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空調設置の現場の“声”をクリアに拾い上げ、遠隔支援で効率化〜東大発ベンチャーがダイキンと共同で

固い握手を交わすフェアリーデバイセズ藤野氏(左)、ダイキン工業米田氏(右)

固い握手を交わすフェアリーデバイセズ藤野氏(左)、ダイキン工業米田氏(右)

 2019年11月21日東大発AI(人工知能)ベンチャーフェアリーデバイセズ株式会社と大手総合空調メーカー、ダイキン工業株式会社は、空調機器の設置や保守点検業務における、熟練技能者の不足に対応するため、ウェアラブルデバイス(身体装着型端末)を身に着けた作業者が遠隔地からの作業支援を受け、作業効率と作業品質を向上させていく取り組みを発表した。

 製造業ではセールスエンジニアの高齢化や人手不足など、現場の作業に課題を抱えているところが多い。ダイキン工業執行役員米田裕二氏は、今後世界の空調市場は新興国を中心に3倍に拡大すると見通した。その一方で、熟練者不足、業務属人化によるノウハウの消失、エンジニアの非コア業務負荷などの課題も増えつつあり、その解決にはデジタルによる業務改革(DX=デジタルトランスフォーメーション)が不可避であるとの認識を示した。

左よりフェアリーデバイセズ江副氏、藤野氏、ダイキン工業米田氏、BUSI ASHISH氏
左よりフェアリーデバイセズ江副氏、藤野氏、ダイキン工業米田氏、BUSI ASHISH氏

 音声認識やデータ解析などを得意とするフェアリーデバイセズとの取り組みでは、高性能ウェアラブルデバイスを身につけた次世代型の現場作業者、すなわちコネクテッドワーカーを創出するという。具体的には、フェアリーデバイセズのウェアラブルデバイス「THINKLET(シンクレット)」とダイキン工業が知見を積み上げて開発・制作した「業務支援アプリ」を組み合わせ、熟練のサービスエンジニアが遠隔地の作業者をサポートする「遠隔作業支援ソリューション」を開発していく。またそこで得た現場のデータはクラウドに蓄積し、貴重な知見として活用するとのこと

 フェアリーデバイセズ代表取締役の藤野真人氏は、「現場革新のためには作業者の五感に基づく非定型なデータを継続的に収集し、・蓄積・学習することが重要だが、大きな課題は違和感のない自然な形で“機械学習しやすいデータ”として収集することだ」と言う。従前はこのような視点か欠けていたため、現場からは雑多なデータだけが収集され、機械学習可能な形で蓄積されていなかった。

ウェアラブルデバイス『THINKLET(シンクレット)』
ウェアラブルデバイス『THINKLET(シンクレット)』

 首掛け型のウェアラブルデバイス「THINKLET」は、現場のあらゆる情報をデジタル化してとりこむため、IP54の防水防塵性能の本体に800万画素の広角カメラを装備している。さらに、会話相手の音声も取り込むため5個のマイクを搭載している。作業現場には騒音がつきものだが、そんな環境下でもマイクが拾った音声は、同社が開発したオンラインフロントエンド処理技術「mimi XFA」によってクリアに認識が可能だ。本体側で処理されたデータはWi-Fi機能および4G LTEでクラウドに送り込める。このようにして作業に関するすべての情報を高品質にデータ化できる。

 この「THINKLET」とダイキン工業が開発した「業務支援アプリ」を組み合わせて、ダイキン工業の空調機器の設置工事、保守点検、メンテナンスなどの現場で確認・検証・改善を実施していく。

作業員の肩に掛かるのが『THINKLET(シンクレット)』。当然ハンズフリーで、作業に支障はない。
作業員の肩に掛かるのが『THINKLET(シンクレット)』。当然ハンズフリーで、作業に支障はない。

 記者発表会場では、ダイキン工業のBUSI ASHISH(ブシィ アシシュ)氏が、ウェアラブルデバイスを装着した現場作業員に、実際に遠隔指示を行うデモを披露した。今後は、空調業界やダイキン独自の用語に対応した「リアルタイム翻訳」、自然言語処理による「報告書を自動作成」も実現していくということだ。

 質疑応答では、フェアリーデバイセズとの協業の決め手についてダイキン工業米田氏は「アイデアの斬新さ、装着感、音声、画像の解像度の高さ」を上げた。また豊富な機能を持つデバイスの価格帯についての質問が飛ぶと、フェアリーデバイセズ江副氏は「具体的な金額はちょっと答えられない」と笑いながら「低消費電力であることからミドルレンジからローレンジ性能のスマートフォンの価格帯から類推して欲しい」と回答。ただし、同社はデバイス単体で販売することは考えておらず、あくまでソリューションを販売するためのツールという位置づけだ。

 会見後のやりとりで藤野氏に聞いたところによると、現時点でなんらかのスマートデバイスを持ちながら作業者をする人の数は、全世界で3900万人はいるだろうとのこと。今後これが5億人程度まで増えるだろと見込んでおり、同社としてもこの先は交通・運輸、報道・メディア、医療などの業界にも提案していく構えだ。「2020年夏には国内数10社へ展開したい」と述べた。

※フェアリーデバイセズ株式会社はDG Lab1 号投資事業有限責任組合の投資先です。

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ライター、著者。有限会社ガーデンシティ・プランニング代表取締役。ICT関連から起業、中小企業支援、地方創生などをテーマに執筆活動を展開。著書に「マンガでわかる人工知能 (インプレス)」など。