負荷を与えるだろう。通信コストの増加は想像もつかない。スマートシティ開発の大きな課題だ。

膨大な映像データ対策にはAIカメラ

エヌビディア鈴木紀行氏講演資料より

エヌビディア鈴木紀行氏講演資料より

 無数のカメラがネットワークに与える負荷を軽減するためには「エッジコンピューティング」の技術が重要となる。より端末に近い場所(エッジ)でAIによる判別や分析などの処理を行えば、それより上位のネットワークやシステムの負荷が軽減できる。

 この日NVIDIAインダストリー事業部シニアマネージャー鈴木紀行氏は「AI CITY(スマートシティ)を実現するために必要なのはエッジAI。つまり『AIカメラ』です」と話した。従来のようにカメラで撮った映像をネットワークで送り、クラウドでAIによる分析を実行する方式では、通信量は膨大になる。そこでカメラ側(エッジ)にAIを実装することにより、必要なデータだけを送信するようにし、通信量を抑える。

 現場での処理ということで言えば、自動運転の車両などでは、車に搭載されたカメラやセンサーから得られた情報を、車に搭載されたAIで処理しており、すべての分析、判断を通信経由で行っているわけではない。この分野ではNVIDIAの製品はトップランナーである。今後は自動運転車だけではなく、スマートシティの各所にあるカメラの画像の分析処理もエッジAI活用の場となる。そこでもハイパフォーマンスな同社のGPUが活用できるというわけだ。

群衆の中の個人も認識

丸紅OKIネットソリューションズ株式会社 パートナー事業本部 副本部長 栗原希典氏

丸紅OKIネットソリューションズ株式会社 パートナー事業本部 副本部長 栗原希典氏

 その一例として、この日登壇したNVIDIAのパートナー企業、丸紅OKIネットソリューションズの栗原希典氏は、AI処理と通常監視の併用が可能なAIカメラ「TRASCOPE-AI」を紹介した。この製品はカメラ側に顔認証や車番検知、属性分析などさまざまなアルゴリズムを内蔵している。加えて「行動認証+骨格推定」ができるというところが特徴だ。

 これはAIが映像の背景を学習し、降雨などの急激な背景画面の変化だけでなく、日が照ったり陰ったりなどの緩やかな変化も除外して、人や車両など移動体のみを検知する事ができる(行動認証)。さらに、人間の17部位の骨格を静止画や動画から推定で(骨格推定)、これにより、集団で移動する人と人が重って映っているような動画の場合でも、ひとりひとりを識別できるという。この技術は、「鉄道(踏切監視)」「道路交通(危険横断)」「危険物置き去り検知」などに活用される。

エッジ処理でプライバシー保護も

 続いて登壇したNVIDIAのパートナー企業、クラウディアン株式会社の太田洋氏も、「高精細な映像をクラウドに送ることは困難です」と述べたうえで、速度/回線容量不足、遅延時間そして通信コストの増大という課題に対しては、「高度な分析処理はエッジで実行することです」と話した。

 同社では「AI Box」というエッジ端末を製造している。この製品には監視カメラが捉えた鮮明な映像を現場で高速処理するためのGPUとして、NVIDIAの組み込みモジュールが採用されている。太田氏は、開発中の渋滞監視・緩和ソリューションでの応用事例を紹介した。物流センターや産廃処理場など車両の往来が激しい大型施設に、渋滞監視用のAIカメラのシステムを設置する。AIカメラは撮影した画像そのものではなく、画像から解析した交通量などのデータを車両管制システムに送る。このデータを元に施設内の車両管制が行われることになる。

 さらに太田氏はエッジAI分析のメリットとして「通信データ量とコスト削減効果だけでなく、プライバシー保護の側面があります」と続けた。多くの人物が映り込んでいる映像も、エッジAIによる分析で、人物映像(個人の顔情報)を残さずCSVなどのデータだけをクラウドに送ることができる。例えば同社の技術は、交差点で行われている交通量調査のソリューションとしても活用されているが、「誰がいつどちらに向かった」ということがはっきりと分かる画像データを大量に流通、収集することなく、交通量のデータのみをやり取りすることができる。

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 カメラの設置数増に伴う、画像データの爆発的な増加によるネットワークの負荷などの課題は、5G導入で大幅に改善するという期待があったはずだ。しかし、5Gの普及までにはまだかなりの時間が必要となる。また、5Gにより通信回線が大容量化していく過程でも、通信回線の幹線から分岐するカメラなどの端末までの間、いわゆる「ラストワンマイル」までがすべて、高速・大容量化されるのは、かなり先のことになるだろう。こうしたことからエッジAIというアイデアは当面最も有力な現実解となることは確実で、エッジ処理関連の技術は今後ますます発展していくものと思われる。

藤木俊明 Written by
ライター、著者。有限会社ガーデンシティ・プランニング代表取締役。ICT関連から起業、中小企業支援、地方創生などをテーマに執筆活動を展開。著書に「マンガでわかる人工知能 (インプレス)」など。