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異なる世界から自動運転プラットフォームの覇者をうかがうNVIDIA 

エヌビディア「GTC Japan 2018」

エヌビディア「GTC Japan 2018」

 自動車業界には「CASE(コネクテッド、自律走行、シェアリング、電動)」と呼ばれる新潮流が押し寄せている。とくに自律走行つまり自動運転についてのニュースを見かけない日はないほどだ。こうしたニュースの主役は今のところ従来の自動車メーカーである場合が多い。しかし、その自動運転の「土台(プラットフォーム)」を提供するのは、家電やAVがそうであったように、新しい勢力が主役の座を占めるかもしれない。

 AI(人工知能)に活用されているGPU(高機能なグラフィックス・プロセッシング・ユニット)を開発・販売する米国の半導体メーカーNVIDIA(エヌビディア)は「GTC Japan 2018」(9月13日~14日)を開催し、多くのパートナー企業とともにNVIDIAの最新技術・製品が紹介された。

 創業者&CEO ジェンスン・フアン(Jensen Huang)は、基調講演の中で同社の「NVIDIA DRIVE」は自動運転レベル5(運転手なし・全自動運転)を可能にするプラットフォームであると述べ、すでにトヨタとの協業を進めているが、いすゞ自動車もNVIDIA DRIVEプラットフォームを次世代型の自動運転トラックの開発に導入すると発表、また、スバル、ヤマハもNVIDIAのプラットフォームを採用するという。

 フアンCEOの基調講演のあと、エヌビディア技術顧問馬路徹氏による「自動運転車からサポート・クラウドまでのトータル・システム」と題したセッションが開催された。

 馬路氏はCEOの発言を念押しするように「NVIDIA の DRIVEプラットフォームは自動運転のレベル 5を実現する」とあらためて語ったうえで、自動運転は DRIVE プラットフォームのみでは実現できるものではなく、車も情報機器のように、データセンター、クラウド・サーバー等のインフラのサポートが不可欠であり、NVIDIAはそれらをも行なうと説明した。

複雑なラベリング作業を説明する馬路氏

複雑なラベリング作業を説明する馬路氏

 同氏の講演では、自動運転におけるAI学習のデータ量が示された。テスト車10台を走らせるとデータ量は数百ペタバイト(1ペタが1,024テラバイト)に及ぶ。その中の画像数が数十ビリオン(1ビリオンが10億)、その中で使える画像を1500名のスタッフがラベリング(何が映っているか判断し適切に分類)し、1ヶ月に約100万の学習データ画像を取得しているという。

 複雑なラベリングについても具体的な説明があった。馬路氏はスクリーンを示しながら「路肩にたくさん車が止まっていますが、これもぜんぶラベリングします。見にくい交通標識もすべて網羅します」と語り、この高画質のデータベースがディープラーニング(深層学習)の価値だと続けた。

 馬路氏によると「自動運転車の開発には約110億マイルの走行が必要といわれますが、たとえば100台のテスト車で24時間365日走らせて518年かかる」という。そこでNVIDIAは精巧なシミュレーションシステムを構築し、リアルタイム走行の10倍、100倍の高速で自動運転チェックをおこなっている。自動運転シミュレーションにおいては、パトカーに追いかけられるなど、実走行車では再現がむずかしい危険なケースも試行できる利点がある。ウーバーの死亡事故を受けて、今後「自動運転車の免許証」が発行されるとすると、シミュレーションによる自動運転のバーチャルテストと実技車両の実技試験が義務化される可能性もあり、シミュレーション技術は重要なものになると強調した。

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メディアの質問に回答するダニー・シャピーロ氏

メディアの質問に回答するダニー・シャピーロ氏

 講演の後、NVIDIAオートモティブビジネスユニット シニアディレクター ダニー・シャピーロ(Danny Shapiro)氏とのQ&Aセッションが設けられた。ここにはIT業界メディアに加え自動車関連メディアの記者も多く参加しており同社への幅広い業界からの関心がうかがえた。

 また同時に警戒感も感じられ「NVIDIAで何でもできるように聞こえるが自動車メーカーは何をするのか?」という質問も。シャピーロ氏は、NVIDIAは拡張性のあるプラットフォームを提供するがアプリケーションは作らない、お客さまのアプリケーション作りに役立てて欲しいと答えつつ、「私どもはティアワンといわれるサプライヤーと密接な関係性を持っています。ただ製品を売るだけではなく、われわれのエンジニアとサプライヤーのエンジニアとの協業を行いたい」と続けた。

 さらに「やはりどこかで自動車メーカーに(技術的なことを含む総合的な開発を)渡さざるを得ないのではないか?」という質問があったが、シャピーロ氏は「NVIDIAが提供するのはフレームワークの部分です。そして、自動車メーカーのネットワーク上で開発されたものに、NVIDIAも協力してお互いにチェックし合う。ダブルチェックをし合うことによって安全性を担保することはできるでしょう」と無難にこれをさばいた。

『TIER Ⅳ』GPUを用いてカメラとLiDAR出力から周辺環境を把握 

『TIER Ⅳ』GPUを用いてカメラとLiDAR出力から周辺環境を把握

 このようにメディアセッションではNVIDIAの技術にとどまらず、次世代の自動車業界の役割分担への質問なども取り混じったが、シャピーロ氏は丁寧に回答を続けた。

 自動車メーカーがこれまで積み上げてきた自動車作りのノウハウや膨大な知見は誰もが認めることで、それが現在の自動車産業を支えている。しかし、異なる分野から新たに参入し、新しい技術や知見を持つものがパラダイムシフトを起こす例をわれわれは幾度も目にしてきた。馬路氏の言葉からも、シャピーロ氏の口調からも、NVIDIAが自動車業界の既存秩序に変化をもたらす予感を感じた参加者は少なからずいたのではないだろうか。

藤木俊明 Written by
ライター、著者。有限会社ガーデンシティ・プランニング代表取締役。ICT関連から起業、中小企業支援、地方創生などをテーマに執筆活動を展開。著書に「マンガでわかる人工知能 (インプレス)」など。