地球温暖化への危機感が高まる中、グリーンテックやクライメートテック(気候テック)が注目を集めており、中国はそこでも存在感を示している。
今年上半期、中国は日本を抜いて自動車輸出台数世界一となった。ロシア向けの輸出が急増したほか、NEV(新エネルギー車、純バッテリー車、プラグインハイブリッド、燃料電池車を総称する中国独自のカテゴリ)が絶好調。上半期の輸出台数214万台のうち、NEVは25%を占め、前年同期から2.6倍という爆発的な成長を遂げている。NEV輸出のうち約3分の1は米テスラが上海工場で生産したものだが、残りはほぼ中国メーカーによるものだ。
また、中国は自国が世界最大のEV市場でもある。国際エネルギー機関(IEA)によると、2022年のEV(プラグインハイブリッド含む)販売台数は約1020万台を記録したが、そのうち中国市場での販売台数は約590万台に達している。世界一のEV市場で競争しているだけに、性能やユーザー体験などの競争力は格段に増している。
今年、中国を訪問した際、配車サービスのドライバーに日本メーカーの印象を聞いてみた。彼はトヨタのEV「bz4x」を運転していたのだが、ダッシュボード周りの質感や大型ディスプレイでのエンタメ体験ではイマイチ、でも安かったから満足しているとの答えに驚かされた。
EV以上に中国の存在感があるのは太陽光発電だ。2022年のIEA報告書によると、太陽光パネルの中国シェアは80%を超えている。特に主要素材であるポリシリコンやウェハーについてはさらに中国の寡占が進んでおり、数年以内にそのシェアは95%に達すると予測されている。太陽光発電を増やすならば、中国製品を使うことはマストの状況というわけだ。
太陽光発電は、中国国内でも大々的に導入されている。「日本のエネルギー2022」(資源エネルギー庁)によると、中国の発電容量は934億GWと世界一で、2位の米国336億GW、6位の日本132億GWに大差をつけている。
再生エネルギー発電容量で圧倒的世界一の中国だが、その勢いはとまりそうにない。2022年は風力が11.2%増、太陽光が28.1%増と二桁の伸びを続けている。ただし、自然の力を使った再生可能エネルギーは不安定だ。また、地域差も大きく、新疆ウイグル自治区や内モンゴル自治区などは風力、太陽光ともに大量の発電が可能だが、北京や上海などの大都市からは遠く、活用できないという課題が存在する。
発電設備を作るだけでは、再生可能エネルギーは十分に活用できないわけで、この課題をどう解決するのか。ここにもイノベーションが必要となる。
2020年、中国政府はコロナ禍の経済的打撃に対応するべく「新基建(新インフラ)」の建設推進を発表した。2008年の世界金融危機後には、俗に“4兆元対策”と呼ばれた巨額の財政出動が行われたが、ムダな公共工事に多額の資金が費やされたとの批判もあった。そこで次世代の新社会に必要な設備を中心に公共事業を行うことにしたのが「新インフラ」政策だ。
具体的には「5G通信」「AI(人工知能)」「データセンター」「産業IoT」「超々高電圧(Ultra-High Voltage、UHV)送電」「近郊鉄道」「EV充電ステーション」が主要な対象に指定された。
この中で聞き慣れないのが「超々高電圧送電」ではないだろうか。送電線は電圧が高いほど送電ロスを減らすことができる。そのため世界各国で、500kV以上の超々高電圧送電の導入が進み始めている。電圧を上げるには、高電圧に対応できるあらたな設備や機器が必要となる。
中国では新インフラの一環として2025年までに3800億元(約7.6兆円)を投じて36もの超々高圧送電線を建設する計画だという。これらの送電線で、新疆ウイグル自治区や内モンゴル自治区などの再エネ発電地域と、北京市や上海市、広東省などの消費地とを直通させる。整備が進めば、世界一の再エネ発電能力をさらに活用できるようになる。
また新インフラの一つである「データセンター」もその建設にあたっては、脱炭素に配慮が必要になる。今後、データセンターの需要は高まり建設は進むが、同時にその消費電力をいかに減らすかが課題となる。より電力効率の高いデータセンターを作るだけではなく、再生可能エネルギーが豊富な中国の西部地域でデータを保存する「東数西算」(東部のデータを西部のデータセンターで処理)計画も進められている。
再エネ電力有効利用のもう一つの切り札として期待されるのが蓄エネルギー技術だ。太陽光が豊富な昼間など電力が余っている時間帯の電力を蓄え、不足する時間帯に利用する。
電力の保存というと、余った電力で水を上流のダムに貯めて必要な時に使う揚水発電があるが、これをバッテリーで行おうという取り組みが昨年来、中国では爆発的な注目を集めている。
なぜ、バッテリーによる蓄電が急に注目されるようになったのか。その背景のひとつは国家主導の政策だ。習近平総書記は「3060ダブルカーボン」(2030年までに炭素排出量のピークアウト、2060年までのカーボンニュートラルを実現)を公約に掲げている。その本気度は相当なもので、大企業は相次いで脱炭素報告書を公表し、再生可能エネルギーで作られたグリーン電力の購入を増やすなどの対策を進めている。しかし、電力使用量のピーク時に停電地域が広がるなど、その弊害もあらわれているため、再生可能エネルギーのより効率的な利用は焦眉の課題だ。
国家の号令に従い、地方自治体レベルでもバッテリー導入の数値目標や補助金が導入されている。地方ごとに違いがあるが、おおむね再生可能エネルギー発電容量の5%程度の蓄電能力を発電者に義務づける方針だ。この実現のためには巨額の投資が必要となる。
発電事業者以外にも独自に蓄電設備を配備する事例も広がっている。たとえば深セン市は今年5月に投資額の30%を補助する方針を表明し、工業団地ごとにバッテリーや太陽光発電設備の整備を推進している。雲南省が今年4月に発表した政策では、バッテリーを使った電力供給に対し、1kWあたり2.5元(約50円)が補助される。電力需給が逼迫しているタイミングでの電力供給にはさらにボーナスが追加される。
バッテリーを使った蓄電は揚水発電に比べると割高だが、「補助金も加味するなら、うま味のある投資」との判断から資金が流れ込んでいる。6月に広東省深セン市で開催されたデジタルエネルギー展でも、バッテリー関連の「製品」と同等かそれ以上の数のブースがバッテリー関連の「投資」を扱っていた。
ふたつ目の理由は、バッテリー生産能力の余剰だ。前述のとおり中国のEV製造台数は高成長を続けているが、それ以上のペースでバッテリー製造能力が増加している。特に今年春頃には在庫が積み上がり、値崩れしている状況が見られた。
CATLやBYDをはじめとして車載バッテリーを主力としていた企業は新たな成長分野として蓄電に注目している。リーディングカンパニーのCATLは今年1四半期に販売したバッテリーのうち約20%は蓄電設備向け。テスラの大型蓄電システムにもバッテリーを提供している。BYDも力を入れており、デジタルエネルギー展では同社独自の技術であるブレードバッテリー(Blade battery)を使った蓄電設備が紹介されていた。
また、意外に思われるところでは、通信機器端末大手のファーウェイもこの分野でも成長を見せている。もともと携帯電話基地局用の電気設備の開発を続けてきたが、近年はその応用で、太陽光発電向けのパワーコンディショナーでも世界トップシェアを獲得している。現在はファーウェイデジタルエネルギー(華為数字能源)という事業部を設立しているが、同社の事業群でもトップの成長を続けている。
バッテリーによる蓄電にはコストや技術的な課題も残されており、急速に普及が進む中国でも設置したものの稼働率が上がらないという悩みもある。しかし、再生可能エネルギーを有効利用するには、バッテリーによる蓄電技術が必要不可欠なものであることも間違いない。
この分野でも、日本をはじめとする他国が検証を続けているうちに、中国がムダを生み出しながらも技術と価格競争力を身につけて圧倒的トップシェアを握る可能性が高い。すでに中国勢は米国や欧州に工場を建設し、海外進出を強化している。太陽光パネルやEVで繰り返されてきた図式がここでも繰り返される可能性を感じた。