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狙いは「既存の職場に新しい技術」と「新しい社会に既存の技術」〜Open Network Lab Resi-Tech Demo Day開催

 不動産関連のスタートアップを支援するプログラム「Open Network Lab Resi-Tech(以下、Onlab Rsei-Tech)」のDemo Dayが8月1日に開催された。「Resi-Tech」とは「レジデンス」と「テック」を合わせた造語で、スマートシティやスマートホームといった言葉で想像されるものより広い概念をカバーしており、既存の建物管理や不動産価値の上昇につながるアイデアなどを含んでいる。

 こうした枠組みの中で、どのようなスタートアップが集い、どういった課題に挑むのかが興味深い点だが、今回のDemo Dayではその成果の一部を見ることができた。

 Onlab Resi-Techのプログラムには2つの取り組みがある。ひとつは、シードアクセラレータプログラムで、事業の芽を見つけ育てるもの。もうひとつは創業5年以内のスタートアップがパートナー企業の協力を得て社会実装を行うコーポレートプログラム。こちらは、自社製品やサービスのブラッシュアップを行ったり、事業化への道筋をつけたりするプログラムだ。

 この日のDemo Dayで最優秀賞(BEST TEAM AWARD)に選出されたのは、どちらのプログラムも、デジタル技術をもちこむことで現場の「効率化」を目指すスタートアップだった。不動産や建物管理の現場はデジタル化、IT機器導入のレベルはさまざまで、一昔前の手法がそのまま続いている現場もまだまだ多くあり、効率化の余地がある。

 シード部門で大賞を獲得したBLUB株式会社の「AutoFloor」はオフィスのレイアウト変更の際の課題解決を目指す事業を展開している。同社のサービスはオフィスレイアウト・家具の平面配置図から自動的に3Dのイメージ図を起こす。これによりオフィスのレイアウト変更・設計の際のボトルネックであるデザイン関連作業の省力化を図ることができる。

受賞を喜ぶ株式会社THIRDのメンバー
BEST TEAM AWARDの受賞を喜ぶ株式会社THIRDのメンバー

 また、コーポレート部門で大賞を獲得した株式会社THIRDの「管理ロイド」は、建物管理の各プロセスにデジタル機器を持ち込みIT化を進め、管理業務全体の効率化を図るもの。設備の確認項目と結果の記録をクラウドに送り、計器や修理必要箇所などの画像を管理用の端末のスマホで撮影する。さらに故障箇所の特定や補修の実施判断などを経験値として蓄積されたものをAI(人工知能)で代替することで、省力化と効率化を達成した。

 日本の生産性の低さはかねてから指摘されているところだが、会社組織の中では、課題は認識しながらも自ら解決することは難しい。スタートアップそうした課題に対応すべく、すでに他の分野では活用されている技術やサービスを組み合わせ、外部から持ち込んでくれる。

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 来場者の投票で選ばれる「AUDIENCE AWARD」をシード部門で受賞したのは、edison.ai, Inc.の「レジなし店舗」だ。これはサービス名が示すように、無人店舗でのウォークスルー決済(買ったものをそのまま持ち帰れば決済は自動的に完了)を実現するもの。センサーやカメラで店内をくまなく監視し、AIによる画像解析で人が商品棚から取り出し、持ち帰った商品を判別する。こうした店舗は米国や中国ではすでに実現している。

 ただ、多くのセンサーや高解像で高価な監視カメラなどが必要となり、導入には莫大な費用がかかる。そこで同社は安価で低解像度のカメラで撮影した画像からでも正確に購買品を判断するAIを開発した。スマートシティやスマートホームでは人の目や耳の代わりになり、見聞きし、判断してくれるセンサーやAIがあちらこちらで大量に必要となるが、そのコストをいかに抑えるのかが普及のカギとなる。安価で高性能なカメラやセンサーはやがては開発されるだろう、だがそれを待つだけでなく、既存の技術や製品に一工夫加えて利用しよう発想はスタートアップならではのものだ。

 同じくこうした発想で既存のWi-Fi電波を使ったモニター技術を提案したのは、Origin Wireless Japan株式会社(以下、Origin Wireless)の「Life log」だ。この技術を使えば、室内や施設内に飛び交うWi-Fi等の電波を利用して、人の動きを検知することができる。室内に設置したレーダーなどで人の動きを監視する非接触型の見守りサービスは、やはりこの日のDemo Dayに登場した米国のTellus You Care, Inc.の「Tellus」などがあるが、コストや監視内容などでそれぞれ一長一短がありそうだ。実際に生活の場に導入してみて比較してみたいところだが、それが実現するかもしれない。

渋谷区長の長谷部氏
特別賞の狙いを説明する渋谷区長の長谷部健氏

 今回のDemo Dayで特別賞が設定され、その対象には上記2社、Origin WirelessとTellusが選ばれた。特別賞について審査員としてコメントした渋谷区長の長谷部健氏は「高齢者見守りは社会の課題となっており、渋谷区が実証実験の場を提供してもいいと考えている。」と話し、この2つのサービスが競うあうことで、よりよいサービスとなることを期待したいと締めくくった。

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