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微生物群「コムハム」を使って 生ゴミ処理をバージョンアップする

株式会社komham 代表取締役 西山すの氏

株式会社komham 代表取締役 西山すの氏

 賞味期限切れで廃棄される飲食品、家庭から出る食品クズなどの生ゴミを、減量処理するのは意外と難しい。家電メーカーから発売されている生ごみ乾燥処理機や、家庭用コンポストなど、いくつか生ゴミを処理する道具は存在している。しかし、「コンポストを設置するには庭が必要」、「生ゴミを乾燥処理するのに電気代がかかる」などの問題がある。

 さらに、庭に設置したコンポストに生ゴミを投入するだけでは処理に時間がかかり、悪臭や虫が発生する。そして、家庭用の生ゴミから作った堆肥は、その成分が明らかではないため、家庭菜園の肥料としての適切ではない場合が多い。ということで、生ゴミはできるだけ「堆肥にせずに減量」することが望ましい。

■微生物群で減量処理

渋谷区立中幡小学校に設置されたコンポスト
渋谷区立中幡小学校に設置されたコンポスト(写真提供:株式会社komham)

 有機物の生ゴミは、微生物で分解し減量することができる。庭に設置するコンポストも、土中の微生物の力をかりて分解するのだが、投入量に分解速度が追いつかないため、臭いや虫の問題が発生する。「素早く」「大量」に分解処理できる微生物群があればいいわけだ。

 11月1日から、実証実験のため渋谷区立中幡小学校に設置されているコンポストでは、5Lの食品廃棄物を1日で98%分解処理できる。このコンポストの中で、生ゴミを素早く分解しているのが「コムハム」だ。

 アイヌの言葉で「枯れ草」を意味する「コムハム」は、札幌市のスタートアップ、株式会社komham(コムハム)が独自に開発したものだ。昨年(2021年)も渋谷区内で、コムハムを使ったごみ減量実証実験が行われている。その際のコンポストは、利用者が自分で回す手動式のものが利用されたが、今回は太陽光発電で自動撹拌する仕組みが備わったため、利用者の利便性も向上している。これで学校給食から排出された食品廃棄物を分解処理する。このコンポストは最大1日10Lの食品廃棄物を処理できる能力がある。

■父親が使っていた微生物群を引継ぐ

 この働き者の微生物群「コムハム」を開発したkomhamの代表取締役の西山すの氏は、微生物の研究者でもなければ、リサイクル関連業界で働いていたわけでもない。むしろ、そこからは遠いPR業界での仕事や、ブロックチェーン関連の事業立ち上げなどに関わった後、2020年1月にkomhamを起業した。

 どういった経緯で「コムハム」に出会い、起業するに至ったのか。

 自分のことを「飽きっぽいところがある」、「難しいことを平たく説明するのが得意」などと分析する西山氏。ゆえに起業するにあたっては「クリアするのが難しいテーマ」「技術として素晴らしいのに、まだ世の中に広がっていないもの」を探したという。そこで、注目したのが「ディープテック」だ

「(ディープテックの)研究者は、すごく素敵なもの、しかも社会インパクトを与えられるような研究しているのに、研究にかける熱量と、社会のベクトルがなかなかマッチしてないなあと感じることがあって。『ディープテック』はありだなと思い始めたんです。」

 そして、その分野で積年の実績がある、身近な人のことを思い出した。

「お父さんが15年ほど前から、堆肥処理の仕組みを応用させ、細々とですが事業をしていました」

 西山氏の父は、牧場を経営するパートナーと共に、その牧場から見つけた微生物群「コムハム」を使って毎日20トンの廃棄物を処理していた。なぜそういった高い処理能力があるのかは不明だが、とにかく「すごいね」「すごいでしょ」ということで、顧客を得ていたという。

■あえてスタートアップとして始動

 この技術を継承することに決めたが、父親の事業に参画するのではなく、脱親族経営のスタートアップとして、新たに起業をした。環境関連事業ゆえに時代と伴走できるだけのスピード感を持ち、事業を拡大するのに際に必要なエビデンスを重視する経営をするためだ。

ラボの様子(提供:株式会社komham)
ラボの様子(写真提供:株式会社komham)

 ディープテック・スタートアップは、成功すれば大きな社会課題解決に寄与することができる。しかし、先端的な研究開発を伴い、大きな成果を得るまでには長い時間と優れた人材、大きな資金が必要だ。komhamもその例外ではない。起業して、まず研究者を雇用し、ラボを開設した。

「何でコムハムがすごいのか。何の微生物がその凄さを担保しているのか。人工的に培養できて、ちゃんと供給し続ける事ができるのか、そのあたりの研究からはじめました」

 そして研究と並行して、事業についての検討も進めた。

「そのまま販路を広げようかなとも思ったんです。父たちは、1日何十トンという廃棄物が出るような大規模事業者に販売していたので、最初は同じようにすすめようかと」

 しかし、どうせやるなら「廃棄物業界をアップデートするような取り組みを」と考え直し、まず始めたのが、街中に地域でシェアリングできる小規模コンポストを設置することだ。収益モデルは、プリンター(コンポスト)とトナー(コムハム)のようなモデルで、コンポストを設置した利用者には、処理能力を維持するために定期的にコムハムを購入してもらう。

 顧客は、渋谷区のような自治体などの他に、食品廃棄物が出るコンビニや飲食店など。生ゴミ以外にも有機物であれば汚泥などの処理も可能なので、工場など大規模施設での利用も今後は想定しており、検証も進めている。

 さらに想定外のことながら、西山氏とコムハムは小学校の授業にも引っ張りだこだという。微生物が生ゴミを分解するプロセスは、SDG’sの授業での格好の教材になる。あまりに出張授業の依頼が多いため、先生が授業で使えるような教材セットのパッケージにする予定もあるという。

 *  *  *

 父親たちから引き継いだコムハムは、次の世代の西山氏たちの手で、活躍の場を広げつつある。起業から3年足らずの間に、微生物の研究・開発、コンポストの開発と改良、それを用いての各地で実証実験、さらに教育現場向けの教材までも。

 こうも忙しく動き続けるモチベーションは何なのか。

「(私たちの世代は)空気も水もタダで使い、『より便利にする』『より安くする』でよかったけど、次の世代は、制限が色々ある中で知恵を絞ってやっていかないといけない。先に産まれている分、出来る限りのことは仕上げて、次に渡したいなと思いますね。それは私が、お父さんから技術継承しているから余計にそう思います」

Written by
朝日新聞社にてデジタルメディア全般を手掛ける。「kotobank.jp」の創設。「asahi.com(現朝日新聞デジタル)」編集長を経て、朝日新聞出版にて「dot.(現AERAdot.)」を立ち上げ、統括。現在は「DG Lab Haus」編集長。