ビジネスの現場では、生成AIを業務効率化やアイデア創出などに活用するケースが増えつつあるが、これをエンタメコンテンツにも広げていこうというのが株式会社ピラミッドフィルム クアドラだ。当媒体でも同社の『きょう、この夢を抱いて眠る」を以前紹介したが、その後も生成AIを活用したコンテンツの開発を積極的に進めている。
2024年7月には、生成AIを活用した新たなエンタメコンテンツ「AI転生ビジネスカードバトル!よろしくデスマッチ!」を開発した。顔写真と名刺を使ってトレーディングカードを作るのだが、具体的にどのような体験ができるのか。また、生成AIをどう活用しているのか。同社プロデューサーの師富玲子氏、クリエイティブディレクターの濵銀(はま・しるば)氏、インタラクションデザイナーの鵜飼陽平氏に話を聞いた。
相手との距離感を縮めるトレーディングカード
「AI転生ビジネスカードバトル!よろしくデスマッチ!」はコンビニにあるATMのようなサイズ・形状をしている。体験者は、まず好きなポーズを取りながら、筐体に搭載されたカメラで自分自身の写真を撮る。続いて、自分の名刺情報を読み取らせると、オリジナルのトレーディングカードが出力される。トレーディングカードには、体験者の顔写真と名刺情報をもとに作成されたキャラクターやキャラクター名、(得意な)技名が描かれている(一般的なトレーディングカードと同様にしっかりした強度がある)。
キャラクターにはそれぞれ「炎:リーダーシップ(Leadership)」「水:クリエイティビティ(Creativity)」「地:ストラテジー(Strategy)「雷:テクニカル(Technical)」「草:コミュニケーション(Communication)」の属性が与えられている。この5つの属性は、例えば、「リーダーシップ」は「コミュニケーション」より強い、「コミュニケーション」は「ストラテジー」より強いといったパワーバランスが決まっているので、この属性を使い、キャラクター同士のカードバトルを楽しむこともできる。
実際に筆者も体験してみたが、自分の顔写真や名刺情報からキャラクターが作成されるので、アニメキャラクターに“転生”するかのような、独特の高揚感があった。また、そのカードを使ったカードバトルでは、ゲームを一緒に楽しむことで相手との距離感が一気に縮まる感覚も得られた。
「もともとこのコンテンツは、場を和ませるアイスブレイク的に使えないかと考えて作ったところがあります。例えば、新卒の人が入ってくる時期などに、皆にカードを作ってもらって、オリエンの中で、カードバトルをしてもらいながら、パーソナルな部分までコミュニケーションが深まればと。あるいは、普段のビジネスシーンにおいても、例えば名刺交換の際にカードバトルをすることで、互いの親密度が高まればいいなと考え開発しています」(濵氏)
2つの生成AIを連携
では生成AIはどう使われているのだろう。システムを開発した鵜飼氏によると、トレーディングカードを作成する際に、対話型生成AI「ChatGPT」と画像生成AI「Stable Diffusion」の2つを活用しているという。
その流れはこうだ。まず名刺画像から役職や会社名、名前などの情報を、そして顔写真から体験者の表情やポーズの情報を抜き出す。そして、それらをもとに、ChatGPTに、トレーディングカードに記載するためのキャラクター名や技名、属性を生成させる。
続いて、Stable Diffusionに、ChatGPTが作成したテキスト情報と体験者の顔写真をもとに、それらに合うキャラクター画像を生成させ、2つのAIが生成したテキストや画像を一枚のカードに合わせて出力するとのことだ。
「キャラクター名や技名などはそのままChatGPTに任せても生成できますが、我々はそこに一工夫加え、漫画に登場するキャラクター名や技名などを人手で集め、『こんな風に作ってくれよ』とChatGPTに学習させています。また、Stable Diffusionに対しても、アニメっぽい画像を生成するモデルを使うだけでなく、(毎回違う画風だと統一感がないため)同じような画風で出力するよう指示しています」(鵜飼氏)
筐体デザインにもこだわりが感じられる。ゲームセンターに並ぶゲーム機を彷彿させる色合いや形に加え、物理ボタンも搭載され、レトロな雰囲気が漂っている。
「AIを使って最先端のデザインにしてしまうとつまらないので、昔のゲーム機のようなテイストにしました。また、画面やボタンのデザインも、ゲーム好きのデザイナーを意図的にアサインし、ゲームでよく見るトンマナ(トーン&マナー)やUI(ユーザーインターフェイス)を取り入れています。我々は体験を作る会社(広告制作会社)でもあります。そのため、体験をいかにリッチに楽しくするかにこだわり開発しています」(鵜飼氏)
どうビジネス活用していくのか
開発のきっかけは、今年(2024年)の夏に開催した顧客向け展示イベントだ。先端技術を活用したコンテンツを、企画から開発までワンストップで担えることをアピールするために「AI転生ビジネスカードバトル!よろしくデスマッチ!」を作ったのだと師富氏は説明する。
「鵜飼を含めた自社コンテンツ作りを担当するメンバーが、生成AIを用いたコンテンツ作りを熱心に進めていたので、それをベースに開発すれば効率よく開発できると考え、彼らをアサインしました」(師富氏)
当初、人物画像に生成AIであだ名をつけ、そのあだ名に相応しい画像を作るコンテンツ作りを進めていたという。ところが社内から「イベント参加者のコミュニケーションが活性化するような仕掛けがほしい」との要望が寄せられた。そこで、名刺情報やトレーディングカードの要素を加えることで、ビジネスパーソンがアイスブレイクに使えるようなコンテンツに転換していったとのこと。
「実際に展示すると、広告代理店さんが行うイベントに置かせてくださいとの相談があったり、生成AIを使ったコンテンツ作りの引き合いが来たりするなど多くの反響がありました」(師富氏)
今後「AI転生ビジネスカードバトル!よろしくデスマッチ!」をどうビジネス活用していくのだろう。師富氏は、そのまま販売するのではなく、この仕組みを転用するなどし「クライアントワークに活かしたい」と話す。
「例えば、体験者の顔写真を撮影し、いくつかの質問に答えてもらったうえで、(クライアントの商品と掛け合わせた)オリジナルパッケージを生成するなど、生成AIを巧く活用した企画提案に転用していければと考えています」(師富氏)
また、これまでいくつかの生成AIを活用したコンテンツを開発してきたことで、コストや開発期間など裏側の知見もたまってきており、「こうした知見も活かしながら、積極的にクライアントに提案したい」とのことだ。
エンタメコンテンツ開発における生成AIの活用は、まだ試行錯誤が続いているのが実情だろう。そうした中で、実際のコンテンツの生み出すことは、「裏側の知見がたまる」ことも含め、大きなアドバンテージが得られるのだろう。生成AI活用の新たな展開に期待したい。