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世界最大級VRイベント「バーチャルマーケット」開催者が語る“メタバース参入で大切なこと”

メタバース総合展の講演に登壇した株式会社HIKKY 代表取締役CEO・舟越靖氏

メタバース総合展の講演に登壇した株式会社HIKKY 代表取締役CEO・舟越靖氏

 Facebookの運営母体だったフェイスブック社が、社名をメタに変更し、メタバース開発に1兆円規模の予算を投じると発表したころから「メタバース」という言葉は世に広まり、いわゆる“メタバースブーム”がさまざまな業界に及んでいる。

 しかし、メタが運営するメタバースサービス「Horizon Worlds」の訪問者はいまだ予定人数に達しておらず、同社の株価を大幅に下げる要因となった。このように巨大企業のメタバース事業が軌道に乗り切れずにいる一方で、仮想空間における世界最大級のマーケットイベントとして、世界中から100万人以上もの来場者を集めているのが「バーチャルマーケット」だ。

幕張メッセで開催されたメタバース総合展
幕張メッセで開催されたメタバース総合展

 バーチャルマーケットは、2018年に株式会社HIKKY取締役CVOの「動く城のフィオ」(ハンドルネーム)氏の呼びかけで誕生したイベントで、参加者はアバターでメタバース空間上の会場に入り、商品の売買やアトラクション、他の参加者との交流を楽しめる。

 2022年10月28日、幕張メッセ(千葉県千葉市)で開催されたメタバース総合展において、バーチャルマーケットを開催するHIKKY代表取締役CEOの 舟越靖氏が登壇。「新たな経済・文化圏を作る!メタバースで描く未来とは」と題した講演を行った。

「囲い込む」はもう古い

 筆者は2020年に、舟越氏にインタビューを実施し、「バーチャルマーケット」開催の経緯を聞いている(『コロナ禍で注目「世界最大」と評されるVRイベントが“共感”を呼ぶ理由』)。

 舟越氏によると、きっかけは、2018年頃に起きたVRブームにおいて、VR空間で遊びながら3Dデジタルアイテムやアトラクションを作る「クリエイター」が多数現れたこと。こうした「クリエイターが作ったものを展示する市場を作ろう」と立ち上げたのが、バーチャルマーケットだと説明していた。

 開催回数を重ね、イベント規模が拡大した今でもその姿勢に変化はないようだ。今回の講演においても舟越氏は、「(バーチャルマーケットは)物を作ったり、楽しんだりする人たちファースト」の場であり、クリエイティビティの価値が広く認められる世の中を創り出す「クリエイティブ・レボリューション」を会社の理念に掲げていると述べた。

 さらに舟越氏は、こうした姿勢こそが、多くの参加者、企業を呼ぶ原動力になっていると説明する。

登壇中の舟越氏
登壇中の舟越氏

「メタ社のサービスは(今のところ)あまり売れていません。なぜかというと、そこに楽しめる人たちがいて、その人たちに寄り添ったサービスになっていないからです。プラットフォームで囲い込むという考え方は、もうちょっと古いんですね。自由に楽しめる。物を作って、そこで交流があって、友達との交流を楽しめる。そういう環境を作っているサービスが成功し、その真逆をいっているサービスはことごとく失敗しているのですね。『我々の言うことを聞け、ここに来れば楽しいことがある』と言っている企業は失敗し、そうじゃなくて『みんなと一緒にやっていこう』と言っている企業が成功しているのが現状です」

「(メタほどの)巨大企業であれば、お金を出せば勝てる市場はたくさんあると思いますが、クリエイティブの世界は簡単ではなく、人の心に響くものでないと成功しません」(舟越氏)

 さらに舟越氏は、こうしたメタバース市場の特性や、自身がコンサルティングサービスを提供してきた経験を踏まえ、企業がメタバースに参入する際のポイントも挙げた。その主なポイントは、メタバース空間におけるユーザー体験を深く理解したうえでサービスを構築することだという。

 メタバース空間で体験する“コンテンツの味わい”や“温度感”は、リアルな場とは大きく異なる。そうしたところで、リアルな場で受けている商品やサービスをそのまま提供しても、「国が違うところに、日本で流行っている物を持っていってもダメ」なように、なかなか受け入れられないと指摘する。

「例えば、今までいろんなコンテンツが消費されてきたスマートフォンは2Dです。ですから、やはり2D勝負になる。ただVRというジャンルは3Dです、空間の中に自分がいるので、3D勝負になります。この違いを深く理解して事業やコンテンツを考えると、ユーザーに刺さり、心に響いて忘れられないものになると考えられます」(舟越氏)

目指すはメタバースのインターネット化

 HIKKYでは、今後メタバース市場において、どのような事業展開を考えているのか。舟越氏がキーワードとして挙げたのが、プラットフォームの壁を越えてユーザーが行き交う「オープンメタバース」環境を構築していくことだ。

 舟越氏によると、HIKKYでもバーチャルマーケットの成功を受け、「自分たちでもプラットフォームを構築した方がいいのではないか」と思ったが、「考えれば考えるほど、それは一緒に成長してきたクリエイターにとって役に立たない」との結論に至ったという。

 なぜならプラットフォーマーになると、「ユーザーやクリエイターを囲い込む」ことが目的となり、ユーザーやクリエイターにとっては、「自由がなく、搾取される気分になり、そもそも制限がある中ではおもしろいクリエイティブが生まれない」環境が生まれてしまうからだ。

 そこでHIKKYでは、独自のVR開発エンジン「Vket Cloud」の開発・提供を開始。ウェブブラウザ上でVRコンテンツを簡単に作れる仕組みを提供することで、多くの人が仮想空間を楽しんだり、企業がサービス展開できたりするオープンメタバースな環境の構築を目指しているとのことだ。

「インターネットってそうだったじゃないですか。制限がある中ではなく、誰しもが自分の尺度で自由に作ってくださいと。だから、あれだけ(ウェブサイトが)増えて行ったわけです。」

「僕らはメタバースを今すぐ儲かるものだと考えておらず、インターネットみたいに広がってからじゃないと、儲からないと思っています。メタバースの“インターネット化”を目指し、『一人一(いち)メタバースの時代へ』ということを実現していければと考えています」(舟越氏)

 現在HIKKYでは、「Vket Cloud」の提供を通して、世界100都市をメタバース化する「パラリアルワールドプロジェクト」を推進している。すでに、渋谷や秋葉原、ニューヨーク、大阪、沖縄などをメタバース化するなど、徐々にオープンメタバースの世界を広めている。

「現実空間の経済活動とリンクしたメタバース展開が、来年のトレンドになる」と予測する舟越氏。メタバース市場の新たな展開に引き続き注目したい。

参考:株式会社HIKKYが開催したバーチャルマーケット2022 Summerの様子(同社リリースより)
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有限会社ガーデンシティ・プランニングにてライティングとディレクションを担当。ICT関連や街づくり関連をテーマにしたコンテンツ制作を中心に活動する。