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デジタルで遺族、葬儀社の課題を解決し「誰もが気軽に弔意を示せる」世界を実現する

デジタルで遺族、葬儀社の課題を解決し「誰もが気軽に弔意を示せる」世界を実現する

デジタルで遺族、葬儀社の課題を解決し「誰もが気軽に弔意を示せる」世界を実現する

 日本の総人口における65歳以上の「高齢者」の占める割合は、29.1%(総務省統計局 2022年9月15日現在推計)と過去最高となっている。そんな高齢化社会において「葬儀」は大きな関心事の一つだが、そのあり様は年々変化しており、簡素化、参列者の減少傾向が顕著だ。

 しかし、「人々の弔意を表す気持ちが縮小したわけではない」と話すのが、株式会社itowa(イトワ)の代表取締役CEO 坂元充氏だ。同社は、葬儀社と喪主、故人とゆかりのある人をつなぐ「お悔やみプラットフォーム itowa」を提供している。itowa上には誰でも閲覧可能な「訃報ページ」があり、そこから弔電や香典などをオンラインで手配することができる。葬儀に参加できなくても、オンラインで弔意を示すことが可能だ。

デジタルの力を借りて「葬儀行動を変革」

itowa代表取締役CEO 坂元 充 氏
itowa代表取締役CEO 坂元 充 氏

 坂元氏は、葬儀社で15年間勤務し、葬儀会場の設営に携わってきた。「入社当時、葬儀業界は好調」(坂元氏)だったが、2010年頃から徐々に葬儀が小規模化し、さらにコロナ禍が追い打ちをかける形で、密を避ける行動から参列者が大きく減少した。しかし、「人々がお悔やみを伝えたいニーズは減っていないと感じた」と坂元氏は話す。

 例えば、著名人が亡くなった際に、実際に葬儀に出向く人は多くはないが、SNSなどで弔意を表明する人は増えつつある。デジタルの力を借りれば、葬儀行動を時代の変化に応じて変革していくことができるのではないか、と感じたのが本サービス着想のきっかけだと続けた。

 弔意をもつ人に葬儀情報が伝われば、人々の弔意行動を喚起できる可能性がある。こうして、喪主である遺族の気持ちに寄り添い、葬儀社をパートナーとしてデジタルの力を借りて人々の“お悔やみ行動”を最大化するサービス「itowa」が誕生した。

 itowaの利用手順は次のとおりだ。

 itowaは葬儀社を通して利用を申し込む。遺族向けにはLINEに専用アカウントが作られ、そこでitowaが制作した訃報ページの公開、通知などを行う。参列はする人は訃報ページを確認して出向き、参列できない場合は、訃報ページからお花や香典、弔電などをオンラインで注文することができる。これらがプラットフォームを通じておこなわれることで、喪主・葬家は、参列者のリスト管理や返礼品の手配などの葬儀に関係する負担が軽減できる。

 坂元氏は「多くの人が利用するLINEに専用アカウントを開設し、LINE起点で情報を発信することで、環境設定の手間がなく、多くの人に情報が届きやすい設計とした」と話す。LINEのほかにも訃報ページのURLをメールなどに貼付し、通知することも可能だ。

香典をキャッシュレスに

 サービスの中核をなすのが「キャッシュレス香典」だ。香典は、これまで会場で現金でやり取りされることが前提だったが、itowaを利用すれば、会場に赴かなくとも、香典を遺族に送り、弔意を表すことができる。

香典を贈る行為をデジタル化するときに問題となったのが「法的規制」である。「葬儀社の口座を介して、喪主にお金が移動する行為が、資金決済法に抵触する可能性があり、葬儀社は資金移動業のライセンス取得が必要だった」と坂元氏は述べる。

 そこで、坂元氏は、キャッシュレスで香典を送る仕組みを考案、喪主が登録した口座で受け取ることができるスキームを整備し、さらに「一連のスキームが資金移動業には該当しない」旨の意見書を作成、約5ヵ月にわたる金融庁とのやり取りを経て、2023年3月、「金融庁から適法性の確認を得た」(坂元氏)という。

 プラットフォームには、香典返礼品の注文機能も備わる。キャッシュレス香典を使えば「誰が、いくら香典を送ったか」が自動的にリスト化されるので、喪主はその香典の金額に応じた返礼品を選んで、それが反映されたリストを確認し注文するだけでいい。これがキャッシュレス香典とあわせてitowaの大きな特徴で、現金での香典のやり取りが主体の会場参列者にもキャッシュレス香典を提供する準備も行なっている。

キャッシュレス香典の仕組みは特許出願中(画像提供:itowa)
キャッシュレス香典の仕組みは特許出願中(画像提供:itowa)

葬儀業界のDXであり、お悔やみ行動のDXでもある

 itowa のビジネスモデルだが、葬儀社の導入費用は無料。オンラインでの弔電や香典、供物、供花の販売額に応じた手数料をitowaが受け取る仕組みだ。坂元氏は、お悔やみ市場を約1.3兆円規模と試算しており、「様々なパートナーにプラットフォームに参加してもらい、ビジネスをスケールさせていくことを重要視している」と話す。

 また、サービスの提供エリアの拡大については、「都市部と地方部、さらに地域ごとに異なる慣習などを踏まえ」展開していくため、モデル地域を選定、サービス展開の可否を検証する進め方を行っている。たとえば、沖縄県では、「地元の新聞や情報サイトに訃報欄があり、それを見た人が葬儀会場に足を運ぶ」慣習があることから、地元情報サイトなどと連携し、訃報ポータルを立ち上げ、葬儀社に集約された訃報情報を取りまとめて発信。ここにitowaのプラットフォームとしての機能、ビジネススキームを連携していく取り組みを「2024年5月をメドにスタートさせる」(坂元氏)予定だ。

 今後の事業ロードマップについて、坂元氏は2024年4月からは、従来の葬儀社をパートナーにしたBtoBtoC(個人向け事業を行う法人向け)のビジネスモデルに加え、toC(個人向け)のビジネスを拡充していく考えだ。

「たとえば、個人の遺産をデジタル化して保存する仕組みをブロックチェーンなどの先端技術を使って構築していくことや、著名人のファンコミュニティなどに向けて弔意を伝える手段を用意することを構想している」という。

 この第2フェーズに関しては、3年以内に実現し、2028年の上場を目ざしていく。坂元氏は「2022年の死没者150万人の30%、年間50万件のお葬式にitowaを使ってもらうことが目標」だと抱負を述べた。なお、資金調達については、「前回(2023年12月)の資金調達から1年〜1年半後の2025年1月〜6月をメドに、シリーズAで2億円から3億円の資金調達をめざしている」とした。

 同社がめざす「葬儀業界のDXであり、お悔やみ行動のDX」により、誰でも気軽にデジタルで弔意を示す世界が到来する日も、そう遠くないはずだ。

Written by
阿部欽一 「キットフック」の屋号で活動するフリーランスのライター/ディレクター。社内報編集、編集プロダクション等を経て2008年より現職。「難しいことをカンタンに」伝えることを信条に、「ITソリューション」「セキュリティ」「マーケティング」などをテーマにした解説記事やインタビュー記事等の執筆のほか、動画やクイズ形式の学習コンテンツ、マンガやアニメーションを使ったプロモーションコンテンツなどを企画から制作までワンストップで多数プロデュースしています。