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【JOI ITO’S PODCAST ―変革への道― Vol.19 】デジタル通貨やNFTアートだけじゃない ワクワクすることが一杯 web3世界とは

Web3に至る各ステップ(写真円内は伊藤穰一)

Web3に至る各ステップ(写真円内は伊藤穰一)

 インターネット黎明期からその中心で活動し、主導してきた伊藤穰一にとっても、90年代にインターネットが普及し始めた頃以来のワクワク感があるという「web3(ウェブスリー)」。

 今回はweb3について、それがどういったもので、そこで今なにが始まりつつあるのか。そして近い将来私たちの暮らしやビジネスにどういった変化をもたらすのかを、伊藤が身の回りの出来事を例に引きつつ解説した。

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 Web3に至る各ステップについて伊藤は次のように説明している。

「最初にインターネットができた時は、eメールやインターネットプロバイダーが、グローバルにネットワークでつなぐことができました。で、次がWeb1.0。これは電子出版やイーコマースに代表されます。Web2.0は人が書き込んだり、ソーシャルメディアでシェアしたりと『食べログ』のような、みんなの意見を聞いてコンテンツを作るWebが2.0になります。web3は、分散型や自分でオーナーシップ(使用権)を持つものが主流になります。代表的なのはビットコインやイーサリアム、それとNFTです。」

 web3のコアになるのは、ブロックチェーンの技術だ。ブロックチェーンとは、いろんな説明があるがここでの伊藤の話を要約すると「取引履歴を暗号技術を使って1本の鎖とし、そこに記載された履歴をみんなが確認できるシステム」だ。ビットコインでは、この鎖を作り、維持するために働いている人(マイナー)への報酬が発生する。後に登場したイーサリアムもぼぼ同様の仕組みで、この報酬が通貨のような価値を持つようになったためブロックチェーンは急速に発展した。

 ブロックチェーンにおけるデジタル通貨は、伊藤にはインターネット黎明期におけるメールと重なって見えるという。インターネット上に最初に現れた便利なツールがメール。ブロックチェーンを、最初に世に知らしめたのがビットコインなどのデジタル通貨というわけだ。そして、インターネット上では、メールを超える新しい使いみちが次々と開発されたように、ブロックチェーン上でも、デジタル通貨以外にも新たなアプリケーションやサービスが次々と生み出されるのではないかと予想される。「ブロックチェーンの上に広がる新しいウェブみたいなもの」(伊藤)それらがweb3(※)だ。

※セマンティックウェブについて語る際などに「Web3.0」と言われ、記述されることもあるが「ネイティブのクリプト(関係の)人たちは『web3』と呼んでいるような気がするので僕はそう(web3)使っています」(伊藤)

インターネットとブロックチェーンの相違点

 ブロックチェーンは、インターネット上の技術ではあるが、技術的な階層別に見ると、お金の動きには大きな違いがある。階層を「プロトコル」と「アプリケーション」に分けてみると、インターネットのプロトコル(TCP/IPやイーサネットなど標準化され運用されている)は、お金に苦労してきた。フリーのオープンソースも多く使われており、運営母体も寄付で運営され、非営利であるものが多い。それに対して、その上(アプリケーション層)のレイヤーには、フェイスブックやグーグルなど巨大企業が存在しており、豊富な資金力をもったモノポリーを生み出すぐらいの厚い層となっている。

 ブロックチェーンでは、インターネットと異なり、アプリケーションのレイヤーが薄く(参加者が相対的に少ない)、その下のプロトコルの技術のレイヤーがお金を持っている。つまりビットコインやイーサリアムは、そのものがお金としての価値を持つために、このような構造になっている。この特徴が、後述するが、ベンチャー投資の分野にも興味深い変化をもたらしているという。

NFTが持つ多様な可能性

 さて、それではweb3の世界では何が起こりつつあるのか。

 高額の取引が度々話題になるNFTアートなど、デジタル通貨に次いで知られてきたのがNFTだ。いくつでも簡単にコピーを作ることが可能だったデジタル画像などにも「一点モノ」の価値を与えられるとして注目を集めているNFTは、画像だけでなく土地の使用権や株券にもなりうる。

 しかしNFTの機能がフルに活用されるのは、この1点モノ取引のビジネスではない。例として伊藤が取り上げたのが「Bored Ape Yacht Club(以下、BAYC)」だ。このApe(類人猿)キャラクターは、表情やファッションが異なるものが1万点ある。有名人が次々に購入したこともあり、このキャラクターの価格は大幅に上昇した。と、ここまではNFTアート同様、希少価値が高値の取引につながったという話だが、このBored Ape NFTには他の楽しみがある。

 Bored Ape NFTはキャラクターの著作権のコントロール込みで販売されているので、これを自分のプロフィール画像として利用したり、Tシャツにプリントしたりする事もできる。また、「ヨットクラブ」の名前の通り、会員制クラブのような機能があり、その入場パスの役割も持っている。所有者のみが参加できるパーティーやスペースなども存在しており、所有者だけに向けた特典なども次々と開発されている。

 しかし、こうなってくると最初は、愉快な画像のギャラリーであり、“decentralize(非中央集権)”あったはずのものが、これまであった会員組織と同様「お金持ちだけがパスもらって、いい思いをするような集団になってしまうのでは」という懸念が伊藤にもあるようだ。

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 ところで、当媒体の読者はすでにご存知かもしれないが、毎週月曜日に更新されるPodcast番組「JOI ITO’S PODCAST ―変革への道―」でも、番組あてにメールを送ってくれたリスナーや、番組を運営するクルーたちにNFTを配布している。このNFTが参加資格の証となり、番組のコミュニティーに参加したりディスカッションを行ったりすることができる。

 なにに参加できるのか、どんな特典があるのか、その資格は所有するNFTによ紐付けされている。さらに、円やドルなどの通貨には交換できないが、コミュニティー内でチップや貢献の対価として利用できるソーシャル・トークンを発行し、流通させて今後さまざまな試みを行う予定だ。

 NFTの多様な機能や可能性を体感してみたい方は、是非ここに参加してみてはいかがだろう。

web3に集まる人 広がる溝

 NFTアートやBAYCに集まる人は、web3の可能性や面白さにいち早く気づいた人たちだ。こうした人が集まるコミュニティーの特徴として、仲間内だけで通用するスラングや略語が多く存在する。例えば「gm」はグッド・モーニングで、Twitter上では朝の挨拶として「gm」が飛び交っているらしい。

 米国においてもブロックチェーンにいかがわしさを感じる人々も多い。繰り返される詐欺や、マイニングで消費される膨大な電力の問題からweb3懐疑的な人々に、その素晴らしさを知ってもらおうという努力がこれまではなされてきた。しかし、web3がある程度知られ、お金や人が集まり始めた昨年春〜夏あたりから「ついてこない人は『もういいや』となって見捨てた感じがする」と、両者の間に溝ができ、それが広がりつつあることを伊藤も感じている。

 年配の人に多い懐疑派と、web3に可能性を感じる若い人たちの間のこうした分断は、1960年代後半のピッピー・ムーブメントに似たところがあると言われている。中央集権的なものへの反発、仲間内で使われる新しい言葉(“Hash”はヒッピーでは「大麻」、web3では「ハッシュ値」も偶然ながら用語も共通!)などだ。

 web3はお金儲けや金融取引のためだけの技術ではない。上の世代が作ってきたビジネスの仕組みを変革できる可能性を秘めた技術で、そのコンセプトゆえに若者たちの共感を得やすく広がりやすい。

DAOで変化する資本と労働

 ビジネスの仕組みを変革するということで、資本と労働の関係に大きな変化をもたらす興味深い例として伊藤が紹介したのが「DAO」だ。「Decentralized Autonomous Organization」を略した名称で、自律分散型組織とよばれている。この組織では株式を発行するかわりに、ネット上でトークンを発行する。配布対象には、組織で働く人や、顧客までもが含まれることもある。トークンは投票権を伴っており、それをもって組織の運営に携わることができる。さらに組織が生む利益は、トークン所有者には配当される。アメリカでは、そのトークンをビットコインなどと交換することも可能なので、通貨としての利用もできる。つまり「ものすごく流動性が高い株券をアルバイトの人も、もらっているようなもの」(伊藤)で、そうなるとこれまでは利害を同じくすることがなかった、株式を所有する資本家と、そこで働くだけの労働者は、DAOにおいてはその貢献に応じて、配当にも意思決定にも同じように関与することができるようになる。

 さらに、冒頭にも述べたが、ベンチャー投資の分野でも変化の兆しが現れている。

 ここ最近では、伊藤が資金調達を必要とするweb3のスタートアップに、有力な投資家と話すようにアドバイスしても、「有名な人かもしれないけど、web3わからない人に話す時間がもったいないからいらないや」と言われる事もしばしばだという。

 このように大手であっても、web3の担当がいないベンチャーキャピタル(VC)からは資金調達をしないという風潮が広がっているため、web3を本気でやっているVCとそうでないVCの間にも溝ができつつあるという。

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 デジタル通貨や、NFTアート以外のブロックチェーン上のアプリケーションがひらく世界の可能性に触れてもらうことができたと思う。番組では、web3に対する各国の認識や温度感の違い。日本の勝機は、Web3のどこにあるのか。またDAOを活用した新しい組織の紹介や、ベンチャー投資の新たなスキームなどについての話題も。

【JOI ITO 変革への道 – Opinion Box】

番組では、リスナーからのお便りを募集しています。番組に対する意見だけでなく、伊藤穰一への質問なども受け付けます。特に番組に貢献したリスナーには番組オリジナルのNFTをプレゼントしています。

https://airtable.com/shrKKky5KwIGBoEP0

【編集ノート】

伊藤穰一からのメッセージや、スタッフによる制作レポート、そして番組に登場した難解な単語などはこちら。

https://joi.ito.com/jp/archives/2022/02/28/005766.html

JOI ITO’S PODCAST ―変革への道―
JOI ITO’S PODCAST ―変革への道―

■「JOI ITO’S PODCAST ―変革への道―」

#19 デジタル通貨やNFTアートだけじゃない ワクワクすることが一杯 Web3世界とは

https://joi.ito.com/links/

Written by
朝日新聞社にてデジタルメディア全般を手掛ける。「kotobank.jp」の創設。「asahi.com(現朝日新聞デジタル)」編集長を経て、朝日新聞出版にて「dot.(現AERAdot.)」を立ち上げ、統括。現在は「DG Lab Haus」編集長。