「平成30年住宅・土地統計調査」(総務省)によると、国内の空き家は846万戸あり、今後もこの数は増え、問題が深刻化することが予想されている。こうした「空き家問題」に頭を抱える自治体は多い。一方、空き家を所有する人にとっても、その処分は悩みの種となっている。
解体して更地に戻すとしても、多くの人にとって、家の解体は初めての経験となる。そのため、「解体費用の相場がわからない」「どんな工事会社に声をかけたらいいのかわからない」「解体に必要な手続きがわからない」といった悩みを抱えてしまうケースが多いのだ。
こうした、空き家解体に関する課題解決に挑むスタートアップがある。それが、株式会社クラッソーネ(本社:愛知県名古屋市、2011年4月設立)だ。
クラッソーネが提供している主なサービスは、「解体費用シミュレーター」と「解体工事一括見積サービス」だ。
クラッソーネ代表取締役CEOの川口哲平氏によると、「解体費用シミュレーター」は、全国各地域の解体工事見積もりがデータベース化されており、アプリ上で物件に関する10個の質問に答えるだけで、AI(人工知能)が解体費用の相場を算出してくれるという。
解体費用の相場がわかったら、次に活用するのが「解体工事一括見積サービス」だ。こちらは、「どんな工事会社に声をかけたらいいのかわからない」という悩みを解消するサービスとなっている。
空き家所有者は、物件情報を入力することで、複数の解体工事会社を紹介(マッチング)してもらえる。そこからさらに、見積もり書を提出してもらったり、サイト内の口コミを読んだりしながら、自分の予算やニーズにあった工事会社を絞り込み、解体工事を依頼できるようになっている。
「このプラットフォーム上で発注していただくと、例えば、万が一工事会社が倒産した場合に、支払い済みの着手金などが保証される『安心保証パック』という保証もつきます。施主(発注者)の皆さんに少しでも安心して発注してもらえる仕組みになっています」(川口氏)
さらに、解体後には「建物滅失登記」をするなど煩雑な手続きがあるが、それを補助するサービスなども用意され、空き家所有者の悩みに広く対応している。
こうしたサービスを開発した狙いのひとつが、「解体業界における『情報の非対称性』を改善する」ことだと川口氏は話す。
「解体工事の原価は、主に建物を壊すための人件費と、その後の(産業廃棄物の)リサイクルコストが大半を占めていますが、こうしたことは世の中にほとんど知られていません。そのため、施主が『建物を壊すだけだから数十万円でできるだろう』と依頼すると、『100万円以上かかる』といわれ面食らうといったことがあちこちで起こっています。こうした情報の非対称性を改善し、施主が気持ちよく発注できるようにすることが、我々の大きな目標のひとつです」(川口氏)
一方、「解体工事一括見積サービス」に登録することは、「工事会社側にもさまざまなメリットをもたらす」という。
特に集客手段を持たず、下請け、孫請けの受注に頼らざるを得ない小規模事業者にとっては、施主と直接やりとりできるメリットは大きく、「集客増や利益増につながる」可能性が高いとのことだ。
「業界特性上、解体業者は職人を雇って業務をまわすところが多く、職人の手を遊ばせたくないという思いが強い。一方で、大手の下請け、孫請けに入ると、『予定を空けておいて』といわれ職人を確保したにも関わらず、キャンセルとなり、対応に追われることも少なくありません。そうした小規模事業者にとって、(『解体工事一括見積サービス』によって)空き枠を埋めるための選択肢が増えることは、大きなプラスになると考えています」
「解体工事一括見積サービス」は、2020年に「クラッソーネ」のサービス名で全国展開を開始。これまで累計約10万件以上の問い合わせ実績と累計1万件以上の工事契約実績があるという(※)。
※2011年リリースの旧サービス「くらそうね解体」の実績含む
現在クラッソーネでは、「空き家問題」で頭を悩ます自治体に、これら2つのサービスを無料提供することで、さらにユーザー数を増やそうとしている。
その背景には、「空き家問題」に取り組みたくても、「具体的な対応に踏み込めない」自治体のジレンマがあるという。
例えば、管理状態が悪く、倒壊の恐れがある「特定空き家」に対して、住民から自治体に「何とかしてほしい」と切実な声が寄せられている。しかし、こうした空き家はあくまで個人の所有物であり、管理義務は基本的に所有者にあるため、「自治体が全て対応することはできない」と川口氏は説明する。
「自治体側の悩みとしては、具体的な相談になかなか応えられないということです。例えば、特定空き家を何とかしてほしいという近隣の声があがった場合、所有者を特定し、きちんと管理してください、管理できないのであれば解体してくださいと働きかけることはできます。」
「しかし、空き家所有者から『解体にはいくらかかるのか』と問われると、具体的な相場を教えることができない。あるいは、『優良な解体事業者を教えてほしい』とお願いされても、利益供与につながるため、一民間企業を紹介することはできません。こうした悩みを抱える自治体は全国にたくさんあります。そこで我々は、『解体費用シミュレーター』と『解体工事一括見積サービス』を提携した自治体に無料開放し、相談窓口などで使っていただくことで、『空き家問題』の解決に貢献しようと考えたのです」
2022年9月時点で、クラッソーネは34の自治体と提携を結び、空き家の解体や管理の促進に取り組んでいる。
「この動きは今後さらに加速していくと考えられます」(川口氏)
さらにクラッソーネは、以前当媒体でも紹介した、不動産の相続手続き(名義変更)に特化したオンラインサービス「そうぞくドットコム不動産」を運営する、株式会社AGE technologies(本社:東京都千代田区)と2021年10月に業務提携を開始した。
「そうぞくドットコム不動産」の利用者には、不動産を相続した後に解体を検討するユーザーが多く、「相互送客の意味合いが強い」と川口氏は提携の理由を説明する。
「多く人は、仕事など他にもやらないといけないことがたくさんある中で、相続や解体に取り組んでいます。その中で、いろいろな窓口で手続きしたり、情報収集したりすることは、大きな負担になるものです。それを少しでも軽減するためにも、いろいろな会社と力を合わせ、ワンストップでサービスを提供できればと思います」
最後に将来のビジョンを聞くと、「街の循環再生文化を育みたい」との答えが返ってきた。
「解体というと、『壊して終わり』というイメージがあると思います。しかし、解体廃材のリサイクル率は95%以上。実は、新たな資源が生まれる“資源循環の起点”でもあります。そういった街の循環の起点として、きちんとした解体工事をスムーズに行えるようにしていくことが、我々の役目なのかなと。そこを起点に、空き家の処分がスムーズに進むよう、今後さらにサービスを拡大していきたいと思います」(川口氏)