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体育の授業にARスポーツ「HADO」を導入 生徒たちの反応は?

「ARスポーツ『HADO』の教育的効果の実証実験」について議論するスポーツマリオの伊藤知裕氏(右端)と、meleapの本木卓磨氏(右から2番目)、東京学芸大学付属世田谷小学校の久保賢太郎教諭(左から2番目)、慶應義塾大学システムデザイン・マネジメント研究科の神武直彦教授(左端)

「ARスポーツ『HADO』の教育的効果の実証実験」について議論するスポーツマリオの伊藤知裕氏(右端)と、meleapの本木卓磨氏(右から2番目)、東京学芸大学付属世田谷小学校の久保賢太郎教諭(左から2番目)、慶應義塾大学システムデザイン・マネジメント研究科の神武直彦教授(左端)

 VR・AR技術はゲーム以外にも防災訓練や製造業での技術習得研修、さらには医療現場への導入など実用化が進んでいる。そうした中、教育の現場でもVR・AR技術の活用が検討され、実際に小学校の体育授業で実験的にAR(拡張現実)を活用したテクノスポーツが行われた。従来の体育授業と比べると、子どものたちの反応にどのような違いがあったのか。実験後に関係者一同が集まった調査報告会を取材した。

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 この試み(ARスポーツ『HADO』の教育的効果の実証実験)は産官学連携のスポーツビジネスコンソーシアム「Sports-Tech&Business Lab(以下、STBL)」の活動の一環として2019年8月19日に実施された。体育の授業に取り入れられたHADOとは、株式会社meleapが開発したAR(拡張現実)を活用したテクノスポーツで、頭にヘッドマウントディスプレイ、腕にアームセンサーを装着した3名1組のチームで対戦する。(HADOについてはこちらの記事を参照

HADOがアクティブ・ラーニングのツールのひとつになる可能性があると話す久保教諭
久保賢太郎教諭

実験は、東京学芸大学付属世田谷小学校の久保賢太郎教諭と株式会社スポーツマリオの伊藤知裕氏、株式会社meleapの本木卓磨氏らが中心となり実施された。同小学校の6年生と4年生の体育授業でHADOによるチーム対戦が行われたほか、試合間の作戦会議のモニタリングやアンケート調査(対象48名)も実施。アンケート調査は、慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科神武直彦教授の監修の元、NTTデータ経営研究所の河本敏夫氏らが作成した。

なぜ小学生にAR体育なのか

 報告会では、子どもたちへのアンケート結果を元に作成された分析レポートが発表されたのち、参加者から当日の子どもたちの様子について意見が述べられた。

実証実験の感想を述べる伊藤氏
実証実験の感想を述べる伊藤氏

 実験の発案者のひとりである伊藤氏によると、体育授業にHADOを取り入れた理由は、「児童が体力差や体格差などに影響されずスポーツを“フラット”に楽しめる可能性を感じたから」。だが、実際には「苦手意識を持つ子は見られなかったものの、結局、運動神経が良い子が活躍していた」「露骨に体力差の出るスポーツと比べるとフラットな状態に近づいたが、思ったほどではなかった」と結果を振り返った。今回は初の試みだったため、想定通りの効果とはならなかったが、継続的に取り組むことで狙った効果が出せる可能性はあるようだ。

 一方、普段の体育授業の様子を知る久保教諭は、体育授業にのめり込むことが少ない6年生の女子児童などが、(体力ではなく)頭を使うスポーツであることを敏感に察知し、チーム内で役割分担を考え、プレーに熱中していたとコメント。

「スポーツには頭を使う要素はたくさんあり、実はそれがスポーツのおもしろさの重要な要素なのですが、その土台を築くまでにフェイドアウトしていく子が多い。普段体育授業を見ている立場からすると、1時間、2時間程度の授業で子どもたちがスポーツの頭を使うおもしろさに気づくことはなかなかない。そこに大きな可能性を感じました」(久保教諭)

 作戦会議の様子をモニタリングしていた河本氏も、「短時間の間に、他チームの作戦を見ながら、自分たちの作戦を次々と考えていく様子が見られた」とし、「子どもたちの成長スピードの速さに驚いた」と発言。

HADOの特徴について説明する本木氏
HADOの特徴を説明する本木氏

 子どもの成長スピードに関してHADO開発者のひとりである本木氏は、技術習得に時間をかけることなく誰でも簡単にプレイできるのがHADOの特徴であり、それが子どもたちの意識が次の段階に向かいやすかった要因のひとつではないかと述べた。

 実験後、学校側ではどのような反応が見られたか。「反対意見が多数出るかと思ったのですが、当日の子どもたちの様子を見て、『これはおもしろい』と発言する先生がたくさんいました。(従来の)体育授業を一生懸命頑張っても、なかなかあそこまで子どもたちの成長が到達することはない。すぐに授業に取り入れることは難しいけれど、我々も新しい技術や視点を取り入れる姿勢を持たないといけない、というムードが生じました」(久保教諭)

 2020年には、プログラミング授業が必修になるなど小学校の学習指導要領(文部科学省)が全面改定される。その柱のひとつが、子どもたちに主体的・対話的で深い学びを促す「アクティブ・ラーニング」を取り入れることだが、久保教諭によるとHADOはそのツールとなる可能性があるとのこと。

教育現場でのVR 空中浮揚の疑似体験も

 VR・ARなどの先端技術を教育現場に用いた事例には、ほかにどのようなものがあるのか。

VR・AR技術が教育現場で活用された事例を紹介する河本氏
教育現場での活用事例を紹介する河本氏

 河本氏によると、愛知・豊田市の中学校ではフィリピンや中国などアジア圏のVR動画を見ながら行われる社会科の授業が実施されているほか、高知県の中学校ではVR技術で津波を疑似体験する防災教室が実施されたという。

 さらにSTBLの活動の一環として、児童が水中でヘッドマウントディスプレイを装着し、ドローンで空撮した映像を見せることで空中浮遊の疑似体験を与え、水への苦手意識を克服する試みが横浜市の小学校で行われた。また、埼玉県の高校の部活動では、映像分析アプリ「SPLYZA Team」を導入し、運動部の練習や試合の動画をスマートフォンで撮影し分析。改善方法などを生徒同士が話し合うことで自主性を育む取り組みが進められている。

 実際に教育現場に立つ人間として新しい技術の導入をどう感じるか久保教諭にたずねると、「学習者の学びを引き出すために使える技術の導入であれば、鉛筆がシャープペンシルになるといった変化と何ら変わらない。ポジティブに捉えたい」と回答。大学や研究機関にも同じような意見を持つ教育関係者は増えているという。

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 今後、HADOを体育授業に取り入れる試みについては、賛同者を募りさらに活動の場を広めていくとのことだ。資金調達や実験の場探しなど課題はあるものの、教育とテクノロジーをかけあわせ、教育現場に変革をもたらそうという試みがはじまりつつある。

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有限会社ガーデンシティ・プランニングにてライティングとディレクションを担当。ICT関連や街づくり関連をテーマにしたコンテンツ制作を中心に活動する。