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「目視検査」をDXしてメイド・イン・ジャパンのものづくりを支えたい AIスタートアップMENOUの想い

MENOUチームをMENOU-TEで解析した画面例(MENOU提供)

MENOUチームをMENOU-TEで解析した画面例(MENOU提供)

 AI外観検査ソリューションを提供する株式会社MENOUは、大手光学機器メーカーをスピンアウトした西本励照(れいてる)氏が2019年に創業したAIスタートアップだ。同社は2021年にAIスタートアップコンテスト「HONGO AI 2021(主催一般社団法人HONGO AIほか)」で「HONGO AI BEST AWARD」を含む6つの賞を獲得。また「Microsoft for Startups」にも採択されるなど大きな注目を集めている。

 同社のAI外観検査ソリューションとはどんなものなのか。株式会MENOU代表取締役・CEO西本励照氏にお話を聞くと、まだ29歳と若い西本氏の口からは「ものづくり」への愛情と危機感があふれ出た。

最先端のものづくり現場で感じた課題

株式会社MENOU代表取締役・CEO西本励照氏
株式会社MENOU代表取締役・CEO西本励照氏

 メーカーに勤務していた父親の影響で、西本氏は幼少期から最先端のものづくりに関わりたいと思っていた。そしてものづくり系の学校を卒業、「世界最先端の装置をメイド・イン・ジャパンで作っている」と憧れた大手光学機器メーカーに入社する。そこで最先端のものづくりを体感した西本氏だが、現場でひとつの課題を感じた。

「設計開発ではデジタルツールを使い、そこで作った電子データを次の加工組み立てのロボットに自動コピーします。人間が介在しなくても、効率よくものづくりを行える状態でした。やっぱりすごく進んでいるなと思ったのですが、現場では必ず最後に検査という工程があります。ここはまったくアナログな状態。目視検査が続けられていることを目の当たりにして、ここにものづくりのボトルネックがあると感じました」(西本氏)

 製品の品質こそが企業のブランドであり、検査は一番価値のある工程だが、今後働く人が減っていくと、人による目視検査を続けていては品質が担保できなくなると西本氏は感じた。画像転送装置で目視検査を自動化するシステムも検討したが、そのシステムを作るには専門のエンジニアが必要で、費用も工数も大きなものになる。さらに、検査システム開発後も随時、細かなチューニングが必要となり、その都度、専門エンジニアの手をわずらわすことになる。

プログラミングなし 現場で作れるものを

 西本氏は、専門のエンジニアでない現場の検査員が、ノーコードで直感的に作ることができる検査システムが必要だと考えた。そこでMENOUを創業し、「MENOU-TE」(ノーコード検査AI開発ツール)と「MENOU-RN」(ノーコード検査AI運用ツール)をリリースした。これらはプログラミングなしで、マウス操作だけで現場の人間が検査工程を自動化できる。

 こういったツールは、大手ベンダーも提供しているが、現場で使いやすいものかどうかは疑わしいという。「自分は現場にいたからよくわかります」(西本氏)。

 現場の検査員の感覚が反映され、検査員が直感的に使えるものでなくてはならない。

MENOU-TEの画面イメージ(MENOU提供)
MENOU-TEの画面イメージ(MENOU提供)

 同社製品は、「AIは万能ではない」という前提に立ち、検査を行う人間の意志決定に近い仕組みを構成しており、そこに優位性があると西本氏は述べた。

「人間は『弱いAI』(一定の領域に特化した人工知能)の集合体で、『弱いAI』の集合によって高度な判断をしています。(名刺入れを手に取って)例えばこれの検査を行う時、蓋がついているか、ついていたら裏に傷がないか。いろんな経験から来る考え方を組み合わせて高度な検査になっていきます。(MENOU-TEの画面を示しながら)この一個一個のブロックがAIで、これを組み合わせることによって、ノーコードで仕組みを作り上げることができます」(西本氏)

中小企業のDX人材育成にも

 MENOUのソリューションは、専門のエンジニアを雇用できない中小企業に向いている。西本氏はひとつの事例を紹介してくれた。

 吸湿材メーカーの株式会社三和(兵庫県神戸市)は、封入された乾燥剤の漏れや吸湿性能の低下につながる不良の検査を目視検査に頼ってきたが、労働環境の改善と生産性向上の課題解決のためMENOUのシステムを採用した。導入までの期間は5ヶ月。それもたった一人で自動検査システムを構築できたという。

「MENOUが提供する最初のステップとしては、こういった人手が足りない部分の効率化・自動化の支援です。つまりは中小企業のDXの“加速”をお手伝いすることです。弊社が提供しているツールによって自動化が実現し、コストが削減できることはわかりやすい費用対効果です。そして、それを導入することによって社内に自動化できる人材が揃ってくる。プログラマーじゃない人たちが『ソフトってこういうふうに組み上げるんだ』ってことを理解でき、その知見をいろんなところに展開できる。例えばAIを使って事業を行うこともできるようになります。DX時代の人材育成にも、弊社のツールはお役に立っていると自負しています」(西本氏)

 MENOUに相談を持ち込む企業には、初めてAIを導入するところも少なくない。そのあたりについても、撮像設計(AI用に最適な画像を撮るための光学機器の設計)やAI設計の支援もしているので、安心して相談してもらえればと西本氏は語った。

 今後は事業を伸展するべく、「検査」というプロセスにさらに光を当て、検査データ解析の事業化も構想している。

* * *

 西本氏の根底に流れているのはやはり、日本のものづくりへの想いだ。起業したひとつのきっかけとして、自分に子どもが生まれた時に感じた危機感があると説明した。

「子どもの顔を見て、この子が大人になるころには、ひょっとしてメイド・イン・ジャパンは存在しないのじゃないか。この子たちの世代のために何とかしないといけない、自分が動かないといけないと思ったんですよ。起業するなんて馬鹿だなってよく言われるのですけど(笑)」(西本氏)

Written by
ライター、著者。有限会社ガーデンシティ・プランニング代表取締役。ICT関連から起業、中小企業支援、地方創生などをテーマに執筆活動を展開。著書に「マンガでわかる人工知能 (インプレス)」など。