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オープンソース手法をキャッチアップする中国~DiDiの例から

イメージ図(ロゴは「The Open Source Initiative Keyhole Logo.」)

オープンソース イメージ図(ドア上のロゴは合成 ロゴの出典は「The Open Source Initiative Keyhole Logo.」)

 2020年10月24、25日の2日間、北京/上海/深セン/成都の4都市及びオンラインの会場で、「中国オープンソースカンファレンス2020(COSCon’20)」が開催された。イベントでは中国大手テック企業各社が登壇し、ビジネスでのオープンソース活用について語った。

中国オープンソースカンファレンス2020+Apache Roadshow -China
中国オープンソースカンファレンス2020+Apache Roadshow -China

 このイベントは米国の大手オープンソース財団である Apache Software Foundationとの共同イベントで、100を超えるセッションが行われた大規模なイベントだ。筆者もオープンソースハードウェアトラックで登壇した。

 イベントではアリババ、テンセント、バイドゥ等のウェブ・テクノロジー企業やファーウェイ等のハードウェア企業、配車サービスのDiDi(滴滴出行)等のサービス企業、さらには大手銀行や保険会社、大学なども登壇した。

 これまでオープンソースとは縁遠かった中国でも、ここ1、2年で多く企業がオープンソース化を推進する部署を設け積極的な関与を進めている。

すべての業務に及ぶDiDiのオープン化

イベントに登壇した王氏。ソフトウェア開発の専門家で、オープンソースの手法をビジネスに導入することのプロフェッショナル
イベントに登壇した王氏。ソフトウェア開発の専門家で、オープンソースの手法をビジネスに導入することのプロフェッショナル

 DiDiでは2017年からオープンソースに取り組み始めた。この日のイベントに登壇した同社の王蕴博オープンソースマネージャーは、オープンソースを導入するビジネス的なメリットと取り組みの内容について説明をした。

 同社では、必要な機能はなるべくオープンソースのものを採用することで、プロダクトの品質を向上させている。さらに、自社で開発したソフトウェアもオープンソース化し、現在55のオープンプロジェクトをGithub上において公開している。これらのソフトウェアは、外部からの改善案や修正を取り入れることで、より良いものとすることができる

 このようにオープンな場で外部からの協力を得るためには、誰でも途中からプロジェクトに参加できるように整備されたドキュメントや、今後の発展計画などのプロジェクト情報の共有が欠かせない。これらは社内でソフトウェアを開発する場合にも本来は必要な要素だ。社内だけで開発する場合には、こうしたことはなおざりになりがちだが、オープンソース化を推進するための組織を整えることで、これら必要なものの整備も同時に進めているという。

 また、同社では外部のオープンソースプロジェクトとの関係を深めるために、コミュニティへの社内エンジニアの積極的な参加を促しており、そこでの貢献に対しても表彰を行っている。加えて主要なオープンソース財団に寄付や支援をしていることなども明らかにした。

DiDiが公開している「AIでマスクを付けているか否かを検出するエンジン」
DiDiがオープンソースソフトウェアとしてGitHub上で配布している「AIでマスクを付けているか否かを検出するエンジン」

 さらにDiDi内のデータを、研究者などを対象に開放し研究や授業で使えるように整備している。すでに70以上の論文でDiDiのデータが活用され、数十の高校授業で使われているという。

 上記のような取り組みを行うためには、技術部門はもちろん、人事、広報など社内の広範な部門との業務連携が必要だ。そのため、DiDiでは複数の部署にまたがる形で「オープンソース推進室」を設けている。こうして、あらゆる面でオープン化を進めていくことのプラス面は、技術や製品だけではなく、人事や教育、広報など企業ガバナンス面にも及んでいる。企業内にあるリソースをオープン化し、より広い世界と接点を持つことで得られるメリットは多い事がわかる。

米国のオープン化の流れは中国へ

 多くのテクノロジー企業がユニコーンに成長している中国だが、オープンソースについてはこれまでさほど理解が進んでいなかった。中国の技術コミュニティを調査すると、ソフトウェア開発言語などについては、日本や欧米同様活発な意見交換が行われているが、テストや開発手法の話題になると参加者が大きく減る。とにかく立ち上げがゴール。ひたすらスクラップアンドビルドを繰り返している。市場が急拡大している時期ならその手法でも問題ないし、実際にそういう企業が今も中国では多い。

 また、オープンソース云々以前に、そもそもライセンスや知的財産への理解が不十分で違法コピーが横行する時代が長かった。近年は政府の取り締まりも進み、違法コピーを見かけることは少なくなったが、スマートフォン大手のvivoが「スマートフォンのカーネルを改造して高速化した」と発表したことに対して、「Androidカーネルは改変後のソースコード公開が義務付けられているGPLライセンスで公開されている。改変したのならソースを公開しなければならない」と指摘されて沈黙したのは2018年のことだ。

 オープンソースの手法がソフトウェア開発に有効だと説明し、社会現象となったエリック・レイモンドの「伽藍とバザール(原題:The Cathedral and the Bazaar)」が公表されたのは1997年。当時はオープンソース運動に反対していたマイクロソフトも、現在はThe Linux Foundationのプラチナメンバーになり、主力製品であるVisual Studio Codeをオープンソース化するなど、現在はオープンソース運動を牽引する側に回っている。グーグルのAndroid、アップルのiOSともにカーネルの開発はオープンソース方式で行われている。

 国を問わず多くのテクノロジー企業がオープンソースを活用し、自社のソフトウェアを強化していく中、これまで利用者としてしかオープンソースと関わってこなかった中国でも、オープンソースの開発方式が広まりつつある。

 アメリカ同様テクノロジー企業の多い中国からDiDiのようにオープンソースを活用する企業が多く出てきているのは理解できる。国からの後押しも始まった。

 こうした急速な普及には不安要素もある。かつて、メイカー運動では中国政府は大きな後押しを行い、大量の補助金による中国全土でのバブル的なメイカースペース乱立を招いた。結果、多くのメイカースペースが補助金停止後に閉鎖している。ベンチャー企業育成でも同様の急激な拡大とバブル崩壊が見られた。中国のオープンソースについてどのような変化が起こるかは注視が必要だ。

高須正和 Written by
オープンソースハードウェア、メイカームーブメントのアクティビスト。IoT開発ボードの製造販売企業(株)スイッチサイエンスにて事業開発を担当。 現在は中国深圳在住。ニコ技深圳コミュニティCo-Founderとして、ハードウェアスタートアップの支援やスタートアップエコシステムの研究を行っている。早稲田大学ビジネススクール招聘研究員、ガレージスミダ研究所主席研究員。著書に『メイカーズのエコシステム』(インプレスR&D)『プロトタイプシティ』(KADOKAWA)訳書に『ハードウェアハッカー』(技術評論社)など。