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【JOI ITO’S PODCAST ―変革への道― Vol.13】霊長類学者の山極壽一さんと、ゴリラの社会から見た人間の姿と環境問題を考える

収録現場にて山極壽一氏(左)松井孝典氏(中央)伊藤穰一(右)

収録現場にて山極壽一氏(左)松井孝典氏(中央)伊藤穰一(右)

 マサチューセッツ工科大学のメディアラボの元所長で、株式会社デジタルガレージの共同創業者でもある伊藤穰一が、さまざまなゲストを招きデジタル変革について考えていくポッドキャスト「JOI ITO’S PODCAST  ― 変革への道― 」。

 今週は、霊長類学者で総合地球環境学研究所の所長山極壽一さんと惑星科学者で千葉工業大学の学長の松井孝典先生をお迎えして鼎談を行なった。今回の鼎談は、第10回目の配信で登場した松井先生の紹介で実現している。

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伊藤穰一 (以下、伊藤):今日は松井先生の紹介で、霊長類学者の山極壽一先生にお越しいただいています。 松井先生、ぜひ山極先生を紹介してください。

松井孝典(以下、松井):私は山極さんとはもう何十年っていう付き合いがあって、ずっと交流を続けているんです。それでなんで面白いかというと、私はだいたい型破りな人が好きなので、学問領域にガチガチにこもっているような人は面白くないと思ってるんですが、山極さんはどんな話題でも彼の持論というのがあって展開してくれるので、面白い議論がいつもできるんですよね。だから今回もどんな話題でもやってくれると思って、今日いいんじゃないかなと思ってゲストに来てもらいました。

伊藤:ありがとうございます。この間は松井先生に宇宙の話を色々していただいたんですけど、山極先生には京大の霊長類研究所でどんな研究を行っていて、それが我々人類にどういう学びがあるかを  少し教えていただいてもいいですか。

山極壽一(以下、山極):霊長類学というのは、もともと19世紀のダーウィンの進化論にさかのぼるんですが、それまでは哲学の分野、あるいは宗教学の分野では人間は特別な存在だと言われていたんです。でも、ダーウィンの進化論から始まって20世紀の中盤にDNAという遺伝子が明らかになって、すべての生物は同じ遺伝子の組み合わせによってできているということが分かってしまった。人間と動物の境目ってのはどんどんなくなってきた訳です。で、そのときにじゃあ人間が人間独自のものと思ってきた社会や文化って一体何なんだろう、と。いつごろそういう原型ができて、人間はそれをどういうふうに発達させてきたのかっていう疑問が湧き始めたわけです。そこに私の師匠のそのまた師匠の今西錦司という先生が、1950年代にサルの研究を始めました。「サルを知ることは人間を知ることだ」ということなんですね。つまりサルも人間も近い過去に共通の祖先を持っている。そこからサルはサルになり、人間は人間になったわけで。そうすると人間というのは、昔から人間の社会や文化を持っていたわけではない。どこかで文化的なもの、社会的なものというのを進化させてきたと考えられるわけですね。それを調べるために実際にサルの群れの中に入ってみて、サルの社会を経験して、ああこれがサルの社会なんだってことを実感しなければならない。で、そのために個体識別といって一頭一頭のサルに名前を付けて、サルの行動を群れの中に入って内側から記録をするということを始めたわけですよ。

 サルやゴリラと共に生活して、彼らの社会や文化の成り立ちを調査した山極先生。ゴリラの社会について、教えてくれた。

山極:人間に系統的に近い霊長類を類人猿と言うんですが、系統的には1200万年ぐらい前からそれぞれ分化してきた非常に遺伝的にも人間に近い類人猿なんですね。その中にオランウータン、ゴリラ、チンパンジーっていうのがいるんだけど、全部個性や社会が違っているわけですよ。例えばオランウータンは単独生活をしていて、ほとんど社会というような目に見える群れを作らない。ゴリラは一頭の雄と複数の雌が家族的な集団をつくっている。チンパンジーは家族は作らずにもっと大きな群れ、50頭とか100頭ぐらいの群れで、複数の雄と複数の雌が入り乱れ入り乱れて乱交・乱婚の社会を作ってるわけですよ。全然社会が違う。  私は家族の起源に関心があったので、家族の原型を未だに持っていそうなゴリラの社会を調べることが多分一番近い道だろうと私は考えて、それでアフリカのゴリラの社会を研究しに行ったわけです。

伊藤:ゴリラを研究して人間社会について例えばどういうことがわかるんですか?

山極:社会というのは目に見えないんです。あるいは関係というのは目に見えないですね。それは人間同士にしたってゴリラ同士にしたってそうです。人間は言葉でそれを解釈するんだけれど、我々はお互い同士の関係を言葉だけで作っているわけではありません。お互いが会った時にどう感じるかという気持ちだとか、好意だとか、そういったいろいろなものによって社会というものを感じているわけです。言葉のない社会から人間の社会は出来てきたわけだから、最初に言葉ありきじゃないんですよ。人間がチンパンジーとの共通祖先から分かれたのは約700万年前。ところが今我々がしゃべっている言葉が出てきたのは、たぶんたった7万年ぐらい前だろうと言われているわけですね。ってことは、99%は言葉なしで進化してきたわけです。ということは、言葉が出てくる前に人間の社会の原型ができたと考えるのがおそらく正当だろうと思う。そうすると、人間の社会の原型というのは、言葉なしで作られた。ということは、今我々が言葉で説明してるような社会感というのはなかったわけですね。

じゃあ違う感じはどこで作られたのか。それはゴリラを見てみれば、ゴリラは言葉をしゃべれませんから、ゴリラ同士が作っている社会というものを我々は実感すればいいわけですね。たとえばニホンザルというのはお互いの強い・弱いでもって認知をしてるわけですね。彼らの集合というのはそういう強い・弱い、誰と誰が強いか弱いかという認知で成り立っている社会なんですね。ところが一方、ゴリラの場合にはそういう認知で結びついているわけじゃないんですよ。

山極:ニホンザルの社会とゴリラの社会の大きな違いというのは、何か対立したときにゴリラは勝ち負けをつけないから、互いに対立しちゃうわけですね。それがエスカレートするとお互い  傷ついてしまう。必ずといっていいほど仲裁に入るんですよ。仲裁者が両方をなだめるから、互いにメンツを保ちながら対等な関係を維持して、その場で共存できるわけです。仲裁者がいるからこそ対立点というのをそのまま温存しながら、お互いに抑制し合って共存できるということになる。そういう社会なんですね。

で、人間の社会がどっちどっちから出てきたかということを考えるとゴリラだなと思うんですよね、ゴリラの場合はかなり複雑でやっかいだし、だけどそれは発展性があります。つまり関係を変えられるってことですね。で、人間の社会というのは我々非常に複雑な社会を持っているけれども、それは関係を変えられるからこそさまざまな集団を渡り歩くことができて、自分はその集団によって自分のアイデンティティを変え、なおかつ人間関係を変えながら付き合うことができるわけでしょう。そうすると、ゴリラの方に近いんだろうと思うんですね。で、そういうことがニホンザルとゴリラの社会を比較するとわかってきた。簡単に言うとそういうことですね。

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ゴリラの社会に関する話題は、地球科学者の松井先生も交え地球の環境問題の話に議論は及んだ。この続きは、番組でお楽しみいただきたい。

【JOI ITO 変革への道 – Opinion Box】

番組では、リスナーからのお便りを募集しています。番組に対する意見だけでなく、伊藤穰一への質問なども受け付けます。特に番組に貢献したリスナーには番組オリジナルのNFTをプレゼントしています。

https://airtable.com/shrKKky5KwIGBoEP0

【編集ノート】

伊藤穰一からのメッセージや、スタッフによる制作レポート、そして番組に登場した難解な単語などはこちら。

https://joi.ito.com/jp/archives/2022/01/17/005754.html

JOI ITO’S PODCAST ―変革への道―
JOI ITO’S PODCAST ―変革への道―

■「JOI ITO’S PODCAST ―変革への道―」

#13 霊長類学者の山極壽一さんと、ゴリラの社会から見た人間の姿と環境問題を考える

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