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AIに戦々恐々、米国脚本家がスト 雇用喪失を懸念

米カリフォルニア州ユニバーサルシティーにあるユニバーサルスタジオ前でのWGAのデモ(2023年5月3日撮影)。(c)Rodin Eckenroth : GETTY IMAGES NORTH AMERICA : Getty Images via AFP

米カリフォルニア州ユニバーサルシティーにあるユニバーサルスタジオ前でのWGAのデモ(2023年5月3日撮影)。(c)Rodin Eckenroth : GETTY IMAGES NORTH AMERICA : Getty Images via AFP

【AFP=時事】米ハリウッドの脚本家団体が今月、報酬をめぐりストライキを断行した。動画配信大手ネットフリックス(Netflix)やディズニー(Disney)といった製作スタジオは、将来的に人工知能(AI)に脚本を執筆させる可能性を排除しないとしており、団体側は反発を強めている。

 対話型AI「チャットGPT(ChatGPT)」のような人工知能プログラムは、人間の会話を不気味なほどに模倣する能力を高めており、さまざまな業界を震撼(しんかん)させている。ジョー・バイデン(Joe Biden)政権もこのほど、ビッグテック(巨大IT企業)のトップを招き、AIの潜在的なリスクについて意見交換を行った。

 そうした中、脚本家が加入する全米脚本家組合(WGA)とスタジオや配信会社との間で行われていた契約更改交渉が今月1日、決裂。交渉でWGA側は、AI利用を規制する拘束力のある合意を求めていた。

 WGAは、AIを使って製作されたものについては印税が支払われる作品と認めないことを求めるとともに、組合加入の脚本家の作品が「AIの学習に利用」されないよう要求した。

 だが、スタジオ側は要求の受け入れを拒否し、「技術進歩について話し合う」ため、年1回の会合を開くとの対案を提示するにとどめた。

 ネットフリックスのヒット作『バード・ボックス(Bird Box)』の脚本を手掛けた、WGA交渉委員会のメンバーであるエリック・ハイセラー(Eric Heisserer)氏はAFPに、「われわれを排除するためにAIを活用する方法を話し合う会合だ。なんて素晴らしい提案だ」と皮肉った。

 ハイセラー氏は「機械ではアートを生み出せない。ストーリーから心や魂が失われてしまう。そもそも、AIのAは『Artificial(人工の)』を表しているのだ」と指摘。さらに、「テック企業はこの業界への進出を試みる中で(脚本の)仕事そのものを壊す恐れがある。要注意だ」とも述べた。

■編集もAIが

 AFPの取材に応じたテレビや映画の脚本家の大半は、仕事がコンピューターに代替されることはないと考えている。しかし、スタジオや配信会社側の考えはその逆とみられ、脚本家にとっては、面目をつぶされる事態となっている。

 脚本家側が危惧(きぐ)するのは、経費節減を目指す製作スタジオの経営陣が、次のヒット作品をコンピューターに書かせようとする可能性があることだ。

 ビバリーヒルズ(Beverly Hills)で先ごろ開催された会合で、ハリウッドの経営幹部らは、そうした脚本家側の懸念を裏付けるような発言をしている。

 映画プロデューサーのトッド・リーバーマン(Todd Lieberman)氏は「今後3年の間に、AIによって製作された映画を鑑賞することになるだろう。それも優れた作品を」と述べたのだ。

 一方、FOXエンターテイメントの最高経営責任者(CEO)、ロブ・ウェイド(Rob Wade)氏は、「(AIが担う分野は)脚本にとどまらず、編集など全てに及ぶ」と指摘。「来年、再来年ではなくても、10年後であれば、AIは確実にあらゆる仕事をこなせるようになるだろう」との見通しを示した。

 AFPが入手した情報によると、脚本家側はスタジオ側との交渉で、報酬に影響が及ばない限り、AIを「製作プロセスの一環として」活用することは容認する姿勢を示したとされる。

 ネットフリックスの大ヒットドラマ『ブリジャートン家(Bridgerton)』の脚本を手掛けたレイラ・コーハン(Leila Cohan)氏は、脚本家にとってAIが有用となるのは、登場人物の名前を考えるといった「手間のかかる作業」に限定されるとみている。

 ただ、コーハン氏は「(スタジオとしては)AIに使い物にならないような代物の原案を執筆させ、脚本家に書き直しを発注するかもしれない」とも予想。「ぞっとする事態だ。この問題に今、取り組むのは非常に賢明な判断だ」と語った。

■乱用防ぐ「ガードレール」を

 2007〜08年に行われたハリウッドのストでは、脚本家側は、自らの作品のオンライン鑑賞に対する報酬を受け取る権利を勝ち取った。当時は映像配信の黎明(れいめい)期で、先見の明があったと言える。

 当時、ネットフリックスがオンライン配信を始めたばかりだった。ウォルト・ディズニー(The Walt Disney Company)の公式動画配信サービス「ディズニープラス(Disney+)」といったサービスが始まるのは、それから10年以上後のことだ。 SF作家のベン・リプリー(Ben Ripley)氏も、現時点で法整備し、「(AIの乱用を防ぐための)ガードレールを設置する」ことが急務と訴える。

 AIには脚本執筆は無理と考えるリプリー氏は、「(脚本家には)独創性が必要だ。AIはその対極にある」と話した。【翻訳編集】 AFPBB News|使用条件