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開放特許を活用し在学中に「起業」、卒業後は「副業」で〜昭和女子大学「前田ゼミ2019」のチャレンジ

知財活用スチューデントアワードで最優秀賞を獲得した「前田ゼミ2019」の皆さん

知財活用スチューデントアワードで最優秀賞を獲得した「前田ゼミ2019」の皆さん

 特許には、第三者に権利が開放されている「開放特許」というものがある。アイデアを持つ個人やベンチャー企業に特許を開放し、未使用特許を有効活用してもらうことが目的としている。

 この開放特許を使用したビジネスのアイデアを大学生が競うのが「知財活用スチューデントアワード」(主催:西武信用金庫)という催しだ。昨年末に開催されたこのコンテストで最優秀賞を獲得したのは、昭和女子大学グローバルビジネス学部ビジネスデザイン学科の「前田ゼミ2019」だ。このチームのメンバーは、同学科の前田純弘教授のゼミに所属する3年生9名で構成されている。

 同チームが提案したのは、富士通の開放特許である非接触バイタルセンサー(今後、特許ライセンスは取得予定)を使った乳幼児睡眠安全サポート機器 「Tapirus(タピルス)」。これは睡眠時の乳幼児の体温や呼吸、うつぶせ寝などの状態をセンサーで測定することで、 乳幼児突然死症候群(SIDS)など、不測の事態に至るリスクを下げようという提案だ。

 「前田ゼミ2019」のメンバーは、コンテストで最優秀賞を獲得したこのアイデアをビジネスに育てるためにスタートアップを起業した。同大学では初めてとなる在学生によるスタートアップだ。起業に至った経緯や今後の予定などを、前田教授とゼミ長で新会社の代表取締役である鈴木亜未氏にうかがった。

■授業の一環でコンテストに参加 

――「知財活用スチューデントアワード」参加に至る経緯を教えて下さい。

オンラインでインタビューに答えてくれた鈴木亜未氏
オンラインでインタビューに答えてくれた鈴木亜未氏

鈴木亜未氏(以下、鈴木):前田先生のゼミは“文理融合人材”の育成が目的で、IoTの活用やデータ分析などを学んでいます。今回のコンテストのような、最新技術を利用したアイデアを発想するというのはゼミの主旨に沿っているなと私は思ったので…。

前田純弘教授(以下、前田):だからしょうがなくやったのね(笑)

鈴木:自分たちが主体になってイチから発想できるのと、私たちのゼミってアンケート調査とか地味な活動が多くて、それに比べると(コンテスト参加のような)アクティブな活動はチーム作りやマネジメントを学べるので、社会に出たときの実践的なところも学べるかなと。

――ゼミ生9人そろってコンテスト出場となると、参加意欲に差があると思いますがネガティブな反応もあったのでは

鈴木:わたしがずば抜けて活発すぎるみたいなところがあるんですが。結構みんなそれに対してネガティブなことを言わないで肯定してくれるタイプで、「無理かもしれないけどこれを使ったらいけるんじゃない」っていう感じでやっていくことができました。

■思いつきを検証する

 利用できる開放特許はいくつかの選択肢がある。どれを使って何を作るか。検討開始早々に思いついた2つのアイデアは、結局のところ最終案には結びつかなかった。ゼミの中で話したときには「面白いかも」と思ったアイデアも、ヒアリングなどの調査を始めるとすぐに市場ニーズと合致しないことわかり、事業構想の転換を図ることになった。スタートアップにありがちな「ピボット」(pivot)をゼミの取り組みの中で経験したわけだ。

――改めてアイデアの練り直しになったということですが、タピルスを思いついたきっかけは

鈴木:(最初の2つが)現実味がない案になってしまったのでイチから練り直すかってなったときに、ちょうどネットニュースで“うつぶせ寝”で赤ちゃんが亡くなったという事故の記事があって、SNSでも子育て中の方たちが(一晩中赤ちゃんを見守り)寝てられないってリアクションしているのがあったんです。その時、うつ伏せとかの身体の動作の見守りって、自分たちが検討している開放特許と合うんじゃないか、ということになったんです。

* * *

 バイタルセンサーを利用するアイデアは、他にも「ジムやサウナでの利用者の見守り」「映画館での観客の作品に対する反応をチェック」などがあった。これらのアイデアを検証するため5W2H(who,when,where,what,why,how,how much)に当てはめ、利用シーン、ユーザー像などをより具体化し検証を進めた。その結果、乳幼児の見守りセンサーが有望かつ現実的だという判断に至った。

 その後は市場のニーズを探るべく保育園・幼稚園へのアンケート、ネットを活用したユーザー調査や、競合商品の研究などを実施した。ネットでSIDS(乳幼児突然死症候群)のリサーチをした際には、インスタグラムのタグ「#sids」で一括検索し、海外の実情までも一気に探り出してしまう、といった手法は現役の大学生ならではだ。

 こうして必要な機能や、規制をクリアする要件なども整理し、「乳幼児睡眠安全サポート機器 Tapirus」の製品概要とビジネスモデルを作り上げた。そしてこの提案が「知財活用スチューデントアワード」で最優秀賞を獲得したことは前述の通りである。

■ついに起業!投票で決めた出資金額

――最優秀賞をとったからといって必ずしも起業する必要はなかったと思うのですが、なぜ「会社作ろうよ」ということになったのですか?

鈴木:本選考会のあとの懇親会の場で、審査員の方から「ちゃんとやれば実現可能なので、ここで終わらせるのはもったいない」という声をたくさん頂いて、私たちも前向きに考えだしたっていうか。最初は漠然としすぎていて、でもみんなのいいところは「絶対否定しない!」というところで、「可能性があるならやりたい」「自分たちの案が社会に役立つならやりたい」という声はあがりました。ただ、何をすればいいかはわからなかったですね。

前田純弘教授(ZOOM画面よりキャプチャー)
前田純弘教授(ZOOM画面よりキャプチャー)

前田:アイデアを他の企業に渡して商品化をお願いすることもできたんですが、それではもったいないなと。ビジネスデザイン学科なので会社を作る経験をしてもいいし、だめなら潰れてもいいんだし、というそれくらいの感じでした。

――ところでみなさん資本金の1万円よく出しましたね。学生さんにとっては安いくはない金額と思いますが

鈴木:めっちゃ聞きました!!「みんなガチで1万円でいいって言ってるの?5千円でなくてもいいの」って。一応みんなで投票もしたんです。そしたらみんな1万円に投票して。みんなこれまで時間を費やしてきたし、アイデアにも自信もあるからこうなったのかなと思います。

――会社設立の手続きやってみてどうでしたか

鈴木:昭和女子大学でも初めてなので、まとめて言うと「めちゃくちゃ大変」でした。定款の作り方なんて知らなかったですし、全員の実印を用意してとかも…。普通だったらもっとスムーズに行くところコロナで、全員の捺印が必要なのにみんなで会えないので、大変でした。(就活など)プライベートな活動が一緒になって手続きが遅くなってしまうのは学生ならではかなと。

――皆さん就職されるということですが、4月以降はどうされるのですか。3年生が引き継ぐとかそういったことでしょうか

前田:基本は副業としてきる範囲内でやっていけばいいと考えてます。なにかに追いかけられて、絶対IPOするんだとかそういうものではないですし。今の3年生もこの知財アワードに出場するんですよ。今度は早めに会社作れと言ってるんです。会社作って先輩の4年生の会社を吸収合併して乗っ取っても構わないよって(笑)。

――その3年生も含めて、鈴木さんから、今回の経験を通して得られたことで、後に続く人たちに伝えたいことってなんですか

鈴木:アイデアはふと夜中に思いついたなんて言っている起業家がいて、最初はそういうのは嘘だと思ってました。でも今回、ふと思いついた自分たちのアイデアで本当に起業まで実現したから、確かに(ふと思いつくというのは)本当のことかもしれないと。

 働き方改革とかが進んで(副業が認められるなど)自分たちの思いつきから可能性を広げて実現していくことは、もっと簡単な時代になっていくと思うし、できるのにしないのはもったいないことかなと思いました。やらないで終わらせるより、やってダメで終わらせた方が絶対にいいなと思います。

* * *

 前田ゼミの面々が、起業を経て考えたこと感じたことは、多くのスタートアップの創業者たちと共通する。取材中に「大学内に起業した先輩がいないので、相談できる相手がおらず不便だった」という話もあったが、これも起業時の悩みとしてよく聞かれるものだ。スタートアップのエコシステムの恩恵が届いているのは、現状では一部の大学だけだ。

 従来の大学発のスタートアップは、大学の研究成果を活用し起業するケースが多い。「令和元年度 産業技術調査事業 (大学発ベンチャー実態等調査) 報告書」によると、日本の大学発のベンチャー企業の約6割が「研究成果ベンチャー」だ。つまり理系の学部・大学院のある国公立大学での起業が多く、文系学部が中心の大学からの起業数は少ない傾向にある。

 しかし、ここで紹介したように開放特許を活用すれば、独自の発明や特許が無くとも起業は可能だ。若い世代だから見えること、社会に出る前の学生ゆえに気がつくことを製品やサービスにしていくことは、文系理系の別なく大学生なら誰にでも可能だ。

 こうした起業の芽を在学中に育てること、また起業に必要なノウハウを得るサポートすることは、大学に求められる機能と役割だ。さらには卒業後も、在学中に起業したスタートアップと兼業ができる環境を整え、フォローするのはすでに世にある企業の役割で、こうした環境が整うことでより多様な大学発ベンチャーが生まれ育つことができるようになるだろう。

北元均 Written by
朝日新聞社にてデジタルメディア全般を手掛ける。「kotobank.jp」の創設。「asahi.com(現朝日新聞デジタル)」編集長を経て、朝日新聞出版にて「dot.(現AERAdot.)」を立ち上げ、統括。現在は「DG Lab Haus」編集長。