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「NFT」ブームをあおる、75億円デジタルアートの買い手

米国人アーティスト、ビープルのデジタルコラージュ作品(画面内)を非代替性トークン(NFT)として6930万ドル(約75億円)で落札したビグネシュ・スンダレサン氏(2021年4月7日撮影)。(c)Roslan RAHMAN / AFP

米国人アーティスト、ビープルのデジタルコラージュ作品(画面内)を非代替性トークン(NFT)として6930万ドル(約75億円)で落札したビグネシュ・スンダレサン氏(2021年4月7日撮影)。(c)Roslan RAHMAN / AFP

【AFP=時事】デジタルアート作品を記録的な6930万ドル(約75億円)で落札したブロックチェーンビジネスの起業家は一見、裕福なコレクターには見えない。

 インド出身のビグネシュ・スンダレサン(Vignesh Sundaresan)氏(32)は、Tシャツにチノパンというカジュアルな装いで、シンガポールの標準的なアパートに住み、不動産や車も持たない。彼の投資先のほとんどは仮想世界だ。

「自慢の持ち物といえば、コンピューターくらい。それから時計でしょうか」。スンダレサン氏は、飾り気のない自宅のフラットでAFPに語った。彼はメタコバン(MetaKovan)の別名でも知られる。

 その控え目な振る舞いからは、非代替性トークン(NFT)と呼ばれるデジタル資産に投資する大富豪だとは想像できない。NFTとは、ブロックチェーン技術を用い、芸術作品からインターネット・ミームまでのさまざまなデジタルコンテンツを、所有可能な唯一無二の資産に作り替えたものだ。

 NFTの出現により、あらゆる種類のデジタルアートを収益化する新たな機会が生まれたと見る向きも多い。デジタル作品の複製は無限に可能でも、作品の最終的な所有権を主張できるのは、そのNFT所有者だ。

 スンダレサン氏が先月、史上最高価格の6930万ドルで購入したNFT作品は、米国人アーティスト、ビープル(Beeple)のデジタルコラージュ「Everydays: The First 5,000 Days(毎日 最初の5000日間)」。

 1日1作品を制作し、出来上がった5000作を一つにまとめたこのコラージュは、ビープルを存命する高額作品アーティストの第3位に押し上げた。

 スンダレサン氏は妥当な価格だったと言う。「それほど重要な作品だったと思う」

「1枚の作品としてそれ自体、素晴らしいのだが、世界に対して何かを告げよう、何かを象徴的に表そうとする意図がある…つまり、表層の下で起きている全てのことを」

 NFTの人気は緩やかに上昇していたが、ビープルの最新作の落札でメディアの脚光を浴びた。

■「魂のつながり」

 スンダレサン氏の投資ファンド「メタパース(Metapurse)」は昨年12月、ビープルの別な20作品一式を購入。その所有権の一部をトークンとして販売した。当初、1トークンにつき0.36ドル(約39円)だったが、今では5ドル(約540円)前後だ。

 だが、「The First 5,000 Days」を購入する過程は熾烈(しれつ)だったという。競売大手クリスティーズ(Christie’s)のオークションは2週間続いた。わずか100ドル(約1万900円)から始まった競りを、落札寸前には2200万人がオンラインで見守った。

「これほど競い合うとは思っていなかった」とスンダレサン氏。「私でも、あれだけの金額を費やすのは非常に厳しい」

 購入した同作品は、バーチャル画廊で展示する計画だ。「アバターとして画廊に行き、各階を回り、このアートを鑑賞することができる」

 スンダレサン氏は「The First 5,000 Days」に個人的な縁を感じたという。自分とビープルの歩んだ道に共通するものを見たからだ。2人ともそれぞれの分野でほぼアマチュアとして始め、長年の努力が実を結んだ。

 ビープルが同コラージュの制作を開始したのは2007年。ウェブデザイナーの仕事に飽き飽きしていた頃だ。

「彼は日々成長し、13年かけてここまで来た」とスンダレサン氏。「そこに彼と魂のつながりを感じた」

■「いい時にいい場所にいる幸運」

 工学部の学生だった頃、スンダレサン氏はラップトップ型パソコンさえ買えなかったと言う。

 さまざまなウェブサービスを立ち上げようとしたが、失敗。運が回ってきたのは、2013年に暗号通貨の会社を設立してからだ。

 現在、スンダレサン氏はITコンサルティング会社の最高経営責任者(CEO)であり、NFT専門のファンド「メタパース」に出資している。

 史上最高額の購入は、スンダレサン氏が所有している他のNFTの価値を引き上げるための宣伝行為だという批判を同氏は否定。あくまでもアーティストたちを支援するためだと主張する。

 しかし、NFTブームがアーティストを支えるという見方に懐疑的な向きもある。

 欧州経営大学院(インシアード、INSEAD)のアントニオ・ファタス(Antonio Fatas)経済学教授は「大金を稼ぐアーティストもたまに見かけるが、運がいいからだ。いい時にいい場所にいたからだ」と語る。

「世に知られようと頑張っている普通のアーティストにとって、これがどれだけの助けになるか分からない」 【翻訳編集】 AFPBB News|使用条件