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 “海藻の力”で牛のゲップ由来のメタン8割以上削減 環境問題に挑むスタートアップ

飼料に微量添加することで、牛の体内のメタン生成を大幅に減らしてくれる海藻カギケノリ(以下、全ての画像提供:カギノワ)

飼料に微量添加することで、牛の体内のメタン生成を大幅に減らしてくれる海藻カギケノリ(以下、全ての画像提供:カギノワ)

 「牛のゲップが地球温暖化の原因のひとつになっている」という話を耳にしたことがある人は多いだろう。反芻動物である牛は、消化の過程でメタンを生成し、呼気を通じて大気中に放出するが、このメタンには二酸化炭素の約28倍もの温室効果(※)があり、地球温暖化の要因のひとつになっているという。

※GWP100(100年地球温暖化係数)に基づく二酸化炭素換算

カギノワ代表取締役 吉川氏
カギノワ代表取締役 吉川氏

 この課題を「カギケノリ」という海藻の力を使って解決しようとするスタートアップがある。2025年創業の株式会社カギノワ(本社・鹿児島県指宿市)だ。

 カギケノリには、反芻動物の胃の中で生成されるメタンを抑える効果がある。カギノワは、これを牛の飼料に混ぜることで、牛由来のメタンを削減し、さらにこれを養殖することで海の生態系回復にも貢献しようとしている。

 同社代表取締役の吉川真希氏に、事業内容や期待される効果、展望を聞いた。

牛のメタン削減の効果は大

 吉川氏によると、カギケノリは熱帯から温帯の海域に広く分布する海藻で、日本の沿岸にも生息している。メタン生成を抑える物質を大量に含んでいるのが特徴で「牛の飼料にわずか約0.2%添加することで、牛由来のメタンを80%以上も削減できる」可能性が高いという。

 牛1頭が1日に排出するメタンの量は「約0.3キログラム」あり、これを地球温暖化係数(GWP)を用いて二酸化炭素に換算すると「約8キログラム(自家用車約1.7台分の排出量)」に相当する。世界中の牛の飼育に関連する温室効果ガスを合わせると「年間約38億トン(※)」。「国ひとつ(が排出する温室効果ガスの量)に匹敵するほどの量になるため、牛由来のメタンを削減することは温暖化の抑制に大きな効果がある」とのことだ。

※国連食糧農業機関の推計に基づく

 また、一度排出された二酸化炭素は、海や森林などに徐々に吸収されるが、「その一部は数千年以上、大気中に残る」。一方メタンは、主に大気中の化学反応で分解され、その寿命は約12年と比較的短いため「メタンの排出削減は、短期的な温暖化の抑制効果が期待されている」という。

「この先2030〜2040年代にかけてさらに温暖化が進み、一部のティッピング・ポイント(※)を超えるリスクが懸念されています。そうした中で、短期的な温暖化の抑制に効果が期待できるメタンの削減が、今こそ重要だと考えています」

※気温上昇が一定の温度を超え、引き返せなくなる臨界点のこと

漁業者、畜産農家、企業をつなぐ収益モデル

 とはいえ、カギケノリを使った飼料添加物を自社で製造・販売するだけでは、事業を持続するのは難しいだろう。そこで吉川氏らが構想したのは、カギケノリの飼料製造を軸に、「漁業者・地域」「畜産農家」「食品・食肉関連企業」をつなぎ、牛由来のメタン削減と経済価値を同時に生み出す収益モデル(下図参照)だ。

 具体的には以下のようなモデルとなっている。まず「漁業者・地域」には、カギケノリを養殖してもらい、カギノワがそれを買い取る。これにより、漁業者には副収入が入り、地域に新たな雇用が生まれる。また、カギケノリを養殖することは藻場の再生や海洋環境の保全にもつながるため「さまざまな面で漁業者や地域にメリットをもたらす」と、吉川氏は説明する。

 こうして養殖されたカギケノリをもとに、カギノワでは牛の飼料添加物を製造して「畜産農家」に提供する。

「畜産農家」にもたらすメリットとして、まずは消化器官で発生するメタンを抑えることで、牛に与えた飼料が効率よく肉体作りに使われるようになり、「飼料効率や生産性の向上につながる」

 加えて「環境に配慮して飼育された牛というブランディング」にも寄与する。「たとえば、欧州などに輸出される際に、環境に配慮して育てられた牛かどうかが重視されるため、市場を広げる際などには、メタン削減の利点を感じられる場面が増えていく可能性が高いと考えられます」

 さらに「カーボンクレジットを使って、飼料添加物の導入コストを少しでも上回るような仕組みづくりにも注力している」とのことだ。

 メタンを削減した牛を購入する「食品・食肉関連企業」にとっては、ブランド価値の向上や、消費者からの支持につながることなどが利点となる。特に、サプライチェーン全体での温室効果ガス削減を目標に掲げる企業にとっては、「調達する原材料の生産段階での排出削減につながり、企業の脱炭素目標の達成にも貢献できる」と吉川氏は自信をのぞかせた。

カギノワのビジネスモデル
カギノワのビジネスモデル

養殖は順調、数年かかる登録手続きが“壁”に

 では同社の事業は、現在どういった進捗状況にあるのだろう。

 まずカギケノリの海面養殖については、昨年(2025年)から海面での養殖に取りかかっており、「海中に設置した種糸から、たくさんのカギケノリが生えてきているのを確認済み」だという。

 さらに今年度からは、国際農林水産業研究センターと共同研究契約を締結したほか、鹿児島県水産技術開発センターとも協力しながら「海面や陸上での養殖を、より効果的に行えるよう研究開発を加速している」とのことだ。

 ただし、この先事業を展開していくうえで、越えなければならない“壁”もある。それが、農林水産省から「飼料添加物としての指定」を受ける手続きだ。

「カギケノリそのものを使った製品が安全であることを、実験結果やデータをもとに認めてもらい、飼料添加物として登録してもらう必要があります。実際に畜産農家に提供できるタイミングは、その後になります」

将来的には「国を巻き込んだ大きな輪」に

 煩雑な手続きや研究開発で多忙な日々を送っているにも関わらず、吉川氏の情熱が擦り切れてしまうような様子は微塵も感じられない。その背景には、取り組みに懸ける強い思いがあるようだ。

 高校卒業後、吉川氏は西オーストラリアの大学に移り、生命医科学と分子生物学を専攻するが、その中でオーストラリア人の環境意識の高さに触れ、環境問題を“自分事”として意識するようになった。その後、帰国しバイオテクノロジー関連の仕事に就いたが、「環境問題に取り組みたい」という考えが頭から離れなかったという。

「日本は環境に対する意識が低く、皆が取り組まなければいけない問題が、常に一番後回しにされていると感じていました。どうしたらこの状況を改善できるかと考えたときに、やはりビジネスの力が必要なのだろうと。環境にもよく、お金儲けにもつながる。そんなビジネスモデルを構築できれば皆が気持ちよく参加してくれるのではないかと考えました。そんなおり、当時の勤め先と関連のあった、ある微細藻類の培養技術を開発する会社を通じてカギケノリのことを知り、漁業者と畜産農家、企業をダイナミックにつなぐことで、有効なビジネスモデルができるのではないかと考え、起業するに至りました」

 吉川氏はカギノワの事業を通じて、「漁業者、畜産農家、企業をつなぐだけでなく、消費者や自治体、ひいては国を巻き込んだ大きな輪にし、将来的には世界中にその輪を広げていきたい」と話す。

 環境問題の解決には、関わる人の収益源を作り、その収益モデルを長く回し続けられる仕組みを生み出すことが重要な鍵となる。カギノワの“輪”がどのような影響を社会に与えていくのか。引き続き同社の取り組みを見守りたい。

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有限会社ガーデンシティ・プランニングにてライティングとディレクションを担当。ICT関連や街づくり関連をテーマにしたコンテンツ制作を中心に活動する。