
「NexTech Week 2026【春】」の講演に登壇した日本郵便の三好達也氏(左)と、SUSHI TOP MARKETING代表取締役CEOの徳永大輔氏(右)
一時はNFTアートが数億円で取引されるなど、注目を集めたNFT(Non-Fungible Token)だが、その後ブームは去り、こうした投機的な取引は下火となった。その一方で、企業や団体が顧客と接点を持つためのデジタルコミュニケーションツールとして活用される事例が増えている。
そうした取り組みのひとつが、NFTマーケティング支援を行うSUSHI TOP MARKETING株式会社(東京都千代田区)と日本郵政グループが連携し、地域の「関係人口(※)」の可視化や増加を試みる「地域共創NFTプロジェクト」だ。
※お試し移住や多拠点居住、ボランティア活動など、地域や地域の人々と継続的かつ多様に関わる人々のこと。
2026年4月15日から17日、東京ビッグサイト(東京都江東区)にて「NexTech Week 2026【春】」が開催された。その中で、SUSHI TOP MARKETING代表取締役CEOの徳永大輔氏と、日本郵便株式会社 地域共創事業部 自治体連携事業室の三好達也氏が登壇。「NFTを利用した地域の関係人口CRM〜石見銀山の事例を参考に〜」と題した講演を行い、石見銀山エリアでの実証事例を紹介した。

本題に入る前に、SUSHI TOP MARKETINGの事業について少し触れておきたい。同社は、もともと出版社に勤めていた徳永氏が2021年にNFTマーケティング支援事業を行う会社として立ち上げたスタートアップで、現在は「トークングラフマーケティング」に注力している。
これは、ブロックチェーン上に可視化されている「NFTの所有履歴」をもとにマーケティング活動を行うものだ。従来のマーケティング手法が、ウェブサイトの検索履歴や訪問履歴、SNSのつながり情報などをもとに、ユーザーに合わせた広告を表示していたのに対し、トークングラフマーケティングでは、ユーザーがウォレット内に保有するデジタルデータ(NFT)にもとづいてマーケティング活動を行う。
この手法では、プライバシー侵害なしで顧客識別ができるので、従来はイベントやキャンペーンごとにバラバラで突き合わせづらかった顧客情報も、イベントなどを横断した形で分析できるという利点がある。
SUSHI TOP MARKETINGが手がけているのは、こういったトークングラフマーケティングを企業や団体が行うための支援事業だ。具体的には、公式LINEへの誘導にNFTの取得プロセスを組み込むなど、ユーザーにNFT取得を促す仕組みの構築や、企業や団体がNFTを付与したユーザーを分析するためのツールなどを提供している。
今回の「地域共創NFTプロジェクト」は、こうした徳永氏らが提唱するトークングラフマーケティングを、日本郵政グループが地域の関係人口の可視化や増加に活用した事例だ。
そもそもなぜ日本郵政グループが地方創生の取り組みをしているのだろう。三好氏によると、日本郵政では「郵便局のリソースを活用して、地域内外の事業者と一緒に、何かしら地域社会に好影響を及ぼすための取り組み」を続けており、今回の石見銀山エリアの事例もそうした活動の一環とのことだ。
世界遺産・石見銀山のある島根県大田市大森町は、銀の坑道跡である「龍源寺間歩(りゅうげんじまぶ)」がある「銀山地区」と、重要伝統的建築物群保存地区に指定されている「町並み地区」に大きく分かれているが、出雲エリアの観光のついでに訪れた観光客の多くは龍源寺間歩を見ただけで(出雲方面に)戻ってしまう。このため、「町並み地区」まで足を運んでもらい、回遊性を高めたいという思いが地域には強くあった。
「地域の課題として観光客がどのように地域を回っているのかといったデータを持っていませんでした。そこで観光客が参加しやすい(NFTを使った)デジタルスタンプラリーを実施し、地域内のどこを回っているかを理解しようという話になったのです」(三好氏)
取り組みの概要は以下の通りだ。2025年4月から6月にかけて日本郵便は、「石見銀山デジタルスタンプラリー」を実施。参加者は、観光施設や郵便局などに設置されたQRコードを、スマートフォンで読み込むことで10種類のデジタルスタンプ(NFT)を受け取れ、その取得数に応じて、石見銀山などで使えるクーポンを取得できる。スタンプラリー参加者と地域がLINEでつながる仕組みも設けており、イベント終了後も継続的に地域情報を届け、来訪誘致と周遊・満足度向上に寄与しているとのこと。
この取り組みの特徴のひとつが、NFT配布データから「個人情報を取得せずともNFT取得者と地域の関わり方を可視化できる」ことだ。
「お客様からするとQRコードを読み取っているだけですが、こちらとしてはバックエンドのデータで地域内のどこを回っているのかがわかる。さらに特定の挙動をしている人に対しては、公式LINEを使ってアプローチを試みるとか、そういうことができるようになったのです」(三好氏)
三好氏らは、デジタルスタンプラリーをこれまでに3回実施。「1回目に参加した人は2回目も参加しているか」など、実施回を横断した形での行動分析も行なっている。また、イベントの対象エリアを大田市大森町外にも広げることで、より広範囲の行動分析も可能になっている。
「(訪問者で)満足度の高い方はどんな動きをしているのかを分析できます。その動きを踏まえて、今後は観光デザインや案内の仕組みを考えていけば良いのではないかと」(三好氏)
なお、三好氏らの活動は好評で、島根県松江市など他の自治体からも依頼を受けて同様のデジタルスタンプラリーを実施したり、県内複数エリアを対象としたデジタルスタンプラリーを企画したりと、取り組みの範囲や規模は徐々に拡大しているとのことだ。
先述したように三好氏らの取り組みの最終的な目的は地域の関係人口の増加にある。そのため、デジタルスタンプラリーは「あくまでも地域に入る入り口」に過ぎないという。
取り組みの全体像としては、まずは地域滞在ゼロの「認知者」から、滞在時間が1〜2日の「来訪者・観光客」になってもらい、次に地域に複数回滞在する「リピーター・地域ファン」へと進んでもらう。さらに、地域滞在2週間以上の「中長期滞在者」へ、そして最終的には地域滞在が半年以上の「地域住民(二拠点居住などを含む)」へと、関係性を深めてもらうことが目的となる。そうした「地域との関わり方の深まりを見ていくところにも、この(NFTの)仕組みが使えるのではないか」と述べ、三好氏は発表を締め括った。
匿名のまま行動分析やイベントを横断した分析ができるNFT技術は、徐々にその利用価値が認められ活用の場も広がっているようだ。今回の事例は地方自治体が関係人口を増やす施策の入口としての利用の例だが、スポーツチームのファン拡大・維持や商業施設の顧客開拓など、他の組織や目的でも同様の活用事例が存在している。NFT利用の事例として引き続き同様の動きを含め注視したい。