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カミカグが作る おしゃれで軽くて丈夫な家具の素材はダンボール

カミカグ代表取締役 和田氏

カミカグ代表取締役 和田氏

 東京・墨田区の東武鉄道亀戸線小村井駅近くに、「協同組合テクネットすみだ」という施設がある。ここは、ものづくりの技術を持つ中小企業が集まる都市型工場「工房サテライト」だ。ビルに入ると、あちこちから金属音や木材を加工する音が響いてくる。その一角にあるのが、おしゃれなダンボール家具のスタートアップ、株式会社カミカグの事務所兼工房だ。カミカグ代表取締役和田亮佑氏は、東京大学で建築を専攻し、昨年9月大学院を修了した。そんな和田氏がなぜダンボール家具のスタートアップを立ち上げたのだろうか。

学生生活の課題解決を

 カミカグは昨年会社登記されたが、そもそも2020年、学生団体として立ち上げたものだという。そのきっかけは、和田氏が受講していた東大の授業「アントレ道場」だ。その授業では起業を学ぶための初級、中級、上級の3段階があり、初級は起業家の話を座学で聞く。中級ではテーマを与えられ、事業案を作成する。そして上級になると実際にビジネスコンテストに出場する。和田氏は、中級の課程で、「学生生活の課題を解決するもの」というテーマを与えられ、4人グループで事業案を考えることになった。そこで思いついたのが「ダンボールで家具を作ること」だったという。

ダンボールのスツール作品(提供:カミカグ)
ダンボールのスツール作品(提供:カミカグ)

「中級の課程でだいたいみんな考えるのはスマホのアプリとか、SaaSのサービスだと思ったんですよね。そんなんじゃなくて“もの”を作りたいと考えました」(和田氏)

 和田氏は、学生が引っ越しするときに困るのが家具の扱いだと話した。机や椅子を買うと、引っ越しするときに持っていくのがたいへんだ。粗大ゴミに出すとけっこうなお金を取られる。そこで考えたのがダンボールの家具だ。ダンボール家具なら、粗大ゴミでなく資源物として処理できる。和田氏は建築を学んでいたことから、ダンボールは軽いが強い材料だということは認識していた。

 スツール(椅子)をCGで作成し、思い描いたとおりに強いスツールができた。実際に座ってみて感動したという。実験施設で強度を計測すると1トンを超える荷重にも耐えられることが分かった。いよいよ上級課程(ほとんどの学生は中級課程で終わる)、つまりビジネスコンテストに出ることにした。和田氏と仲間は、ダンボール家具をどんどん作っては友人たちに買ってもらい、使い心地を聞いてトラクション(事業成果)を集め、出場したビジネスコンテストでは優秀賞を獲得した。そして、和田氏は、大学院の修了を待って、カミカグを法人化し、本格的にビジネス展開を開始した。

ダンボールのリサイクル率は高い

 取材時に実際にダンボールのスツールを持たせてもらった。籐家具をもっと軽くしたような感触だ。よく見るとダンボールが何層にも複雑に組み合わさっていることがわかる。座っても何の問題ない

「ダンボールって、再生リサイクル率が95%以上なのです。何回リサイクルしても次のダンボールに生まれ変わるという性質があります。またダンボールには普通ダンボール・強化ダンボールという違いがあり、強化ダンボールで家具を作られているところも多いのですが、弊社では普通ダンボールを使用しています。積層を中心に作っているので製法的に構造的に強い作りが可能なのです」(和田氏)

 和田氏によると、ダンボールでの家具づくりでは、3Dプリンターと同じような形の発想ができるという。自由な形状をデザインし、それを輪切りにし、また積んでいけば、あらゆる形の家具が実現できる。やはり、そういった知識や感覚は建築で学んだことが役に立っているのだろうか。

「3DのCADを普通に使う学科でしたから。建築を学んでいたから、こういう発想になったかなっていうのはありますね。先にも申し上げましたが、ダンボール自体が強いっていう定性的な理解に関しても、模型材料として使って知ったということはあり、そういうところはやっぱり関係しているのかもしれません」(和田氏)

家具やインテリアなどバリエーションを広げていく

工房にあるりんごの置物もダンボール製(提供:カミカグ)
工房にあるりんごの置物もダンボール製(提供:カミカグ)

 カミカグでは現在はスツールを中心に制作・販売しているが、デスクやソファなどのラインナップを増やしていきたいと和田氏は述べる。

 話を終え、工房のあちこちを見学させてもらうと、ダンボール家具の端材が積み上がっていた。デザイナーと話して、これらも無駄にせず、インテリアデザインに使えないか検討しているとのことだ。また、段差があるところには踏み台があった。やはりそれもダンボール製であり、乗り降りしても何の問題もなかった。軽い素材でありながら強度があり、デザインの自在さも兼ね備えている。そしてリサイクルのフローも確立している。カミカグの取り組みはダンボールという素材が持つ可能性を再認識させてくれる。

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ライター、著者。有限会社ガーデンシティ・プランニング代表取締役。ICT関連から起業、中小企業支援、地方創生などをテーマに執筆活動を展開。著書に「マンガでわかる人工知能 (インプレス)」など。