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撮影も原稿もECサイトの定形作業をAIで 〜“ささげ業務”を自動化する「SASAGE.AI」

アパレルECサイトにおける「ささげ業務」を自動化する「SASAGE.AI」を開発した、Makip社CEOの柄本真吾氏

アパレルECサイトにおける「ささげ業務」を自動化する「SASAGE.AI」を開発した、Makip社CEOの柄本真吾氏

 テクノロジーと既存ビジネスと組み合わせる動きのひとつとして注目を集めているのが「ファッションテック(FashionTech)」だ。ファッションテックとは、「ファッション(Fashion)」とテクノロジー(Technology)を組み合わせ、商品作りや流通、販売システムなどファッション業界全体に大きな変革をもたらす動きを指す。

「SASAGE.AI」についてインタビューに答える柄本真吾氏
インタビューに答える柄本真吾氏

 例えば、昨年話題になったドットマーカーがついたボディスーツを着て、スマートフォンカメラの撮影で体型サイズを採寸する「ZOZOSUITS」もそのひとつ。このほかにも、ECサイト上で服を購入する際に、サイズに関する簡単なアンケートに答えると自分に合うサイズを提案してくれる株式会社メイキップ(以下、Makip)の「unisize」や、専用アプリケーションと先端プリント技術により利用者がデザインしたアイテムをその場(店頭やイベント会場など)で作り提供する株式会社YR Japanの「YR LIVE」など、さまざまなサービスが生まれ、消費者の購買行動やメーカーの商品開発などに影響を与えはじめている。

 こうした中、2018年12月に提供が開始され、アパレルECサイト運営者の負担を減らせるのではと期待されているのが、Makipが開発した「SASAGE.AI」だ。

 アパレルECサイトの運営で避けて通れないのが「ささげ業務」という作業だ。これは、商品をカメラで「撮影(さつえい)」し、サイズを「採寸(さいすん)」し、商品紹介の「原稿(げんこう)」を作成する作業を指し、これらの作業の頭文字を合わせて「ささげ業務」と呼ばれている。「SASAGE.AI」はこのささげ業務をAIで自動化する。

「SASAGE.AI」は、アパレルECサイト運営者にどのようなメリットをもたらす技術なのか。CEOの柄本真吾氏に聞いた。

商品の撮影だけでOK

 アパレルECサイトで商品を販売するときには、詳細を伝えるための商品ページを作らなければならない。具体的には、まずカメラマンが商品を一点一点撮影し、撮り終えた商品を運営スタッフが採寸して一覧表などにその数値をまとめる。並行してライターが商品を見ながら、その特長や着用シーンなどを文章化する。これら全ての作業がささげ業務となる。

 商品数が増えれば増えるほどささげ業務は増大し、担当スタッフの負担は重くなる。筆者も以前、アパレル商品を扱うECサイトの運営会社で、ささげ業務の一部を担当していたが、一度に数百点以上入荷してくる商品に対し、数名のスタッフが(徹夜もしつつ)一週間ほどかけて対応するのが常だった。ECサイト間の激しい価格競争により、新たなスタッフを雇うこともできず、現場は慢性的に疲弊した状態が続いていた。

 このように手作業で行っていたささげ業務を、AIや画像解析技術を活用し、自動化するのが「SASAGE.AI」だ。具体的な手順はこうだ。まずは、ドットが等間隔に並ぶドットシートを背景に、商品の吊るし画像をカメラで撮影する。その画像をMakipのクラウドサーバーに送ると、AIがその画像を解析し、モデル着用イメージ(撮影)、着丈や身幅、胸囲などの採寸データ(採寸)、洋服の特徴を伝えるための説明文(原稿)を自動生成して戻してくれる。

 ECサイトの運営スタッフは「SASAGE.AI」を利用することで、これまで手作業で行っていたささげ業務の大部分を自動化でき、商品紹介ページを作る手間を大幅に減らせるというわけだ。

「SASAGE.AI」は、商品画像から「モデル着用イメージ」「採寸データ」「説明文」を自動生成する(画像提供:Makip)
「SASAGE.AI」は、商品画像から「モデル着用イメージ」「採寸データ」「説明文」を自動生成する(画像提供:Makip)

では「SASAGE.AI」はどのようにして、ささげ業務を自動化しているのだろうか。

 柄本氏によると、モデル着用イメージの作成では、AIが洋服(商品)の画像を認識し、それに合った体(3Dモデル)がどういうものかを解析し画像を合成しているという。採寸では、AIに商品の背景に置かれたドットシートと商品を比較させ、さまざまな部位のサイズを測っている。

 説明文はどのように作成しているのだろう。柄本氏は、「SASAGE.AI」には、事前にたくさんの商品(服)画像を学習させているという。AIはこの学習データをもとに、例えばワンピースの画像であれば、カテゴリーは「ワンピース」、着用シーンは「お出かけ、休日」、色は「ブラック」など服の特徴を要素分解し、その要素をつなぎあわせて文章化する。

「このため『SASAGE.AI』では、『形態安定のシャツ』など画像から読み取れない要素は文章化できません。ですから実際には、ライターが作成する7割ぐらいを原稿化する感じでしょうか。そこに形態安定などプラスαの要素を追加してもらう形で、作業時間の削減につなげています」(柄本氏)

古着販売がより簡便に

 2018年12月に提供が開始された「SASAGE.AI」だが、すでに複数社で導入が進んでいる。「SASAGE.AI」で原稿作成を自動化したアパレルECサイトの担当者からは、「ストレスが大幅に減った」などの声が届いているという。

 さまざまなアパレルECサイトから反響があるが、「特にブランド古着などを扱う二次流通系会社からの引きが強い」と柄本氏は話す。

「メーカーはどちらかというと、ひとつのアイテムを量産し、利益率も高いため、ひとつひとつの商品に対してささげ業務の工数をしっかりとかけることができます。一方、古着などを扱う二次流通系のアパレルECサイトは、アイテム数が多く、利益率もそこまで高くないため、ささげ業務に工数をかけることが難しい。そこで、ささげ業務を自動化できる『SASAGE.AI』に興味を持つ会社が多いようです」(柄本氏)

* * *

 ファッションテックの動きは、今後どのような方向に進んでいくのだろうか。ファッションテック開発に携わる当事者として意見を求めたところ、柄本氏は、「直近は『SASAGE.AI』のように、『人がやっている(単純)作業を機械が代替する技術』がどんどん出てくるが、2、3年後には、コーディネートやデザインなど『人が感覚でやっている職人作業』も機械が代替するような時代になると思う」と見通しを語ってくれた。

 実際、ファッションのトレンドを予想するMD(マーチャンダイザー)の仕事ではすでに変化が起こってきており、これからどのようなファッションが流行るのかといった分析は、ニューラルポケット株式会社の「AI MD」などが代替しはじめている。

 このように人が行っていたことを機械で代替する動きが進む一方で、ECサイトの最大手であるアマゾン・ジャパンは、2019年3月15日にアパレル商品専用の撮影スタジオを東京・品川にオープンした。総面積7500平方メートルの巨大なスタジオで、年間100万点以上の商品画像や動画の撮影を行う。つまり“人手”による商品画像(動画)の制作に力を入れ始めた格好だ。

 一昔前はファッション誌がメーカー連携をとりつつ商品を紹介し、売れ筋を作ってきた。そこにユニクロなどの製販一体のプレーヤーが登場。業界の勢力図が大きく変わり、さらにはリアル店舗からECへと販売の場も変化しつつある。そこにファッションテックの動きが加わることになれば、ファッション周辺のビジネスはさらに大きな変化をとげることになるだろう。

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有限会社ガーデンシティ・プランニングにてライティングとディレクションを担当。ICT関連や街づくり関連をテーマにしたコンテンツ制作を中心に活動する。