「CES Asia 2019」が6月11日〜13日まで中国・上海で開催された。1月にラスベガスで開催された世界最大級の家電見本市「国際コンシューマー・エレクトロニクス・ショー(CES)」と同じく全米民生技術協会(CTA)が主催するCESのアジア版は、今年で5回目の開催となる。
上海新国際博覧中心で開催され、その規模は本家ラスベガスと比べると小ぶりではある。とはいうものの日本の幕張メッセと同等規模の広さの会場には中国の国内企業を中心に、7カ国、550以上の出展があり、その中には日本や米国、欧州の企業の姿もあった。
会場となった全6ホールのうち2つのホールが、自動車関連の展示に当てられており、そこでは通信や家電の出展エリアに比べると日本、韓国、欧州の企業の出展が目立った。中国は、補助金など政府の後押しもあり、EV(電気自動車)、コネクティッドカーの先進地だ。これまで自動車市場では海外の企業が大きなシェアを持っていたが、最近では中国国内企業、それもスタートアップが続々と参入で、他の国とは異なった様相を呈している。
クルマの世界でもIT企業とスタートアップ
今回のCES Asia では“中国版テスラ”としてすでにその存在が知られているNio(上海蔚来汽車)やBytonなどすでに中国外でも知られるEVメーカーの出展はなかったものの、ENOVATE(天際汽車)やWM-Motor(威馬汽車)など、ここ数年で現れたEVのスタートアップ企業がアウディや日産と同じような広さのスペースで出展していた。これらの企業はインターネット業界のスタートアップと同様の手法で多額の資金を集め、IT企業のようなスピード感で試作車を作り出す。こうしたメーカーが作るクルマはまさに“タイヤのついたIT機器”で、デザインや機能も片時もスマホが手放せない中国の若い世代に好まれるものとなっている。
さらに、中国のITの巨人たちもこの分野では存在感を見せていた。Baibu(百度)は同社が開発したAIアシスタント「小度」をクルマにも搭載。日本では「検索の会社」として知られている同社は、中国では自動運転プロジェクト「Apollo」を推進するAIを駆使した自動車技術の企業だ。車載のAIは顔認識によるセキュリティや運転者のコンディションの把握、さらには車内で乗客とのコミュニケーションまでを受け持つ。スマホでできることすべてを、そのまま車内空間に持ち込もうという戦略だ。
Baiduは、自社の仕様を車載AIのプラットフォームとして普及させるために、オープンプラットフォーム方式を採用している。さらに、同社は前出のWM-MotorなどのEVスタートアップにも投資しており、そうしたメーカーが作るEVにはBaiduのAIが搭載される。
追いかける側の日本
転じて日本企業。今回のCES Asiaで、ホンダは中国のテック企業と提携をすることを公表した。その1社は人工知能による言語解析・音声応答で中国のトップ企業であるiFLY TECH。さらにもう1社はアリババグループで、アリペイ決済や音声応答の技術を導入し、車内から駐車料金の支払いなどがスムーズに行えるようにする。
ホンダ中国の担当者に話を聞いたところ、次世代のクルマということではすでにかなりの出遅れを感じているという。
「NioやBytonなど中国のEVメーカーは、とにかく(開発の)スピード早い。新車の開発などこちらが2年以上かかってやっているのをあっという間に作ってしまう」
さらに、中国の若い世代は生活のあらゆるシーンでスマホを活用しているので、クルマにもそうした機能が期待されているという。運転をサポートしてくれる機能はもちろん、車内がネット空間とつながり、日常生活を切れ目なく続けることができる環境が求められており、これらを素早く実現するには中国のIT企業との協業が必要となる。
こうなると日本の企業の出番は少なくなるばかりに思えるが、クルマの基本である「走る、曲がる、止まる」ということでは日本メーカーに一日の長がある。さらに耐久性や、振動や騒音を抑えた乗り心地の良さなどクルマに消費者が求めるものは多く、こうした点では中国側はまだ日本には及ばない。
* * *
自動車産業はホンダのような完成車メーカーを頂点とし、そこに部品を納入する企業群があるというピラミッド構造となっている。しかし、今後この秩序は徐々に崩れて行くだろうことは容易に想像できる。
日本では「トヨタに匹敵する企業になる」というスタートアップはあまり見かけないが、中国には規模や設備の面でも既存のメーカーに迫ろうというスタートアップが出てきた。CES Asia 2019の会場でひときわ大きな展示スペースで存在感を示していたEVスタートアップのAIWAYS(愛馳汽車)は、既存の自動車製造企業に出資をすることで、自動車生産の免許を得ることに成功し、量産体制を築きつつある。また、WM-Motorはこれまで約3600億円以上の資金を調達してきており、自前の工場やR&Dセンターなどを整えている。クルマを量産するのは難しく、工場があるからといってすぐに既存のメーカーに追いつけるわけではない。しかし「お手並み拝見」と高見の見物を決め込んでばかりいるわけにもいかない。
ファーウェイや小米、OPPOなどがスマホの世界で存在感を示しているように、自動車業界でも中国企業が市場を席巻する日は来るのだろうか。中国のそれがスタートアップの企業から現れるなら、今からでも遅くない。日本でも同じことができるのではないだろうか。