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ミドルシニアを地方企業のインターンシップで輝かせる〜「地方共創セカンドキャリア塾」

Dialogue for Everyone代表取締役の大桃さん(左)と取締役の北村さん(写真は全てDialogue for Everyone提供)

Dialogue for Everyone代表取締役の大桃さん(左)と取締役の北村さん(写真は全てDialogue for Everyone提供)

 都市部の企業に勤めて20年以上。そろそろセカンドキャリアについても考えはじめたけど……。いま、ミドルシニアが地方企業でのインターンシップに取り組むキャリアプログラムが注目されている。展開するのは、大手企業で人事などを担当した大桃綾子さんが2020年に設立したDialogue for Everyone(ダイアローグフォーエブリワン、東京都)だ。都市部の会社員のスキルは、地方企業で通用するのか。代表取締役の大桃さんに話を聞いた。

「40代、50代はなかなか行動が変わらない、と言われがちですが、インターンシップの参加者の7割以上が、プロボノ(スキルを生かした無報酬の社会貢献)や副業という形で地方企業と関わり続けています。年齢と成長は関係ないと、この事業を通して感じています」(大桃さん)

 ダイアローグフォーエブリワンが提供するキャリアプログラム「次のじぶんProject-地方共創セカンドキャリア塾」の参加者は、約9割が40~50代。大手企業に勤め、転職経験がない人が多い。プログラムは、個人向けと企業向けとがあり、個人向けの期間は6カ月。最初に他の参加者と話し合いながら自分のキャリアやスキルを“棚卸し”し、これまでの歩みややりたいこと、できることを整理する。その仕上げが、地方の事業者と連携したインターンシップだ。

 同社は全国20を超える地域の企業などと提携。参加者は面談を経て受け入れが決まった事業者と2カ月間、オンラインでやり取りしながら地方の “困りごと”に取り組む。受け入れ先はメーカーやインフラ企業、農園、観光業者、行政とさまざまで、困りごとも農作物の品質向上、販路開拓、SDGs経営推進、インバウンド対応、新規事業の創出などと多岐にわたる。個人向けと企業向けを合わせて、これまでに100人以上が参加。期間途中で終わってしまったケースはなく、営業や顧客管理、マーケティングといった自身の経験やスキルを生かして、成果を上げている。

 大手損害保険会社で長年、営業をしてきた50代男性は「自分の強みを見つけたい」とプログラムに参加。インターンシップでは、北海道の食品製造会社が販売する豆腐の首都圏での販路開拓にチャレンジした。

品質管理工程図は農園で活用された

 男性は週1回、社長とミーティングしながら豆腐を好みそうな人たちが住む鉄道路線に当たりを付け、沿線のスーパーをリストアップ。そのうち数件に商談を持ちかけ、豆腐のサンプルを送ってもらった。ここまでで2カ月。男性がインターンシップを終えて半年後、社長から「(首都圏の)新規販売先に、数百個以上を販売することができた」と連絡があった。

 ニッチな経験が生かせたケースもある。大手化学メーカーで研究や製造、工場での品質管理に携わってきた50代男性は、北海道の農園の主力作物である白カブの品質向上に取り組んだ。男性は、工場での品質管理の経験を生かして、これまでトップの判断や現場の感覚でやってきた農作業の行程一つ一つを整理し、品質管理工程として分かりやすくまとめた。男性はインターンシップ終了後も、農繁期を避けてプロジェクトに関わっている。

副業の手前、入り口のようなサービスをつくりたい

インターンシップ先である北海道の農園を訪れた参加者

 大桃さんによると、労働力人口の約6割を占める40~60代の人材は、企業の投資の対象になりにくいという。ある民間研究所の調査では、企業の人材開発・育成・研修予算のシニア人材向け配分は全体の6.3%と、新卒入社の5分の1以下、中途入社の3分の1以下となった。そんな中、なぜ40代、50代をターゲットに、そして地方企業でのインターンシップに取り組もうと考えたのか。

 大桃さんは大学院を卒業後、三井化学で約10年、人事・事業企画を担当した。社員の中には、経験やスキルがあっても社内での昇進が見込めず、元気がないベテランもいた。人事で受け入れ先を探しても、なかなか本人は喜ばない。大桃さんは「こうした仕組みはおかしいし、例えば30年まじめに働いてきた人が、その力を使うところが見つからないのはすごくもったいないと思った」という。 

「『組織』ではなくて『社会』という視点で見れば、活躍できる場所があるのではないか」。大桃さんは同社を退職後、別の企業での勤務を経て、都市部の人材と地方企業との副業マッチングサービスを提供する会社の事業に携わる。

 しかし、そこには「副業をしたくとも、それが実現できない」という現実的な課題があった。副業を希望する側は、自分の強みをきちんとアピールできないので、何回応募しても採用されない。企業側も、保有するスキルが見えない副業人材に投資するのは勇気がいる。「副業の手前の練習、入り口のようなサービスがあればよいのではないか」。大桃さんは、知人を通じて知り合った地方でのビジネス経験も豊富な北村貴さん(現取締役)とともに、ダイアローグフォーエブリワンを設立した。

 当初は、都内のスタートアップ企業でもインターンシップを行っていた。しかし、スタートアップでは事業の重要度、緊急度を問わず全方位で人手が足りない企業が多く、スピード感も求められるため、セカンドキャリアのためのインターンシップには不向きだった。

 その点、地方の事業者は新規事業や新規顧客の取り込み、DXといった重要度は高いが、緊急度が低い事業での需要が多い。ある程度企業で経験を積んだ40代、50代に合っていたため、インターンシップ先を地方の事業者に絞ることに。地域の大人のリカレント教育に取り組む一般社団法人や自治体、信用金庫から独立した個人事業主など、その地域にゆかりのある仲介者を通じてインターンシップ先を拡大していった。

プログラムの卒業式でのワークショップの様子

 都市部の企業人が直接、なじみのない地方の人とオンラインで仕事に取りかかると、意気込みや取り組みの手順、速度感の違いでコミュニケーションが上手くいかなくなることもある。同社はインターンシップがスムーズに進むように、さまざまな形で参加者、事業者をサポートする。最初の会議では進行役を務め、2カ月後に到達できていたいことや、定例の打ち合わせのスケジュール、普段のやり取りに使うツールを決める。ツールはLINEやMessengerなど、日常的に使うものだ。

「メールだと毎回『〇〇様』から始まるので心理的距離が縮まらない。チャットだと、業務に関する情報や気付いたことを気負わず送れます。最初のコミュニケ―ションは質より量。日常的に会話が生まれやすくします」(大桃さん)

 インターンシップ期間中は、参加者に地方の事業者の視点や伝わりにくい「NGワード」、オンラインで関係を築くこつなどをメールで配信。最後の会議にも同席し、インターンシップの継続やプロボノ、副業の希望があった場合は、契約形態などの相談に応じている。

40代、50代だからこそ、地方の“困りごと”に対応できる

 起業して3年。大桃さんは現在、市場の伸びを感じているという。「今の仕事を続けながら他の企業の一員として働くということがやっと認知されてきています」。プログラムを導入した企業の中には、ミドルシニア社員のインターンシップが、若手社員にも良い影響を与えているケースもある。「『50代の人が社外の研修でたくさん豆腐を売ったらしい』という話が広がって。若手社員も『50代に投資してくれる会社なんだ』、『50代になってもチャンスがあるんだ』とポジティブに捉えています」

「40代、50代はある程度経験を積んでいるからこそ、地方の事業者と一対一で向き合って取り組めるのだと思います。一つの会社で働き続けて、その会社の中でしか活躍できないと思っている方は多いですが、選択肢が一つしかないのはすごくもったいない。社会という枠組みで考えるとできることはたくさんあるので、ぜひプログラムにチャレンジしていただきたいです」(大桃さん)

 バブル期に就職したが、役職を離れてモチベーションが持てない、就職氷河期にやっとの思いで入った会社の外で仕事をするイメージが持てない……。そんな40代、50代だからこそ、地方の“困りごと”に役立てる。ミドルシニアと地方、どちらも元気にしてくれる事業に期待したい。

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