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天気予報のように、病害虫リスクを予報 ミライ菜園が変える農業の未来

株式会社ミライ菜園が開発・提供する病害虫予測アプリ「TENRYO」を使う様子(以下、全ての画像提供:ミライ菜園)

株式会社ミライ菜園が開発・提供する病害虫予測アプリ「TENRYO」を使う様子(以下、全ての画像提供:ミライ菜園)

 食品を廃棄する「フードロス」の問題もさることながら、実はその前段階である農業の生産現場においても、深刻な食料の損失が発生している。

 それが農産物の病害虫被害だ。国連食糧機関(Food and Agriculture Organization of the United Nations:FAO)によると、世界の主要農作物の20〜40%が病害虫の被害で失われているという。加えて、近年の気候変動により、病害虫の発生はより予測が困難になり、さらなる被害をもたらす可能性が高まっている。

 こうした病害虫の発生を事前に予測・防除するツールを開発し、病害虫被害を減らそうとしているスタートアップがある。2019年創業の株式会社ミライ菜園(愛知県名古屋市)だ。

 同社は、AIで病害虫の発生を予測するアプリ「TENRYO」を開発・提供することで、農家が「予防的」かつ「精度の高い」防除を行うことを支援している。さらに、適切なタイミングでの農薬散布を促すことで、コスト削減や環境負荷の低減にもつなげている。代表取締役の畠山友史氏に「TENRYO」の利点や導入状況、展望を聞いた。

「畑のフードロス」が深刻化

 畠山氏らは、農作物の病害虫被害を「畑のフードロス」と呼ぶ。これは、たとえば、虫に食われて穴があいてしまったキャベツや、菌に汚染され黒くなったブロッコリーなどが出荷できなくなることだ。こうした被害は増加傾向にあり「平均25%の収量ロスが発生している」と畠山氏はいう。

ミライ菜園 代表取締役の畠山氏
ミライ菜園 代表取締役の畠山氏

「つまりキャベツを4つ育てると、1つ捨てるような状態になっており、非常に高いロス率です。一般的な製造業では考えられないようなロス率のまま、産業として進んでいるのが農業の特徴です」

 従来の病害虫被害への対策は、農薬散布が一般的だが、農薬を散布するタイミングは農家の経験と勘に頼るため、経験豊かな農家はうまく対応できるが、そうでない農家は被害が拡大する傾向にある。加えて、近年の気候変動の影響により、経験のある農家でもそれが通用しなくなることが増え、病害虫被害は増加傾向にある。

 病害虫被害は「予防すること」が何よりも重要だと畠山氏は強調する。

 人間も、健康的な生活で病を予防していれば、ほとんど薬いらずの生活ができるが、病気になると薬が必要になる。

「植物も一緒で、予防的に対処できれば、農薬の量も減らせるうえ、薬自体も弱いもので対処できる。しかし一旦病害虫被害が発生してしまうと、強い薬をたくさん使わないといけなくなり、コストも上がるうえ、環境への影響も大きくなってしまいます。そうした観点からも、予防的に対処することは重要なのです」

 こうした病害虫の発生を数日の誤差で予測できるのが、ミライ菜園が開発・提供しているAIアプリ「TENRYO」だ。

特に気候変動下で効果を発揮

 畠山氏によると、「TENRYO」のユーザーは主に農家と、生産者に対して病害虫の防除指導などを行うJA(農協)や自治体担当者だという。なお、現在対象となっている農作物は「23品目」だ。

 農家の使い方としては、天気予報と同じような形で毎朝アプリを開き、病害虫の発生が予測されていないかチェックする。もしリスクが高まっているものがあれば、農薬散布する。

「TENRYO」の利用画面
「TENRYO」の利用画面

 JAや自治体担当者は、営農指導員として農家に「今どの病害虫被害のリスクが高まっているのか」を伝える際に客観的データとして活用できるという。

 さらに営農指導員の場合は、AIの予測に加えて、病害虫の発生状況をアプリ上でマッピングする機能も活用できる。従来、農家で病害虫被害を確認したとしても、その情報を即日他の指導員と共有することができなかった。

「一方、我々のアプリを使うと、現場で病害虫を発見した際にすぐに記録でき、マップ上に反映されます。こうした機能も指導に活かしていただいています」

 なお、AIに学習させた主なデータは「気象データ」と「病害虫の発生履歴」の2つだ。畠山氏らは「TENRYO」を開発する前、スマートフォンで野菜や園芸植物の被害の様子を撮影するだけで、その病気や害虫がなんであるか診断をしてくれる「SCIBAI」(サイバイ)というアプリを農家や家庭菜園愛好家などに提供していた。そこから集まってきた70万点近いビッグデータが「病害虫の発生履歴」となり、「TENRYO」の学習に活かされているとのことだ。

 もう一点、畠山氏は「TENRYO」の大きな特徴として「気候変動に強い」ことをあげる。たとえば、アブラムシは通常3月頃に発生するが、気候変動の影響で2月の気温が高ければ、2月にアブラムシが発生する予報を出せる。

「我々が開発したAIは病害虫の生態をモデル化しています。その生物の活動がはじまるタイミングは、ほとんどの場合、気温が影響していますが、そうした生態をモデル化しているため、気候変動で気温が変動した際にも、その気温に合わせて精度高く予報を出すことができるのです」

JAや農家からの評判も上々

 筑波大学でロボット工学の博士号を取った畠山氏は、大手電機メーカーに入り、上下水道のシステム開発に従事していた。しかし、お茶の一大産地であった実家の埼玉県入間市で、帰省するごとに茶畑が荒廃していくのを見るうちに、「工学の専門的知識を何か活かせないか」という思いが募り、2019年にミライ菜園を創業したという。

「その当時(ディープラーニングの登場などで)AIの認知に大きな改革が起きたという印象を受けました。このAIであれば、長年感じてきた農業の課題の解決に活かせるのではないかと。そんなことがきっかけで会社を立ち上げたのです」

 ミライ菜園は2025年3月に「TENRYO」をリリース。現在11のJAや約300の農家が活用しており、「ここからさらに導入が加速していくのではないか」と畠山氏は期待をにじませる。

 実際に導入効果も出ている。たとえばブロッコリーには「黒すす病」という病気があり、愛知県では秋と春に発生することが多い。しかし、近年の暖冬により真冬にも発生リスクが高まっているが、「TENRYO」を使っていた多くの若手農家はこの対策がうまくいき「きれいなブロッコリーが採れている」という。

 またJA豊橋では、もともとフェロモンで虫を誘き寄せて、定期的にその数を数えてモニタリングする「フェロモントラップ」という手法を使っていたが、「TENRYO」導入後に、トラップを使わずとも虫の発生を予報できるとし、フェロモントラップを全面的に廃止することにした。

「これまでフェロモントラップに毎月40時間近く割いていたのが、実質0になったということで、人手不足解消や働き方改革という観点で非常に成果があったと喜ばれています」

 ただし、事業を拡大していくにあたり「この先どう普及させるか」という課題もあるという。

「農家は“誰の紹介か”を重視します。我々がいきなり農家を訪ねて『こんな予報アプリがあります』と伝えても、全然響かない。そこで、JAや自治体の指導員を介して広めていただこうと。そういう意味でも今JAからの評価が高まっていることは、非常に大きな効果が期待できます」

 今後、ミライ菜園では「対象となる農作物の種類を増やす」とともに「1カ月先程度まで予報できるよう予報の長期化」を目指していくとのこと。

 また畠山氏は、病害虫被害を減らしていくことは「非常に即効性のある形で生産者の所得向上にもつながること」であり、「資材高騰で生産者の余裕がなくなってきている中で、ぜひ『TENRYO』の普及を通して、病害虫被害の削減を進めたい」と意気込みを語る。

 農産物の病害虫被害を減らすことは、我々の食生活や物価にも直結する。ミライ菜園の取り組みが日本の農業に光明をもたらすか、引き続き注視したい。

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有限会社ガーデンシティ・プランニングにてライティングとディレクションを担当。ICT関連や街づくり関連をテーマにしたコンテンツ制作を中心に活動する。