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公共工事・インバウンドなど課題解決の”実績を持つ”スタートアップが集合 ~Open Network Lab 第25期デモデイ

3年ぶりのオフライン開催となった「Open Network Lab」25期のデモデイ

3年ぶりのオフライン開催となった「Open Network Lab」25期のデモデイ

 

 2022年10月18日、株式会社デジタルガレージが主催するシードアクセラレータープログラム「Open Network Lab」の25期生によるデモデイが、渋谷パルコDGビル18階の「Dragon Gate」で開催された。

 ピッチコンテンストに先立って、伊藤穰一が登壇。「Web3」をテーマにしたキーノートスピーチが行われた。続いて、「Open Network Lab」25期生5チームが登壇し、ピッチを行った。

ドローンショーで広告業界に新風を

 トップバッターは、ドローンショーを手掛ける株式会社レッドクリフの代表・佐々木孔明氏だ。ドローンショーとは、LEDをつけた数十から数百機のドローンで、夜空にアニメーションなどを表現するエンターテイメントショーだ。2021年に開催された、東京オリンピックでインテル社が実施したドローンショーで、その存在が広く知られるようになったが、広告媒体として、企業ロゴやQRコードを表示することもできる。佐々木氏はその魅力を、夜空に3Dデザインや企業ロゴなどが出せる「表現力」や「集客力」「拡散力」にあると説明。さらに同社は、日本最大のドローン機体数(700機)を保有しており、ドローンや通信ネットワークの専門家がそろうなど、ドローンショーを行う上で必要なすべての要素を満たしており、競合優位性があると訴えた。

 レッドクリフは2021年からサービスを開始。イベント会社などから依頼を受けてドローンショーを実施する「受注型」と、人が集まりやすい花火大会などに協賛し、ドローンショーの広告枠を販売する「協賛型」の2つのビジネスモデルを展開している。さらに「今季の売上見込みは3.4億円、来年度は7億円以上の売上を見込む」(佐々木氏)と事業の滑り出しも上々とのことだ。今後は、「ドローンショーのデザイン素材を売買できるマーケットプレイスの構築」など広告以外の分野へも事業展開すると述べ、将来性の高さをアピールした。

レッドクリフ代表の佐々木孔明氏
レッドクリフ代表の佐々木孔明氏

フリーランスの取引業務を仕組み化

 続いて登壇したのは、フリーランス向けのビジネスマネジメントサービス「Tooon」を開発するTooon株式会社代表・杉山裕磨氏だ。

 現在フリーランス市場はかつてないほど拡大し、「労働人口の4人に1人、24%程度がフリーランス」(杉山氏)だという。さらに、フリーランスで仕事をする人の約40%は何らかのトラブルを経験している。特に、見積もり時の確認不足で起こる「コミュニケーショントラブル」、契約書面の不備が原因の「契約トラブル」、未払いなどの「報酬トラブル」などには、約7割の人が直面していると杉山氏は指摘する。

 こうしたトラブルを避ける既存の手段として、マーケットプレイスを通して仕事を受注するといった方法はあるものの、割高な手数料や単価減少が課題となる。かといって、メールやSNSのDMでの仕事の受発注は、連絡がつかなくなると途端にトラブルにつながる。そこで杉山氏らは、フリーランスの人たちが直面する面倒な取引に関する業務を、ソフトウェアで仕組み化する「Tooon」を開発した。これにより、ポートフォリオ(見本・作品集)の制作から、受注、さらにタスク管理や契約書作成も可能で、納期や契約トラブルを抑止できる。また、エスクロー(仮払い)決済が搭載され、未払いなどの報酬トラブルも避けられるという。

 杉山氏は、今後約40兆円まで拡大すると言われるフリーランス市場に、「新規参入者が最も多い“複業のフリーランス”層からマーケットイン」すると説明。さらに「将来的には、フリーランス同士の業務提携をサポートする機能も備えていきたい」と展望を述べ、ピッチを締めくくった。

Tooon代表の杉山裕摩氏
Tooon代表の杉山裕磨氏

“伝え方”を鍛えるサービス

 次に登壇したのは、伝え方トレーニングサービス「kaeka」を提供する株式会社カエカの代表・千葉佳織氏だ。昨今、経営者や政治家の差別発言に批判が集まるなど、人の話し方、伝え方に注目が集まっている。しかし、話し方を学ぼうにも、「『書籍』では(読むだけで、情報の流れが)一方向なので解決が難しく」「『話し方教室』では、話し方のみ指摘となり、言葉の扱い方については学ぶのが難しい」といった課題があると指摘する。

 そうした中で、「本当に伝え方をトレーニングできるサービスが、『kaeka』」だと千葉氏は強調する。kaekaは、30分のパソコン画面の向けた口頭試験を受けることで、話の社会性、論理性、話すスピードなどが数値化され、課題を提示してくれる。これに基づき、グループとパーソナルレッスンを掛け合わせた体系的なトレーニングを受け、成果発表会と診断テストを行うことで、自身の成長を確認できるという。

 すでに社会人向け、および経営者や政治家向けのサービスを展開しており、大手メーカー執行役員や県知事、一般社会人から高評価を得ていると説明。さらに千葉氏は、市場規模を1092億円としたうえで、政府与党が個人のリスキリング(学び直し)領域に、1兆円の投資を掲げたことを紹介。kaekaの事業が有望であることと、さらなる資金需要への支援を呼びかけた。

スピーチ競技で内閣総理大臣賞の受賞経験がある千葉氏
スピーチ競技で内閣総理大臣賞の受賞経験がある千葉氏

長期滞在旅行者の満足度を最大化

 続いて登壇したのは、長期滞在型ホテルを運営する株式会社セクションLの代表・北川旭洋氏だ。同社は、コーネル大学でホテル経営学を学んだエキスパート4人のチームで経営を担う。

 北川氏が注目するトレンドは、宿泊日数の長期化だ。特に欧米豪の旅行客は一度の来日で平均10泊以上の滞在をするなど長期滞在をする傾向がある。日本は「コロナ後に行きたい国1位」にも選ばれたにも関わらず、長期滞在向きの設備が整った施設やサービスが少なく「宿泊オプションは欠点だらけ」だと北川氏は指摘する。

 そこで北川氏らが、長期滞在型トラベラーの顧客満足度を最大化すべく、テクノロジーとホスピタリティの知見を生かし生み出したサービスが「Section L」だ。同社が運営するホテルでは、予約後にモバイルチェックインを済ませると、スマートロックコードが自動発行される。チェックインのためフロントに並ぶ必要がない。また北欧家具が並ぶ室内は、自宅同様の快適さを持つことに加え、高速Wi-Fiが利用できる作業空間や、長期滞在に必要な調理道具や、洗濯設備なども備わっている。「これにより、デザイン、長期滞在、スタッフカルチャー全てにおいて高評価を獲得」し、コロナ禍においても「東京23区市場を大きく上回る、稼働率と客室単価を達成してきた」と北川氏はその実績を紹介した。

 Section Lは、ホテルを直接所有せず、不動産機関投資家から、運営委託を受けるビジネスモデルだが、ホテル業界で最高水準の営業利益率73%を達成することに成功している。これが評価され、来春には新たに6つの施設を手掛ける予定だ。「将来的にはアジアのホテル業界を牽引するホテルプレイヤーになっていく」と力強く述べ、北川氏はピッチを締めくくった。

登壇中の北川旭洋氏
登壇中の北川旭洋氏

 “見積もり地獄”から建設業を解放する

 最後に、情報ネット株式会社代表の若本憲治氏が登壇した。同社は公共工事入札に関係する建設業者の見積もり業務を最適化するSaaS「GACCI」を開発している。

 すでに現在、鳥取県で7社の中小企業を経営している若本氏は、事業承継したことにより公共工事に携わる事になった。公共工事に入札、受注するには煩雑なプロセスがあり、顧客ヒアリングを進めるうちに、建設業者が受注準備のための「“見積もり地獄”に陥っている」ことに気づいたという。

 例えば公共工事では、公募から入札まで12営業日ほどの期間が設けられているが、そのうち元請け会社が、赤字工事を避けるための分析や経営判断に使えるのは2日間だけだ。なぜなら、各工事の見積もりを複数の下請け会社から取り寄せることと、その取りまとめに10営業日かかるからだという。見積もりの作成や取りまとめでは、PDFやエクセルの転記作業が多く発生する。このため情報の抜けや重複が頻繁に起こり、下請け会社への見積もりの再依頼などで、膨大な時間を取られるという。

 そこで若本氏らは、クラウド上で見積もりの取りまとめができる「GACCI」を開発。これを使うことで、元請け会社、下請け会社共に、見積もり業務の時間が「圧倒的に短縮される」という。すでにこれまでに鳥取県の建設業10社にテスト導入し、「見積もり業務が50%以上効率化される」と高評価を得ている。さらに「(テストに参加した)10社全てから導入希望をいただいている」と圧倒的な効果と支持の高さを強調した。

 さらに若本氏は、今後この仕組みを拡大していくことで、設計と施工の間の業務全てを効率化するサービスを構築することができ、3000億円の市場を開拓できると説明。また、GACCIに蓄積されるデータを活用することで、将来的に「発注者、元請け、下請け、3者がつながるプラットフォームへと進化していける」と、その事業価値を広く訴えた。

「GACCI」を開発する若本憲治氏
「GACCI」を開発する若本憲治氏

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 審査の結果、オーディエンスアワードは伝え方トレーニング「kaeka」を提供するカエカが。審査員特別賞は長期滞在型ホテルサービス「Section L」を運営するセクションLが受賞した。ベストチームアワードは、建設業見積もりサービス「GACCI」を開発する情報ネットが受賞した。

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有限会社ガーデンシティ・プランニングにてライティングとディレクションを担当。ICT関連や街づくり関連をテーマにしたコンテンツ制作を中心に活動する。