災害や気候変動、人口減少などの複雑で困難な課題に対し、都市のデジタルツインを生成して、解決方法を探ろうという動きが加速している。以前、当媒体でも紹介した静岡県の取り組み「VIRTUAL SHIZUOKA」もそのひとつだが、首都東京でも2030年のデジタルツイン実現に向けた準備が進んでいる。
「東京都デジタルツイン実現プロジェクト」を中心的に推進しているのが、2021年度に誕生した東京都デジタルサービス局だ。デジタルサービス局のミッションは「デジタルの力を活用した行政を総合的に推進し、都政のQOS(Quality of Service)を飛躍的に向上させること」であり、「各局区市町村のDX推進を技術面からサポート」、「デジタルに関する全庁統括」、「デジタル人材の結集と都庁職員の育成」の3つの機能を中心に都庁のデジタルガバメント化を実現するとしている。その施策のひとつが「東京都デジタルツイン実現プロジェクト」だ。
東京は巨大な都市であり、既存組織の権限も複雑に絡み合っている。デジタルサービス局は、本年度から実証事業と有識者検討会の定期実施などをスタートさせ、都庁全体で取り組むプロジェクトとして推進している。まず、デジタルツイン実現に資するものとして都が2021年度に行った3つの技術実証を整理してみる。
「実証01 地下空間も含めたリアルタイム人流可視化」は大手町・丸の内・有楽町地区で行われた。リアルタイム人流予測データを活用し、地上と地下空間の混雑度を可視化することで混雑回避を促進し、避難経路の表示やオフライン災害情報提供をすることで、防災・避難意識の向上させるにあたっての技術課題の確認が目的だ。
実証参加者は都提供のWebアプリや東京デジタルツイン3Dビューア(β版)を使用し、災害時の避難経路や地下通路や地上の混雑度を実際に閲覧し、利用してみての感想をアンケートとして都にフィートバックした。
都内の地下には上下水道やガス、電力、通信などの設備が埋設されている。うかつに掘り返すとインフラ断絶するなどの事故につながる。こうした地下埋設物をデジタルツインで管理できるかを検証したのが「実証02 地下埋設物の3D化による業務改善効果検証」だ。錦糸町駅北側エリアにて、図面から地下埋設物の3Dモデルを作成。レーダー探知による実測値と比較し、精度検証を行った。地下埋設物の3Dモデル化の課題や施工協議等での活用による業務改善効果等もあわせて検証した。
「実証03スマートフォンを活用した3Dマップ更新検証」は、都民参加で3Dマップを更新するエコシステムの構築に向け、技術的課題・将来展望を整理することを目的に行われた。都市のデジタルツインは大型測量機器を利用して点群データを取得するため、建物の内部や、路上の看板など変化する街のディテールの3Dデータを取得することが難しい。そうした欠損データを都民参加によって補い、更新しやすいよう、一般に普及しているスマートフォンのLiDAR機能(レーザー測量)を用いて点群データを取得し、ベースとなる点群データに重ね、3Dマップを更新する仕組みを検証した。
これら実証事業と並行し、有識者による「東京都における『都市のデジタルツイン』社会実装に向けた検討会」が設置されている。2022年2月3日には第4回検討会が開催された。
「実証01地下空間も含めたリアルタイム人流可視化」については、アンケート結果かから「混雑度や混雑回避ルートの提供は混雑回避行動に有効」と報告された。ただし、ユニバーサルデザインへの配慮や計測から表示までの時間短縮や見せ方への工夫など留意事項も挙げられた。
「実証02地下埋設物の3D化による業務改善効果検証」については課題として、電気、水道、ガスと事業者ごとに異なるフォーマットのデータを統合するには事前に変換する必要がある事が判明した。また、実測により各事業者の図面には記載されていない埋設物、例えば現在は利用されていない残置管なども地中にあることがわかった。デジタルツインの精度が高まれば、新規に埋設物を設置するにあたっての協議もオンラインで済ますことが可能になるかもしれないが、それには制度設計や運用の方法など、もう一段の工夫が必要なようだ。
「実証03スマートフォンを活用した3Dマップ更新検証」については、実証の成果として、特定条件下においてスマートフォンで取得した点群を、ベースとなる大型点群に自動的に重ね合わせ、点群を更新することに概ね成功した。
今後の課題として、例えば、鏡などの反射素材はLiDARでの点群取得が難しいこと。地下街ではGPS機能が利用できないため、GPSで取得できる位置データを利用してのデータの重ねあわせが難しいことなど指摘された。さらに実際に都民が3Dマップ更新に参加できる仕組みづくりが今後は必要とされた。ユースケースとしては、広告・看板等の更新、バリアフリー情報取得・表示などが考えられると報告があった。これら3点の実証については、現在最終報告の取りまとめ中とのことだ。
検討会の最後には、「デジタル技術を“外向け”だけでなく“内向け”に活用し、都職員の業務を軽減できるのはすばらしい」「データ収集や他部局との連携が進んでいるようで楽しみ」「(デジタルツイン)を実務で使えるというモデルを東京が各自治体に示すべき」などと前向きなコメントが出席の有識者から寄せられた。
その一方、「静岡の事例では点群サポートチームの存在が大きかった。そのようなチーム作りも同時並行してやっていくべき」「都民参加型のデータ収集をどう設計するかを検討すべき」「都民参加の手法について、街路樹のデータベース化が進んでいるようだが、例えば樹木の状況を都民から報告してもらうような仕組みはどうか」など、都民参加の形をどう作っていくのかという提言も有識者から寄せられた。それに向けて、「外向けの露出機会を増やすべき」という提言も出された。
2030年の完成に向け、東京都デジタルツイン実現プロジェクトは着々と進んでいる。東京で生活する市民のひとりとして、期待を込めて見守りたい。