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テレイグジスタンスによる世界初「遠隔旅行体験イベント」で見えたこと・見えないこと

量産型プロトタイプMODEL H_01

量産型プロトタイプMODEL H_01

 5G時代を視野に入れた、さまざまな技術やサービスが登場している。注目されるもののひとつがテレイグジスタンス(遠隔存在)技術だ。これはVR界の第一人者、舘暲(たち・すすむ)東京大学名誉教授が1980年に発表したもので、ロボットを自分の身体とする(憑依する)人間の存在拡張技術である。研究開発が続けられ、近年のVR時代の到来とともに注目を集め、2017年大学発ベンチャーとしてTelexistence(テレイグジスタンス)社(東京都港区)が設立された。

 9月18日、テレイグジスタンス技術を用いた「小笠原の魅力に触れる遠隔旅行体験イベント」が東京・竹芝で開催された。これは、小笠原村観光局(東京都港区)、Telexistence、竹芝エリアマネジメント(東京都港区)が、JTB(東京都品川区)とKDDI(東京都千代田区)とともに企画したものであり、当日は一般参加者による「遠隔旅行体験」の模様が公開された。

没入感を高める「触覚」の役割

テレイグジスタンスによる遠隔旅行体験中の一般参加者

テレイグジスタンスによる遠隔旅行体験中の一般参加者

 一般参加者はゴーグルをかけ、所定のグローブをつけて、スクリーンに投影される小笠原村にあるロボットMODEL Hとネットワークを通してつながる。ロボットが自分の分身となり、そこに「憑依」した状態となる。女性ナビゲーターが「ご自分の姿を見てみますか?」と促すと、自分が憑依した小笠原村のロボットが鏡に映される。一般参加者は、遠く離れた小笠原村で自分の姿がロボットになってしまっていることを確認するのだ。

 そして、まず小笠原村の女性ナビゲーターとスクリーン越しに挨拶し、握手。すると、実際の相手の手の感覚がグローブを通じて伝わる。ついで亀の飼育センターに移動(自走ではなくスタッフが手伝う)、ロボットである自分が亀に触れたり、エサを投げたりを体験する。

一般参加者がロボットに憑依した自分の姿を鏡で見る

一般参加者がロボットに憑依した自分の姿を鏡で見る

「遠隔旅行体験」終了後、参加者からは「非常にリアリティがあった」「ほんとうに行ったような感じがした」「VRを体験したことはあるが、(今回のような)感覚(知覚)があるととても没入感がある」など好意的なコメントが相次いだ。しかし、亀を触る体験については、あまりうまく感じられなかったとか、今回は椅子に座っての体験であったが立って試したかったなどの意見も出た。やはり、自分で歩き回る感覚が欲しいのだろうか。

4G環境での実施はほぼ成功、待たれる5Gネットワーク環境

「小笠原への遠隔旅行体験」のお披露目につづいて、関係者の説明と質疑応答の場が設けられた。小笠原村観光局の根岸康弘事務局長は、世界自然遺産に登録されて以降、小笠原諸島への観光客は増加したが、最近は頭打ちと述べる。同じ東京都港区でありながら、竹芝から週に1度しかない船便で片道24時間かかる上、空路もない。今回のテレイグジスタンス技術では、今まで伝えることが不可能だった「触覚」を一般消費者に体験してもらえる。この「遠隔旅行体験」を通じて、広く小笠原村に興味を持っていただきたいと結んだ。

Telexistence 富岡仁CEO

Telexistence 富岡仁CEO

 ついでTelexistence 社CEO富岡仁氏が「離れた場所にあるネットに接続したロボットから、視覚、聴覚、触覚が人間に伝えられ、それに対しての人間の動きをまたロボットに返すことにより、ロボットが実際の作業やコミュニケーションを行なうもの」とテレイグジスタンス技術を簡単に説明。事業例として「体験の拡張」(スポーツ選手、冒険家の体験、さまざまな職業の体験、動物やロボットの体験)「共同作業、能力の伝達」(遠隔手術、土木建築、技能の伝承、被災地支援)「存在の拡張」(学会への参加、出張の代理、危険な場所での作業)などをあげ、時間や場所の制約という課題を「体験の拡張」で解決したいと語った。

 JTB東京交流創造事業部事業部長池田伸彦氏は、今回のテレイグジスタンス技術を使っての遠隔存在旅行体験は、おそらく世界初の試みではないかと述べ、「旅行業界において時間と距離の制限がなくなるということは、旅の体験というものが変わるタイミングが来たのではないかと思う。本日は新しい価値を生み出す記念すべき瞬間だ」と感慨深げに話した。

 KDDIライフデザイン事業本部ビジネスインキュベーション推進部長の中馬(ちゅうま)和彦氏は、そもそも通信とは離れた相手とのコミュニケーションであり、電話からテレビ電話へと発展してきたと述べる。そして、今回のテレイグジスタンス技術は「まさに距離を超えるという新しい体験を提供」と語った。

 しかし実験の最中、スクリーンの画像が不安定になる部分もあった。今回の通信環境について質問したところ、中馬氏は4G有線であり150~200ms(ミリセック=1000分の1秒)程度の遅延があったと述べた。5Gが商用化すればこの遅延を100ms以下にできるだろうとのこと。虎ノ門のKDDIデジタルゲートでは5G環境で動かせるのだが、とつけ加えた。やはり5G環境によって本領を発揮するサービスモデルと思われる。

 4Gであってもここまでできることが見えたのは収穫だろう。しかしテレイグジスタンス技術の用途で、大きな期待を寄せられる「遠隔手術」のような複雑な作業では、ちょっとした遅延やエラーは命取りになりかねない。

 はるか海上に浮かぶ秘島でのスムーズな遠隔旅行は5G環境の構築・普及が期待通りに進むのかどうかだが、それについては海霧の向こうで、まだはっきりとは見通せない。

藤木俊明 Written by
ライター、著者。有限会社ガーデンシティ・プランニング代表取締役。ICT関連から起業、中小企業支援、地方創生などをテーマに執筆活動を展開。著書に「マンガでわかる人工知能 (インプレス)」など。