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ゴールは火星での自然妊娠と出産 オランダ企業の取り組み

米航空宇宙局(NASA)の火星探査車「パーシビアランス」が撮影した火星。NASA提供(2021年5月12日提供)。(c)AFP PHOTO : NASA:JPL-Caltech:MSSS:HANDOUT

米航空宇宙局(NASA)の火星探査車「パーシビアランス」が撮影した火星。NASA提供(2021年5月12日提供)。(c)AFP PHOTO : NASA:JPL-Caltech:MSSS:HANDOUT

【AFP=時事】気候変動危機(の深刻化)、核のアルマゲドン(世界最終戦争)、あるいは突然の隕石(いんせき)の衝突──。そのようなリスクを考えると、人類は「地球B」で生き延びることも選択肢に入れる必要があるのは明らかだ。しかし、オランダの起業家、エグバート・エーデルブルック(Egbert Edelbroek)氏は、それにはまず宇宙空間における安全な生殖を可能にする必要があると語る。

 エーデルブルック氏が立ち上げた企業「スペースボーン・ユナイテッド(Spaceborn United)」は、宇宙空間における生殖研究のパイオニアだ。同社は火星の「低重力」環境の下での自然妊娠と出産を可能にすることを最終目標に掲げている。

 宇宙空間における安全な生殖を実現させるためには、まだクリアすべき課題が山ほど残っている。だがエーデルブルック氏は、自身が生きている間に、人類による地球外での出産を目にすることができると確信している。

 AFPの取材に応じた同氏は「人類が地球以外の惑星にも生息する種となることが重要だ」と話し、「地球外に人類の居住場所をつくり、そこを完全に自立可能なものとしたいなら、生殖をめぐる問題を克服する必要がある」と続ける。

 実際のところ、宇宙空間における性行為にはいくつもの困難が伴う。第一には、重力がないことが挙げられる。重力の欠如により相手からふわふわと離れてしまうだろう。そこでスペースボーンはまず、「宇宙空間での胚培養」を試みようとしている。

 同社は精子と卵子を受精させるための円形の容器を開発した。まずはマウスの精子と卵子での受精を目指す。最終的には、ヒトの精子と卵子を用いる予定だ。

 この開発した容器については「精子・卵子のための宇宙基地」のようなものだと、プロジェクトの協力企業、英フロンティア・スペース・テクノロジーズ(Frontier Space Technologies)のアクイール・シャムスル(Aqeel Shamsul)最高経営責任者(CEO)は言う。

 受精卵は冷凍保存され、発育は一時的に止まる。これは、地球への再突入の際に受精卵を保護する目的も兼ねている。再突入では「強い衝撃、振動、強力な重力加速度を伴う」「受精卵をそうした環境にさらすわけにはいかない」と、エーデルブルック氏は説明した。

 現在は、研究室で低重力環境をつくり、シミュレーションを行っている。エーデルブルック氏によると、来年末にはマウスの精子と卵子を宇宙空間に打ち上げる計画で、「およそ5、6年」後には最初のヒト受精卵が用いられる予定という。

■倫理的な問題

 ただし、それは小さな一歩にすぎない。宇宙で培養された胚を地球上で女性の体内に移植し、実際に妊娠・出産につなげることには、倫理的に大きな問題をクリアする必要がある。

 エーデルブルック氏は言う。「慎重に取り組むべき課題だ。脆弱(ぜいじゃく)なヒトの精子・卵子、受精卵を危険に満ちた宇宙空間にさらすことになる。宇宙空間の放射線は地球よりもはるかに強く、重力環境も異なる。受精卵はそうした環境に対応できるようにはできていない」

 こうした倫理的な問題は、スペースボーンのような民間企業が宇宙空間における生殖研究に取り組む理由の一つとなっている。米航空宇宙局(NASA)では、こうしたセンシティブな計画に税金を投入しにくいという事情があるのだ。

 エーデルブルック氏は、宇宙空間でヒト胚の培養を試みている企業は自身の会社だけだと話す。 体液は地球上では下に向かおうとするが、低重力環境下ではそうはならない。そのため、人の体はあらゆる問題に直面することになる。

「大人なら多少の変化に対処できるが、成長過程にある、より脆弱なヒト胚を宇宙空間のさまざまな変動要因にさらしたくはない。そこで、まずは完璧な環境をつくることが必要となる」

■「宇宙ベビー」誕生を確信

 宇宙空間での生殖に関わってくる新たな要素としては、米宇宙開発企業スペースX(SpaceX)や米宇宙旅行会社ヴァージン・ギャラクティック(Virgin Galactic)といった企業が推し進める「宇宙旅行」がある。

 エーデルブルック氏は、宇宙旅行中に人類初の「宇宙妊娠」を成功させ、歴史に名を残そうと考えるカップルが出てくる可能性があると警告する。そういった「リスク」を認識してもらうために宇宙旅行業界には注意を促しているという。

 他方で課題の大きさが明確になってきたのに伴い、計画の見直しを迫られたとも話し、「われわれは『とてつもなく野心的』から、『とても野心的』に変化せざるを得なかった」と説明した。

 それでもなお、生きているうちに「宇宙ベビー」の誕生に立ち会えると確信している。 エーデルブルック氏は現在48歳だが、「遅くとも100歳までには実現する」と予想する。「それだけの年数があれば必ず成し遂げられるだろう」 【翻訳編集】 AFPBB News|使用条件

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朝日新聞社にてデジタルメディア全般を手掛ける。「kotobank.jp」の創設。「asahi.com(現朝日新聞デジタル)」編集長を経て、朝日新聞出版にて「dot.(現AERAdot.)」を立ち上げ、統括。現在は「DG Lab Haus」編集長。