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LINE対ソフトバンク!モバイル決済「焼銭大戦」で漁夫の利を得るのはアリペイ?

日本でもアリペイが利用できる店舗は増えつつある

日本でもアリペイが利用できる店舗は増えつつある

 日本にもようやく「モバイル決済元年」が到来しそうだ。

「お隣の中国では物乞いまでモバイル決済でお金をもらっているというのに、日本人は現金信仰が強すぎる」という嘆きは、誰もが一度や二度は聞いたことがあるのではないか。日本にもさまざまな決済アプリが登場してきたが、普及したとはいいがたい。

 人間は怠惰な生き物である。決済に限らず、新たなアプリやサービスを覚えるのは面倒だ。きわめて高い利便性があるか、はたまた強力なプロモーションが行われるか。どちらかがなければ、新しいサービスが普及するのは難しい。これまでのモバイル決済はその条件を満たしてこなかったのだが、ここにきて状況は変わりつつある。そして2018年は「モバイル決済元年」になるのではないか。

「アリペイデー2018」会場写真

「アリペイデー2018」会場写真

 こうした印象を持ったのは9月5日にアントフィナンシャル社が主催するイベント「アリペイデー2018」に参加したためだ。アリペイを導入した企業の担当者による講演など、中国人観光客のインバウンド需要取り込みが主なテーマだったが、ソフトバンクとヤフーが手がける「PayPay」の中山一郎社長、LINE Payの長福久弘COO(最高執行責任者)が登壇。ライバル同士が熱い火花を散らした。

LINE Payが用意する強力なユーザーインセンティブ

 先に登壇したのはLINE Payの長福COOだ。個人間送金を試すとクーポンや10万円があたるくじがもらえる「送金ピンポン」などのキャンペーンが成功し、LINE Payの日本国内登録ユーザーは3000万人に達したという。LINE Payを使った送金回数は2018年4月、前年同月比で2.8倍、QRコード決済の利用回数は11倍を記録した。

 キャッシュレス決済の鍵を握るのは、中小の企業や小売店に普及するかどうかだ。そこで初期費用ゼロ、手数料ゼロ(2021年7月までの期間限定)のプランを打ち出した。タダで導入できるのだからどうぞというわけだ。

 さらにユーザーにも最大5%のポイントバックが受けられるという、強力なインセンティブを用意している。クレジットカードでは1%前後のポイントが相場であることを考えると、ずば抜けた還元率だ。

 シェアを取るために赤字覚悟の競争をくり広げることを中国語で「焼銭」と言う。採算度外視の価格競争、キャンペーンによって新しいサービスがあっという間に普及する。これが中国経済のダイナミズムを生み出した原動力の一因だ。モバイル決済もそうだ。例えばアリペイには「春雨計画」という加盟店拡大キャンペーンがあり、利用件数、利用金額に応じて加盟店にキャッシュバックを行っている。その予算は3年間で10億元(約164億円)。膨大なマネーを溶かしながら、デファクトスタンダードの地位を築いた。

 保守的な日本市場では「焼銭」がくり広げられる機会はそう多くはないが、LINEはモバイル決済という戦場に資金を注ぎ込む覚悟を見せた。キャンペーンで一定のユーザーを獲得することに成功したとして、今後は「キャッシュレス2.0」を目指す方針を示している。たんにスマホでお金を支払えるだけではなく、集客や在庫管理など決済に紐付いた付加価値の創出に挑む。モバイル決済は入口だ。この入口からさまざまなサービスにつなげていく、獲得したデータを活用していくことで新たな価値が生まれる。LINE Payの戦略は明確だ。

ライバルPayPayの「焼銭」キャンペーン展開

 続いて登壇したPayPayの中山社長のプレゼンも強烈だった。PayPayはソフトバンクとヤフージャパンが50%ずつ出資しているが、加えてインドのモバイル決済企業「paytm」が技術協力を行っている。Paytmは中国のアントフィナンシャルと提携しているため、いわばアリペイの技術をインド経由で輸入したようなものだ。それだけに技術、ノウハウの面では大きなアドバンテージがある。

 すでに多くのユーザーがインストールしている、ヤフージャパン・アプリからもPayPayが利用できるようにするため、利用のハードルが低い。

 さらにソフトバンクの営業力を最大限に活用するという。まだサービスインの時期が決まっていないにもかかわらず、全国20カ所に営業拠点を整備。ローラー作戦で加盟店開拓を進めていくという。

 この日発表された先行加入キャンペーンの内容がすさまじい。先着30万店舗(!)の加盟店にはPayPay決済額の1%が還元されるキャンペーンが行われる。決済手数料を負担するどころか、むしろもらえるお金が増えるという驚異のキャンペーンだ。この加盟店向けのキャンペーン以外に、ユーザー向けには別のキャンペーンが予定されている。LINE Payを上回る、強烈な「焼銭」を予告したわけだ。

 モバイル決済で先行する中国では、アリババグループ系列のアリペイとテンセントのウィーチャットペイという二大サービスの競争が業界を活発化させてきた。LINE PayとPayPay、さらには楽天Payやメルペイといったプレイヤーたちの戦いを通じて、日本のキャッシュレス化が急速に進展するのではないか。そうした期待感を強く抱いた。

 ところで、LINE Pay、PayPayともにアリペイとの提携を表明しており、両サービスの加盟店の大半でアリペイが使えるようになり、1年もすれば、中国人は現金いらずの日本旅行が可能になるかもしれない。日本で開戦した「焼銭大戦」で漁夫の利を得るのはアリペイなのかもしれない。

高口康太 Written by
ジャーナリスト、翻訳家。 1976年生まれ。二度の中国留学を経て、中国専門のジャーナリストに。『ニューズウィーク日本版』『週刊東洋経済』など各誌に多数の記事を寄稿している。著書に『なぜ、習近平は激怒したのか――人気漫画家が亡命した理由』(祥伝社)、『現代中国経営者列伝』(星海社新書)。