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生成AIが導入された職場での「人材育成」のあり方は?

東京ビッグサイトで開催された「NexTech Week2023【春】」の様子

東京ビッグサイトで開催された「NexTech Week2023【春】」の様子

 さまざまなコンテンツを生成できる生成AI(Generative AI)のビジネス活用が急速に広まっている。特に、米国のOpenAIが開発した対話型生成AI「ChatGPT」は、APIが公開されたこともあり、広告クリエイティブ生成やマニュアル自動作成、FAQ改善などで利用が広がっている。

 また、OpenAIとパートナーシップ関係にあるマイクロソフト社は、自社のサービスにOpenAIの開発成果を積極的に取り入れており、2023年3月には、オフィス製品にGPT-4を統合した「Microsoft 365 Copilot」の提供を発表した。これは、WordやExcel、PowerPointなど、多くのビジネスパーソンが業務に用いているオフィス製品に生成AIを導入するもので、例えば、Word上で文章の要約が自動生成できるようになるなど、普段の仕事の進め方に大きな影響を与えることが予想される。

 業務効率化が進むことは歓迎すべきことだが、その一方で、課題となってくるのが、こうした生成AIを効率よくビジネス活用するためのスキルや人材をどう育成していくかだろう。

 2023年5月10日〜12日に、東京ビッグサイト(東京都江東区)にてNexTech Week2023「デジタル人材育成支援 EXPO」が開催された。その中で、日本マイクロソフト株式会社 Azureビジネス本部AI GTMマネージャーの小田健太郎氏と、AI人材の育成を支援し、2023年5月には「生成AIの利用ガイドライン」も公開した一般社団法人 日本ディープラーニング協会の理事兼事務局長 岡田隆太朗氏が登壇。「AI活用に向けた企業の人材育成最前線 -生成AI等最新技術を活用できる人材をどう作るか?-」と題した講演を行った。

多くの企業が「使う」方向に

 講演の前半では、マイクロソフト社の小田氏がChatGPTのビジネス活用の現状を語った。その中で、特に興味深かったのが、日本企業における生成AIの活用傾向についての説明だ。

登壇中の小田氏
登壇中の小田氏

 小田氏は、実際に企業からChatGPT活用の相談を受ける立場にある。日本においては、「社内向けのチャットボット」として活用するケースが目立つという。これは、AIアシスタントとして、社員がアイデア出しや“壁打ち”、書類作成サポートなどに利用するもので、すでに複数の大手企業が導入を発表している。

 この他、実際に導入検討が進んでいる用途としては、FAQチャットボットや情報検索、コンタクトセンター、カーナビ、スマートスピーカー、商品説明の文言執筆、カウンセリング、英会話アプリなどが挙げられるという。

 ちなみに小田氏によると、現段階の生成AI(ChatGPT)は、「人間相当の高度な文書生成能力を獲得した段階」だが、将来的には、人間がプロンプトを与える、つまり命令をすると、「あらゆるサービス、API、プログラム、データベースとつながり、自ら考えて行動し、目的を達成する」ようになるだろうとのこと。つまり、人間が何かのタスクを実行しようとした際に、その実現プロセスを考えずとも、AIが勝手にタスク計画を立て、目的を達成してくれる世界も実現し得るというのだ。

 こうした生成AIの急速な普及や進化を受け、当初は様子見であった多くの企業で、生成AIに対する態度が変化してきていると小田氏は分析している。

「どう変わってきているかというと、状況の変化に伴い、皆さん徐々に使うようになってきた。ただ、そうしたときに、生成AIなどの最新技術やツールを使いこなすためのガイダンスやルールを策定しないと、社内の個人情報を使ってしまうなどのリスクが発生する可能性があります。ChatGPTに限らず、技術全般に言えることですが、個人にリテラシーがものすごく求められるようになったため、社員をリスキリングしたいというニーズが、お客様との話で多く出てくるようになりました」(小田氏)

「人間対AI」の構図にあらず

 では、実際に企業で生成AIなどの先端技術やツールを活用していくためには、どういった人材育成が必要になってくるのだろうか。

登壇中の岡田氏
登壇中の岡田氏

 日本ディープラーニング協会の岡田氏はまず、今の産業界には、「生成AIを含め、最新技術を常に積極的に取り入れ、それを正しく活用できる人材」が求められていると述べた。さらに、生成AIなどを正しく活用していくためには、デジタルに関する大枠の仕組みを理解し、「活用のためのリテラシーを持つことと、最新情報にアンテナを張るマインド」が大事だと語った。

「矢継ぎ早に新しい技術がリリースされてくる中で、こういうマインドやリテラシーがないと、漠然とした不安が膨らみ、これが(組織内の)ブレーキになっていくのですね。せっかく素晴らしい技術があるのに、それを活用できないということになります」(岡田氏)

 さらに岡田氏は、これから組織内で起こる競争は、「人間対AI」の構図ではないと説明する。

「これから起こるのは『人間対AI』の対立ではないのですね。これから起こる本当の競争は、『自分とその周りの経験だけから学び、AIやデータの力を使わない人』と、『手に入る限りのあらゆるデータからコンピューティングパワーを利用して学び、その力を利用する人』。その対立になっていくと考えられます」(岡田氏 発言中の引用文言の出典は:日立評論「生命に学び、人に寄り添うAI」<ヤフー株式会社 安宅和人氏、日立製作所 矢野和男氏>より)

 こうしたことを踏まえ、これからの企業においては、組織内の「デジタルを知らない人材」を、「デジタルを理解している(デジタルリテラシーがある)人材」に変えていくことが必要になると強調する。

 岡田氏によると、組織内の人材タイプを、「デジタルを知らない人材」「デジタルを理解している(デジタルリテラシーがある)人材」、「デジタルを使える人材・活かせる人材・作れる人材」にわけると、それぞれがDX推進に与える力は、「デジタルを知らない人材」が「−(マイナス)」、「デジタルを理解している人材」が「0(ニュートラル)」、「デジタルを使える人材・活かせる人材・作れる人材」が「+」になるという。

 例えば組織の9割が「デジタルを知らない人材(−)」だとすると、そこに1割ほどの「デジタルを使える人材・活かせる人材・作れる人材(+)」がいたとしてもDX推進にはマイナスの力が働く。そこで、「デジタルを知らない人材(−)」のデジタルリテラシーを上げ、「デジタルを理解している人材(0)」に変えていけば、「−」の要因が消え、たとえ「デジタルを使える人材・活かせる人材・作れる人材(+)」が少なくとも、DX推進はプラスに向かう。こうした観点からも、今後生成AIなどの先端技術やツールをビジネス活用していくためには、組織全体のデジタルリテラシーの底上げが特に重要になる。

* * *

 生成AIの利活用については、危惧される点も多くあるが、現状を見る限り、生成AIのビジネス活用は、もはや止められないというのが実情だろう。であれば、できるだけ早く頭を切り替え、いかに活用していくかに注力する方が、今後の組織のあり方としては健全と言えるのかもしれない。

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有限会社ガーデンシティ・プランニングにてライティングとディレクションを担当。ICT関連や街づくり関連をテーマにしたコンテンツ制作を中心に活動する。