2023年10月20日、渋谷パルコビル18階の「Dragon Gate」にて、株式会社デジタルガレージが主催するシードアクセラレータープログラム「Open Network Lab」27期生によるデモデイが開催された。ピッチコンテストでは、27期生・5チームの代表者が登壇した。
最初に登壇したのは、株式会社AmaterZ(アマテルズ)の矢島正一氏だ。矢島氏は、第一次産業を中心とした多用途で活用できる自社開発のIoTセンサー「tukumo(ツクモ)」を使ったソリューションを紹介した。
「tukumo」は、複数の発電機能、温度や振動など複数のセンサー、通信機能を搭載した小型IoTセンサーで、「身の回りのエネルギー(ソーラー発電や振動発電)で発電し、情報を取得し、無線でデータを送ってくる」という。AmaterZ社では、この「tukumo」を活用し、さまざまな用途、場所に応じた課題解決に取り組んでいる。
デモの中で矢島氏が活用事例として紹介したのは、近年、鳥インフルエンザが問題となっている、養鶏場での衛生管理ソリューションだ。養鶏場は通常、見回りなども不便な人里離れた場所にあり、労働環境も過酷で日常的に人手不足に陥っている。
そこで矢島氏らは、「tukumo」を活用し、湿度、温度、明るさ、CO2、メタン、アンモニアの情報を収集して、クラウドに上げ、分析できるようにした。この仕組みにより、養鶏業者は、これまで現場に付きっきりだった状態から開放され、データを活用し衛生管理ができるようになった。さらに費用面でも、「一鶏舎あたり、年間1千万円程度の固定費を削減できる」ようになったという。加えて、このデータを活用すれば、「衛生管理による(鳥インフルエンザなどの)リスク低減」や「自動化による省力化・生産性向上」「飼料管理による育成強化」も可能になるとのことだ。
「tukumo」のソリューションは、養鶏事業にとどまらず、養殖・畜産・農業など多種多様な領域に展開が可能だ。そのマーケットの広さとビジネスとしての可能性を訴え、矢島氏はピッチを終えた。
続いてbestat(ビスタット)株式会社の松田尚子氏が登壇し、3Dモデルを、AIを使って簡単に制作できるクラウドサービス「3D.ai」を紹介した。
松田氏によると、3Dデジタルコンテンツは、すでに販促の用途などで広く活用されており、その市場はこれからさらに伸びていく可能性が高い。しかし、「制作からリリースまで2社以上を経由する必要があり、制作プロセスが複雑」なことに加え、その多くが「100%人力で作られているため、制作コストがかかってしまう」という課題があるという。
そこで松田氏らは、AIを使って3Dモデルを制作できるクラウドサービス「3D.ai」を開発した。その使い方はシンプルだ。まず対象物の周りを360度回りながら専用アプリで動画を作成。そのデータをクラウド上にアップロードすると、AIが3Dモデルを出力してくれる。あとは、この3Dモデルを人手で補正する。
「この仕組みにより、たとえば100%人力で制作すると150時間かかる3Dモデルが、70%以上時間短縮され、約40時間で制作できるようになります」
さらに松田氏は「3D.ai」の大きな特徴として、完成した3Dモデルを、ARなどの用途に合わせて出力可能な状態にしてくれる機能を挙げた。
「3D制作プラットフォームは、世界にいくつかありますが、その中でも『3D.ai』は最も(AIによる)自動化率が高い。さらにARへの変換といった部分まで一気通貫で対応できるのは、私たちのサービスだけです」
松田氏らは、まず3Dを作るCG制作会社やゲーム制作会社に「3D.ai」を提供。その次には、これまで複雑な制作プロセスや膨大なコストが理由で、3Dモデルを使えなかった事業会社へ展開し、さらにその先には、一般ユーザーへと市場を拡大し、「3Dデジタルコンテンツが溢れる毎日を実現し、世界の感動の絶対数を増やしていきます」と話をしめくくった。
次に登壇したエイトス株式会社の嶋田亘氏は、製造業の改善提案制度をDX化するクラウドサービス「Cayzen(カイゼン)」を紹介した。
改善(カイゼン)活動の中核をなす「改善提案制度」とは、現場の改善アイデアを集め、管理者が評価、フィードバック、効果検証する制度で、嶋田氏によると、現在改善提案制度は9割以上の製造業者で運用されている。しかし、大手企業においても、いまだこのフローが紙で運用されている。これをワンストップでデジタル化するのが「Cayzen(カイゼン)」だ。
「Cayzen」が提供する価値は、業務改善効果の最大化ということになるが、「今年おきたある外部変化によって、新しい価値を提供できるようになった」と嶋田氏は続けた。
「その変化というのが、省エネとCO2削減です」
嶋田氏によると、現在、多くの製造業者では、「CO2の見える化」フェイズを終え、「削減実行」のフェイズに入っているが、継続的に削減する仕組みがまだ見つかっていない。加えて、昨今の電気代・燃料費の高騰もあり、大手企業を中心に、改善提案制度に、脱炭素・省エネの要素を加える取り組みが進んでいるという。
しかし、改善提案に省エネやCO2削減の要素を加えようとしても、その効果算出のために現場で複雑な計算が必要になり、集計の際にも大きな手間が生じてしまう。この課題を「Cayzen」は解決するという。
まず工場、設備ごとに、その機器が1秒稼働すると、何キロワットの電力を使うのか、どのくらいのCO2を排出するのかの情報をシステムに取り込む。この情報を、現場からあがってくる改善提案と紐づけることで、これまで算出されていなかった省エネやCO2削減効果も自動で算出できるようになるという。
こうした取り組みは、まだ業界の最大手で始まったばかりで、市場が顕在化しはじめたところだ。「これから脱炭素の取り組みが拡大すればするほど、この市場は拡大する」と述べ、嶋田氏は自社ビジネスの可能性を強くアピールした。
続いて、株式会社Linkhola(リンコラ)の野村恭子氏が登壇し、企業・自治体向けカーボンニュートラル支援事業「EARTHSTORY」を紹介した。
野村氏は、東京大学で環境学の博士号を取得し、国立環境研究所を経て、経済産業省・環境省主導のJ-クレジットの前身制度構築のプロジェクトマネージャーを務めた経歴など持つ。そんな経験で実感したのが、「カーボンクレジットの発行スキームが劣化している」ということだ。そこでLinkholaを立ち上げ、「EARTHSTORY」の開発・提供を目指したという。
野村氏によると、現在、日本企業は脱炭素に取り組んでいるが、その手段は「省エネ・節電」「電気自動車・水素自動車」「再生可能エネルギー」の3種類にほぼ限定される。これだけだと、カーボンニュートラルの目標達成は非常に厳しく、最終的に企業は、カーボンクレジット(以下、クレジット)を購入し、オフセット(相殺)することに頼らざるを得ないという。
しかも、そのクレジット自体も「圧倒的に不足している」と野村氏は指摘する。野村氏によると、政府は、この10年間で、約900万トンのクレジットを創出したが、これは上場企業1社が2030年までに削減しないといけないCO2と同じ量でしかない。政府はこれを2倍にしようとしているが、官庁主導の制度だと手続きが煩雑で、発行までに時間がかかり過ぎてしまうという。
こうした課題を解決するのが、野村氏らのカーボンニュートラル支援事業「EARTHSTORY」だ。まずは、専門知識を活用して、「クレジットの多種類化」や「発行プロセスの高速化・システム化」を図り、クレジットを大量に発行する。加えて、創出したクレジットを販売する場となる、カーボンオフセットのマッチングプラットフォームも立ち上げるとのこと。
「カーボンクレジットのビジネスは『創出』『発行』『取引』の3つの領域がありますが、私たちは、この3つのビジネス領域を同時に全て扱える、唯一のカーボンインフラメーカーです」
野村氏は、「2026年には、50億円の売上目標を達成できる」と訴え、同社の事業がビジネスとしても大きな可能性を持つことを会場にアピールした。
最後に登壇したのは、木材を探している設計者と、木材を販売したい木材事業者をマッチングするサービス「eTREE」を開発・提供している株式会社森未来の浅野純平氏だ。
浅野氏によると、日本の森林率は68%あり、世界でもトップクラスの森林国家だ。しかし、国産材の自給率は40%にとどまり、多くを輸入に頼っているという。
これには、歴史的な背景がある。高度成長期の日本は「収穫期」と呼ばれる50年〜60年生の木材が枯渇している状態で、木材が不足していた。そこで1964年に政府は木材の輸入を自由化、これにより輸入材が大量に入るようになったため、材木のサプライチェーンの大部分は輸入業者が占めるようになった。
ところが現在の日本の森林には「収穫期」にまで成長した木材が大量にある。SDGsへの関心の高まりもあり、国産材の需要は高まっている。しかし、一度途絶えてしまった国産材のサプライチェーンを再構築することは難しく、「今国産材を使おうと思っても、誰に聞いたらいいのかわからない状態になってしまっている」という。
この、途絶えてしまった国産材のサプライチェーンをインターネットの力で再構築したのが、木材マッチングプラットフォーム「eTREE」だ。
現在、国産材を使う場合は、木材の調達先や加工先、さらには運送業者までも自ら探し、手配する必要がある。しかし「eTREE」を利用すると、これらのサプライチェーンを最適な形で、ワンストップで提供してもらえる。
ユーザーからも高い評価を得ており「特に今年は(木製の)トレーラーハウスがヒットしていて、今季で30台1.5億円。来季は1000台の生産計画になっている」と浅野氏はその実績を披露した。
加えて、都市の木造化を推進する法律の改正も事業の後押しになっている。これまでは、公共建築には木材を使うことが推奨されてきたが、その対象が民間の建築物にまで拡大された。これにより、民間の建築現場においても、今後国産材の需要が増していくとのことだ。
森未来がミッションに掲げているのは、森林を持続可能な状態にして、次世代につなぐ「サステナブル・フォレスト」の実現だ。そのサポートを会場に広く訴え、浅野氏はピッチを締めくくった。
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審査の結果、「審査員特別賞」はLinkholaが受賞し、「ベストチームアワード」と「オーディエンスアワード」は、森未来社のダブル受賞となった。
今回は、脱炭素の要素を含んだ提案も多く、時代の要請に応じたビジネスを創出しようとするスタートアップが増えていることを実感できたデモデイだった。