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―メディアの課題6― 課金プラットフォームを活用するには(前編)

―メディアの課題6― 課金プラットフォームを活用するには(前編)

―メディアの課題6― 課金プラットフォームを活用するには(前編)

 コンテンツ課金を成功させるには、どうすればよいのか。この質問をする相手として、コンテンツ課金の仕組みをメディアに提供している企業が適当だろうと考えた。さまざまな企業のDXのプロセスに関与する事が多いこうした企業は、外部の目をもってメディアの課題をつかんでいるはずだ。

 では、コンテンツ課金の仕組みは誰が提供しているどんなものがあるのか。

 課金は、無料と有料を隔てる壁(paywall)を設定することで実現されている。この仕組を提供する企業はいくつか存在し、メディアの中には自分たちで開発する社もある。先行する欧米の例では、ワシントン・ポストは自社で開発した「arc publishing」というシステムを利用している。これは、記事製作工程からCMSまでが一体となっている。『FT.com』『The Guardian』などが採用している「Zuora」は、契約管理や請求などサブスクリプション型のビジネスを行うのに必要な機能を一通り持っており、メディアだけでなくソフトウェアの利用料の徴収などにも利用されている。

PIANO Japan オフィスにて 同社代表取締役社長 江川亮一氏
PIANO Japan オフィスにて 同社代表取締役社長 江川亮一氏

 『BUSINESS INSIDER』『DIGIDAY』など雑誌系サイトや、『New York Post』のような新聞から動画中心の『NBC Sports』まで、幅広いメディアでの導入実績があるのが「PIANO」だ。日本でも産経新聞社やコンデナスト社の媒体に採用されており、コンテンツ課金からレコメンド、パーソナライゼ−ジョン、DMP(Data Management Platform)まで、メディアに必要な機能をそろえている。課金の仕組みを提供する米国のスタートアップとして始まったPIANO社は、2019年10月にノルウェーに本社を置くシーセンスと買収合併した。シーセンスはDMPなど広告関連技術を持つ企業で、両社が一体になったことで、メディア周りのマネタイズを一通りサポートできる体制が整った。2020年2月には日本でもPIANO Japan株式会社が現地法人として業務を開始している。

 同社代表取締役社長の江川亮一氏は、シーセンス創業時から参画しており、メディアとのやり取りの経験も豊富だ。かつてはDMPの導入、最近ではサブスクリプションビジネスのコンサルティングを通してメディアの課題も十分に理解している。

 コンテンツ課金を成功させるには何をすべきか。またPIANOを活用してメディアはどのようなマネタイズが可能なのか。江川氏に話を聞いた。

■「サブスク=コンテンツ課金」ではない

 冒頭から話が広がってしまうが、江川氏は「サブスク(subscription)は『コンテンツ課金』だけじゃないというところは明確にしていきたい」という。

「マーケティング用語で言うとD2C(Direct to Consumer)の領域ですね。デジタルではないところも含めて、まずお客さんとの接点を作り、エンゲージメントを高めるためさまざまな施策に落とし込むのがまずスタートポイントです。その延長線上に、コンテンツ課金やイベント課金などの収益源を作り出します。結果として(顧客が)得られる対価には、コンテンツが読めるというのはもちろんあるんですけど、それ以外の特典、例えばオフラインのイベントやプレゼントなど、今まで無料でやっていたところも含めてメニュー化をしていくのがすごく重要かなと思っています」

 つまり「サブスク」は単に“電子版を有料で購読してもらう”だけにとどまらない。サブスクリプション(課金)のための準備を整えることで、コンテンツ課金以外にもマネタイズの道がひらける。ゆえに早い段階から、コンテンツ課金以外のマネタイズのメニューも視野に入れておくべきだという。

 同社が提供するシステムには、さまざまなパターンの課金や顧客管理のシステムがそろっている。単にコンテンツの対価を集金するだけにとどまるのか、顧客データを活用して、コンテンツ販売以外にもビジネスを拡張するのかは、プラットフォームを利用する側のやり方次第だ。

■“賢いデータ”を保有する

「まず重要なのは顧客、読者の情報でこれがベースになります。このデータが整わない限り、他のことをいくらやってもその結果がユーザーと紐付かないので、(収益を伸ばしていくのは)難しいんじゃないかなと思っています」と江川氏。注目すべきはペイウォールそのものより、まずは顧客の情報の整備だという。

 メディア内にもメルマガや読者アンケート、イベント参加者のリストなど多くの顧客データが存在している。こうした個人情報は、厳格に管理され保存はされているものの、積極的に活用されていないことが大半だ。

「物理的にハガキがあったり、アンケートのデータがエクセルに貯まっているだけで、それらのユーザーがどういう広告に触れたとか、どういう記事を読んだといった情報は不足しています。いろんなデータを集めるというのは結構進んでいるのですが、そのデータ自体が本当に価値のある“賢いデータ”かどうかというとそこまで整っているケースはまだまだ少ないようですね」

 では“賢いデータ”というのはどのようなデータなのか。まずはユニークな個人をキーにしてデータを統合することだ。アンケートに回答したA1さんとイベントに参加したA2さんが同一人物ならAさんとして統合し、回答内容や参加履歴を紐付ける。さらにそのAさんに関してネット閲覧履歴などのデータを紐付け、属性や趣味嗜好によってセグメントできるように整える。こうして、マネタイズの基礎データとなるよう育て上げたデータが“賢いデータ”だ。

 “賢いデータ”は、コンテンツにお金を支払ってくれる読者を集め、維持するのに利用することに加え、このデータからは読者像が明確に把握できるため、クライアントに対してより説得力のある広告商材を生み出すこともできる。またイベントの集客、さらには別のマネタイズ(紙メディアの販売促進など)にも利用できるかもしれない。(PIANO Japan提供の下記図1参照)

後編に続く

図1(PIANO Japan提供)
図1(PIANO Japan提供)
北元均 Written by
朝日新聞社にてデジタルメディア全般を手掛ける。「kotobank.jp」の創設。「asahi.com(現朝日新聞デジタル)」編集長を経て、朝日新聞出版にて「dot.(現AERAdot.)」を立ち上げ、統括。現在は「DG Lab Haus」編集長。