コロナ感染を警戒し、電車やバスなどの公共交通機関の利用を敬遠して、タクシー乗車を選択する人もいるだろう。しかし、タクシーの利用には、ビジネスパーソンにとって2つの手間が存在する。ひとつはタクシーを探す手間、もうひとつは経費精算の手間だ。月末にたまりにたまったタクシーの領収書を元に経費を申請し、その手間は、領収書を入力する経理セクションにも引き継がれていく。
しかし、今後この労苦が少しは軽減されるかもしれない。タクシー配車アプリ「S.RIDE」を展開するみんなのタクシー株式会社(東京都台東区)は、2020年9月より株式会社コンカー(東京都中央区)が提供する出張・経費管理クラウド“Concur Expense”との連携を発表した。
みんなのタクシーは、今後どのような事業展開を考えているのだろうか。モビリティサービス部長 橋本洋平氏に話を伺った。
質の高い乗車体験を提供
みんなのタクシーは、都内タクシー事業者、及びソニーグループの合弁企業であり、ソニーのAI/IT技術を活用するモビリティサービス事業者だ。配車サービス、広告、決済、データ活用などの事業を展開しているが、現在、その中心事業は配車サービスだ。エンドユーザーに提供する配車アプリS.RIDEには、ソニーグループが培ったUI/UXが生かされており、質の高い乗車体験を提供することができていると橋本氏は話す。
「メインターゲットは“忙しい30代から50代のビジネスパーソン”です。彼らに時短でスマートに利用していただくことが狙いです」(橋本氏)
S.RIDEで利用可能なタクシーは、東京都を中心に約1万2千台以上に達している。スマートフォンでS.RIDEのアプリを立ち上げれば、一番早く迎えに行けるように配車が指示される。
配車だけではなく、タクシーに乗り、支払って下りるまでが一連の乗車体験だ。そのためには、「決済」を便利にしなくてはならない。みんなのタクシーにはソニーペイメントサービス株式会社が株主として参加する。S.RIDEのアプリでタクシーを呼んだエンドユーザーは、クレジットカードやApple Payをあらかじめアプリに登録しておけば、降車時の支払いに煩わされることはない。
「コロナ禍で現金のやり取りに神経を使うエンドユーザーも増えてきました」と橋本氏。実際S.RIDEを利用した客の60%以上はアプリで支払うと言う。その他は現金なのかと聞くと、対面決済機のクレジットカードや交通系ICカードで支払う人が多いようで、キャッシュレスという意味合いではさらに割合が高いだろうとのことだ。
経費精算の手間も解消
タクシーでの乗車体験には、「その後」がある。ビジネスパーソンにとって、タクシー利用後の「経費精算」という手間だ。これを解消するべく今回、国内主要企業で多数採用されている経費精算システムを持つコンカー(SAP Concur)との連携に至ったと言う。
「コンカー様は大手法人を顧客としていて、われわれのターゲットユーザーとマッチしています。コンカー連携したS.RIDE でタクシーに乗れば、自動的にコンカーの経費精算システム上で乗車データが連携されるので、経費精算の手間がほとんどなくなります」(橋本氏)
経費精算は基本予め登録された法人クレジットカードで行われるが、個人のカードでも支払い方法さえ事前にS.RIDEのアプリ上でコンカー連携をしておけば問題ない。ただし、対面での支払い(現金や交通系IC等)のやり取りは連携できない。
また、配車サービスを使わず、街中で“流しのタクシー”を使ったような場合はどうなるのか。拾ったタクシーがS.RIDE導入車なら、後部座席にあるモニターを操作し画面に表示された二次元バーコードを、S.RIDEのアプリで読み込めば、そのままアプリ支払いが可能になりコンカーの経費精算連携に対応できる。
これらによって、エンドユーザーの経費精算はもちろん、経理関連部署の手間も大幅に削減される。この10月より電子帳簿保存法の改正が行われ、タクシーの領収書原本の添付が不要になったことも、このサービスの後押しになるだろう。
橋本氏は、配車から降車時の精算、その後の経費精算と一気通貫で快適な乗車体験を提供できるようになったと胸を張る。さらに、タクシーの運転手やタクシー会社の経理処理も便利になるはずだ。
「日本のタクシー」は優良な資産
今後のビジネス展開だが、TNC((Transportation Network Company)サービス型のライドシェア(ウーバーやDiDiのような有償の相乗り仲介)に発展していくのだろうか。
橋本氏によると、現時点でそれは考えていないとのこと。海外では、タクシーの安全性やチップの問題などからそのようなライドシェア事業が脚光を浴びたが、安全で高品質な運転を提供するドライバーを多く抱えた日本のタクシーは、それ自体が優良なアセット(資産)であり、ビジネスとして、それを生かさない手はないと橋本氏は話す。
それでは今後、みんなのタクシーはどのような未来像を描いているのかといえば、「短期的には現在のタクシーアプリを進化させていくこと」とのこと。
さらに中期的には、MaaS(すべての交通手段による移動を 1 つのサービスとしてとらえ、シームレスにつなぐ「移動」の概念)の中でポジションを確立させることだ。みんなのタクシーは、MaaSの分野でJR東日本や東京メトロなどとの連携を発表している。「鉄道、航空、レンタサイクルなどとの連携を強化していきます。エンドユーザーが電車を降りたら、そこにタクシーが待っていて、それに乗って目的地まで行ける。その予約・決済も行える一気通貫のサービスを提供していけるようにします」(橋本氏)
そして、長期的には自動運転社会に向けての貢献を考えている。タクシーは普通の自家用車に比べて走行距離が格段に長い。タクシーの膨大な走行データを取得し解析すれば、安全運転支援や自動運転技術に貢献できるはずだと同社は考えている。
「街中に、人や貨物が乗った自動運転車がぐるぐる回っている時代が来るでしょう。例えばこの取材が終わり、帰る時間になれば、自動運転タクシーがすーっと迎えに来て、最寄りの駅まで送ってくれるように」こうした未来像が実現するのに、みんなのタクシーが現在展開しているユーザー向けアプリや、AI技術が役に立つと言う。「“移動・交通の最適化”にわれわれの技術を生かしていきたい」と橋本氏は力強く結んだ。