静岡大学情報学部の板口典弘助教・宮崎真研究室とヤマハ発動機株式会社の共同研究グループは、VRの映像にエンジン音と振動を同期させることによってVR酔いの重症度を半分以下に低減できることを発見し、英国のNature Publishing Groupの発行するオンライン科学ジャーナル「Scientific Reports」に発表した。
VRが普及するにつれ、それを利用した際に乗り物酔いのような状態になることが知られるようになった。いわゆる“VR酔い”というものだ。オートバイや航空機のシミュレーターなど目前に広がる風景が激しく動き、大きく傾くものほど酔い易くなる。これを改善するため、映像に音や振動を加える実験は海外の先行研究でもなされてきたが、「音だけ」「映像だけ」では酔いが改善されることはなかった。さらに、これらの研究では映像の変化に連動した振動や音ではなかったため、欠落している感覚情報をうまく補うことには至らなかった。この点に着目した共同研究グループは音と振動を映像とシンクロさせる実験を行った。
被験者は、実際のスクーターにまたがることで、振動を座面から感じることができ、VR映像のスピードにあわせて音と振動の大小は変化する。この環境下で、音や振動の有り無しで4つの異なる状況をそれぞれ5分間体験し、1分ごとに主観的な酔いの程度を申告する実験を行った。その結果が図のグラフで、映像に合わせたエンジン音と振動を両方経験した場合にのみ酔いの軽減効果が見られ、どちらか片方でも欠けた場合には、酔いは軽減しないことがわかった。
この実験結果から映像酔いのメカニズムの一端が明らかになったことで、オートバイのシミュレーターやゲームのみならず、今後急速に普及していくと考えられるVRによる遠隔操作や遠隔コミュニケーションの発展にも寄与することが期待される。