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中国で激化する「AI2B」攻防戦~要素技術より社会実装で勝負

AInnovationの経営陣 同社プレスリリースから

AInnovationの経営陣 同社プレスリリースから(左から) AInnovation Senior Marketing Director, Jennifer Gao; AInnovation COO, Jenny Wang; Managing Director of China Renaissance, Xiang Zhou; Partner at Chengwei Capital, Richard Gu; AInnovation CEO, Hocking Xu; President of Sinovation Ventures, Tina Tao; Chairman of CICC ALPHA, Joseph Liang; Senior Vice President of CICC ALPHA, Maxwell Zhou; AInnovation CTO, Fa’en Zhang

新たなB2B革命が起きようとしている。その革命において、AIは先発隊の役割を持つ。数々のネクスト・ユニコーン企業がAI2Bというビッグチャンスに目を付け、ユニコーンへの道をひた走っている。創新奇智(AInnovation)社はその一つだ。

「未来のスマート攻防戦:次世代の巨人は“AI2B”から生まれる」(中国ベンチャーキャピタル黒馬基金のオウンドメディア『i黒馬網』2018年10月18日の記事から引用)

AInnovation概要 同社リリースより
AInnovation概要 同社リリースより

 創新奇智(AInnovation 中国北京市)社は、ユニコーン企業(評価額10億ドルの未上場企業)がひしめく中国でも、とりわけ注目の企業だ。エンジェル投資では中国でトップクラスのベンチャーキャピタルである創新工廠(シノベーション・ベンチャーズ)の関連会社であり、グーグル、マイクロソフト、ファーウェイ、アリババグループなどの超大手企業から人材をかき集めたドリームチームだからだ。創新奇智は小売、製造、金融の3分野を対象とし、販売予測や仕入れの自動化、広告精度の向上。画像認識による検品や部品調達の自動化。保険契約事務の自動化やリスクの査定などのソリューションを実際に提供している。

 ちなみに公式サイトには、世界の有名大学の卒業生が集結していることもアピールされており、ハーバードやイェール、清華大学、北京大学などの名前に混じって、日本からは唯一早稲田大学の名前があがっている。中国では早稲田の知名度が突出していることを改めて思い知らされた。

C2C市場より確実なB2B市場へ

 閑話休題。この創新奇智の事業が「AI2B」(エーアイ・トゥ・ビー)だ。AI(人工知能)とB2B(法人向け)を組み合わせた造語で、各事業分野にAIを組み込むことを意味する。その意義について、冒頭の記事は創新奇智の徐輝CEO の言葉を引用しつつ、次のように解説する。

「デジタル経済時代にはAI技術こそが生産性と商業価値を向上させる推進力です。レガシー業界が産業転換に進む速度と熱意は我々の創造力を超えています。2030年には中国のGDPは38兆ドルに達すると予測されていますが、そのうち7億ドルはAIによってもたらされるものです」

 巨大なビジネスチャンスを秘めた市場だ。音声・画像認識などの標準的AI技術が一定レベルに達し、大手企業と新鋭企業がAIビジネスにひしめく今、AIベンチャーにとって最も賢明な選択肢は、技術という武器を手に、業界を垂直的に貫くソリューションを提供することだ。

 AI開発では、アルゴリズムの進化やデータの確保、コンピューティング能力向上などの要素技術が競われる。ベンチャーはこの要素技術をめぐる争いに飛び込むのではなく、現実の社会やビジネスにAIをどう応用するか、社会実装に向けたアイデアや手法で勝負するべきという宣言だ。

 同社が社会実装の分野を選ぶ際に、B2C(消費者向け)ではなくB2B向けに焦点を当てた点も面白い。モバイル決済、シェアサイクル、そしてライブコマースのような進化型EC(電子商取引)など、世界の注目を集める中国発イノベーションはこれまでC2C中心だった。しかも技術的には新しいものではなく、既存技術の組み合わせることによって新たなサービスは誕生している。こうしたC2Cの事業は当たれば大きいが、一般消費者に浸透させるためには莫大なマーケティングコストが必要となる。またITサービスではネットワーク効果(サービスの品質や技術力ではなく、ユーザー数の多さがサービスの価値を生み出すこと)が働くため、業界トップ企業が市場を総取りする構造になりやすい。トップになるか死かの二択なので、血で血を洗う激烈な競争を勝ち抜く必要がある。

 莫大な投資が必要であり、またトップ以外は皆死ぬというリスクの高さから、中国のベンチャーキャピタル業界ではC2Cよりも、着実に稼げるB2Bを見直す動きが広がっている。AIとB2B、二つの流れの先にAI2Bという分野が存在しているわけだ。

ファーウェイ・クラウドストアに見るAI2B

 このAI2Bの流れに乗ろうとしているのは、創新奇智だけではない。有名企業から無名の零細企業まで数多くの企業が、この巨大市場に向かっている。中国通信機器・通信端末大手ファーウェイが運営するファーウェイ・クラウドストアはこのトレンドを観察するには絶好のスポットだ。

 ファーウェイ・クラウドストアはB2Bソリューションを販売するオンラインストアだ。「AI」をキーワードに検索すると、さまざまなAI2Bソリューションが販売されていることがわかる。北京博視未来科技有限公司が販売するのは「さつまいも・ゴミ分別AIソリューション」。さつまいもを収穫する際、一緒に掘り出されてしまったゴミをAIで分別するというものだ。

 雲天弈(北京)信息技術有限公司が販売するのは「記事執筆補助AI」。中国では自媒体(ミーメディア)と呼ばれる、自社サイトを持たずにウィーチャットなど他社のプラットフォーム上で記事を発表するメディアが乱立している。独自取材と知見を盛り込んだハイレベルなメディアから、簡単なコピペと加工で作られるダメ記事までさまざまだが、このAIは後者のダメ記事作りをサポートするツールだ。ホットトピックの検索からニュースサイトや百度百科(検索企業大手百度が運営する中国版ウィキペディア)の要約、関連情報の検索などの機能によって、今まで1日10本しか書けなかった記事が100~200本にまで増やせるとアピールしている。1日10時間で100本の記事が仕上がるとするなら、6分で1本の記事を書ける計算だ。物書きをなりわいとしている筆者としてはめちゃくちゃ欲しいソリューションだが、クオリティは激しく不安だ。

 こうしたAI2Bの流れは何も中国だけのものではない。日本でも画像認識を導入したPOSレジシステム「ベーカリースキャン」を開発した株式会社ブレインが注目を集めるなど、AI2Bソリューションが登場している。

カオスなエコシステムは健在

 AI2Bの流れが中国において決定的に重要だと考えるのは、「現在の方法論がAI時代にも受け継がれる」ことを示唆しているからだ。中国のイノベーションというと、BAT(検索大手の百度、ECのアリババグループ、SNSとゲームのテンセント)など大企業にばかり注目が集まるが、彼らの本質はプラットフォームであり、事業者と消費者をつなげる仲介者としての役割を果たしている。プラットフォーマーがすばらしい企業であることは間違いないが、彼らだけがエクセレントなわけではない。サービスやプロダクトを提供する事業者も一緒に成長してきたことは見過ごされがちだ。大企業が子会社や系列企業と密接な関係を作って小さな経済圏を作りがちな日本式と異なり、中国では誰でもエコシステムに参加できるオープンさ(その裏側にはいつでも切り捨てられるという冷酷さもあるわけだが)が特徴だった。

 AIが普及した後の時代にも果たしてこの流れは続くのか。高い技術力が求められるため、有象無象が参加するカオスなエコシステムはできないのではないか。筆者はこの点に注目してきたが、AI2Bに代表されるAIの社会実装の動きを観察していると、カオスなエコシステムは健在との印象を受ける。

 AI時代にどのようなエクセレントカンパニーが登場するかはまだわからない。創新奇智のようなドリームチームだけが候補ではない。ダメ記事量産AIを作っていたはずの会社が気づいてみれば……ということも十分にありえるはずだ。そもそも、百度、アリババグループ、テンセントはいずれもマンションの一室が創業の地だ。そうした零細企業が20年間で世界的企業へと成長するチャイナドリームはAI時代にも続くのではないか。

高口康太 Written by
ジャーナリスト、翻訳家。 1976年生まれ。二度の中国留学を経て、中国専門のジャーナリストに。『ニューズウィーク日本版』『週刊東洋経済』など各誌に多数の記事を寄稿している。著書に『なぜ、習近平は激怒したのか――人気漫画家が亡命した理由』(祥伝社)、『現代中国経営者列伝』(星海社新書)。