
自治体向け生成AI「QommonsAI」を開発・提供するPolimill株式会社代表取締役CEOの伊藤あやめ氏(右)と代表取締役COOの谷口野乃花氏(左)
近年、多くの地方自治体が膨大な業務を効率化しようと試みているが、人手不足やデジタル化の遅れなどを背景になかなか進んでいない。
そうした中で、自治体領域に特化した生成AIシステムを提供することで、業務の効率化に貢献しようとするスタートアップがある。それが2021年創業のPolimill(ポリミル)株式会社(本社・東京都港区)だ。
Polimillでは、自治体行政向け生成AIシステム「QommonsAI(コモンズAI)」(GPT-5.2、Claude 4.5、Gemini 3 Pro、PLaMo 2.1 Primeに対応)を開発し、2024年10月より提供。2025年には合計約650の自治体が導入し、本年(2026年)中には合計約1200もの自治体が導入見込みだ。これが実現すると、全国の7割以上の自治体が利用することになる。
「QommonsAI」とはどのようなサービスなのか。なぜ自治体に広く受け入れられるのか。同社代表取締役CEOの伊藤あやめ氏と、代表取締役COO(最高執行責任者)の谷口野乃花氏に話を聞いた。
Polimillと自治体の接点は、同社が開発・提供している「Surfvote(サーフボート)」というSNSだ。これは、誰もが安心して簡単にまちづくりやルール(政策)づくりに参加できることを目指した合意形成プラットフォームで、サイト内には、ジャーナリストや研究者などの有識者が執筆した社会課題(イシュー)に関する記事が並び、記事を読んだユーザーは「投票」という形で自身の意見を表明できる仕組みとなっている。

この「Surfvote」には、自治体が住民から意見を募る仕組みも設けられている。たとえば横浜市では、各区の住民からまちづくりに関する意見やアイデアを募り、それらをエビデンスとして、具体的な施策立案に活かそうとしている。ただ、伊藤氏らが「Surfvote」の活用方法などを自治体担当者と話し合う中で、ある課題点が見えてきたという。
「それが、たとえ住民から意見を集めたとしても、その手前の業務、つまり普段の業務が忙しすぎて、それに忙殺されてしまい、なかなか施策を打つまで至らないことです。こうした状況を改善できないかと考えていた頃に、ChatGPTなどの生成AIが台頭してきました。これを利用すれば、普段の自治体業務をある程度AIに任せられるようになるのではないかと考え、開発したのが『QommonsAI』です」(伊藤氏)
では「QommonsAI」とはどのようなものか。伊藤氏によると、同システムには、全国の自治体の(公開されている)議会議事録を学習した「議会対応AI」や、各自治体の行政サービスや一般情報を検索できる「公共サービスサポートAI」、法令についてのさまざまな質問に答えてくれる「行政文書(e-Gov法令)」、汎用的な用途に利用できる「Qommons Talk」など、さまざまな業務に特化した「専門コンサルティングAI」が搭載されており、自治体職員をサポートする仕様となっている。
「議会対応AI」を例に、具体的な利用方法を紹介しよう。谷口氏によると、最も効果がわかりやすいのが、自治体職員が議員の質問に対する「答弁案」を作成するときだ。答弁案の作成には、情報収集や調査などが必要で、膨大な労力と時間を要する。しかし「議会対応AI」を使えば、これが大幅に短縮されるという。

たとえば「X議員のこれまでの議会での答弁内容から、以下の一般質問に対して、どんな情報を含めた答弁案を作成すると、(X議員に)納得してもらえるのか分析してください」とAIに依頼する。
すると、過去のX議員の答弁情報をもとに、傾向と対策を分析したうえで、必要な情報を提示したり、実際の答弁案の素案を作成したりしてくれる。また、その際に根拠となる出典元も合わせて提示してくれる。
「さらに『議会対応AI』は、過去の議事録の情報だけを参照するよう指定していますので、たとえば議員が書いたブログなどの情報をもとに答弁案を作成することはありません。つまり、非公式の情報が入り込む余地がないのです。また、特にプロンプトで指示せずとも『その質問にお答えいたします』といった実際の答弁で使われる言葉使いで案を出してくれるなど、一般的な生成AIとは“別物”と言っていいほど、使い勝手が良いものに仕上がっています」(谷口氏)
さらに「条例策定」での活用例も示してくれた。多くの自治体では、条例を新しく作る場合に他の自治体の事例を参照するが、その情報収集にも「議会対応AI」が使えるというわけだ。
「ちなみに、同じチャット内で他の専門AIに切り替えられる点」も好評だと谷口氏はいう。
たとえば、ある議員に違反行為があった場合まず「行政文書(e-Gov法令)」を用いて法律違反の根拠を調べる。続いて(同じチャット内で)汎用的な用途に利用できる「Qommons Talk」に切り替えて、具体的な最新事例を(Web上で)調べるなどし、より説得力のある通達書類を簡単に作成できるとのことだ。
「こうした細かい機能や操作性を含め、私たちは現場の職員の人たちとマンツーマンでコミュニケーションしながら開発しており、そのことが多くの自治体に受け入れられている要因のひとつだと考えています」(谷口氏)
冒頭で書いたように、2026年中に全国自治体の7割以上が導入見込みとなるなど、「QommonsAI 」は大きなシェアを占めつつある。創業5年目のスタートアップとしては「快進撃」と言っていいほどに思えるが、実はマネタイズに関しては「手探りで進めてきたところが大きい」という。
「一昨年(2024年)秋にサービスをリリースしてからは、各自治体『1,000アカウントまで永続無料』で提供するなど、まずは“面(シェア)”をとることを重視してきました。その間、どんな風にマネタイズしていくのか、発展させていくのかについては、手探りで進めてきたところが大きいです。しかし、今年1,200自治体で導入が見込まれると確信したところから、プラットフォームビジネスとして成立する見通しが立ちました」(谷口氏)
現在、同社が考えているプランはいくつかある。そのひとつが、今年4月に「QommonsAI 」上にアプリストア「Qommons ONE」を開設することだ。たとえば、防災、福祉、インフラなどの領域の専門性を持つ企業などと提携してAIアプリを作り、自治体に有償(一部無料)で提供するという。「すでに大手企業からもお声がけいただいていて、順次提供を予定しています」(谷口氏)
そのほかにも「QommonsAI」上で自治体間をつなぐ仕組みを提供する「Qommons Connect」も用意されており、「自治体同士での助け合いや庁内でのノウハウの共有、継承ができる」という。
さらにPolimillでは、報道機関向けに「QommonsAI 」を提供するサービスも開始した。国の政策が地方自治体でどのように受け止められているのかを調べることは報道機関にとって重要な仕事のひとつだ。しかし、全国に1718もある市町村の議会で何が話されているのかを調べることは容易ではない。
そこで全国の自治体の(公表されている)議会議事録がデータとして格納された「議会対応AI」を使って、国の政策を自治体がどのように受け止めているかを調べることができるサービスを提供した。
これを使うと、たとえば「カスタマーハラスメント対策条例」を自治体ごとにどのような判断基準を持って策定しているのかを調べたり、クマなど野生動物駆除に自治体がどのように対応しているかを調べたりして、それをもとに取材先を決めるといったことも可能になるという。
「もともとこのサービスは、私たちとつながりのある報道機関から『こんな機能があると時間短縮になる』といった声をいただき開発したもので、大きなニーズがあると見込んでいます。また、議事録のデータも公開されているものだけを使っているため、著作権などの問題に抵触することはないと考えています」(伊藤氏)
現在Polimillでは、こうした機能拡張を進めるために、さらなる開発を急ピッチで進めるための資金調達にも動きはじめている。
「『自ら治める』と書いて『自治体』といいますが、現状ではコンサルなどに総合計画を依頼するケースも少なくなく、結果的に“自ら治める”までに至っていない自治体も多いです。こうした状況を改善するため、将来的には、自治体の皆様が政策や計画を立案する際の意思決定にも『QommonsAI』が活用されるようになればと期待しています」(谷口氏)
AI活用によって自治体業務がどう変化していくのか。今後の展開にも注目したい。