最終回は、現在のジェレミー・ルービン氏(Jeremy Rubin)の興味関心事、またその原点となる体験や、現状に望むこと、未来への展望、自身が未来に望むことなど、ブロックチェーン(ビットコイン)の未来に何を見ているかがよく分かるインタビューとなった。
松尾真一郎氏(以下、松尾):とても気になっているのですが、ビットコインの特徴の中であなたが特に興味を持っていて、重要だと思っているものは何ですか?
ジェレミー・ルービン(以下、ジェレミー):実は私は2011年からメディアラボにも在籍していました。私は人間とコンピュータの相互作用(HCI)に強い関心を持っていました。どのようにコンピュータを使うと、実際に私たちの人として生活にどのような影響を及ぼすのか。私はビットコインについて聞いたとき、「これはコンピュータとのコミュニケーションとしては一番変わった方法だ。実際にお金を所有することができるのか?」 と思いました。私はその当時、これはかなり深いなと思いました。私はさらに興味を持って、それについてもっと勉強しました。それは本当に魅力的であると同時に、私は技術的な問題を見つけました。
そして、最終的に何に行き着くかと言うと、それは皆の生活や、社会の中で一緒に働く方法に深く影響を与えることができるプラットフォームだと思います。私はそこには非常に大きな可能性があると思うし、それをさらに促進させることを望んでいます。私が最も興味があることはこれです。しかし、すべての技術的な課題も同様に楽しんでいます。
松尾:去年開催された前回のMITビットコインエキスポで、あなたが夢中になったハイエクマネーの話に触れました。これはビットコインの特性を説明するのに重要な言葉だと想像しています。
ジェレミー:これはある意味興味深いことです。結構多くの人が、ビットコインのことをハイエクマネーと呼びます。ハイエクは世界的に有名な経済学者で、ノーベル賞を受賞しています。彼はオーストリア学派の有力な一人として知られています。つまり、政府が大きな権力を握るべきであるという考え方に敏感であったということです。彼は、生産的で健康的な社会を実現するためには、競争が最も重要だと考えました。政府の役割は、競争を可能な限り増やすことです。
そして、これは若干視点の違う意見につながります。その一つは、最低所得保障を持つなど、労働者の一定の保護が実際に重要であるということでした。彼は、人々がベーシックインカム(最低所得保障)を持っていれば、仕事を決めるのにより多くの選択肢を持つことができ、十分な条件を提供していないと会社に抗議し、他の場所で仕事を探すことができたであろう、とは信じていませんでした。これはあなたが会社に身を捧げているからといって、必ずしも豊かな暮らしができるわけではないということです。それに対し彼は、政府はこれに関与すべきではなく、自由市場にこれを存在させるべきで、それがどうなっていくのかを見なければならないと彼は述べました。
そして、ハイエクマネーとしてビットコインを判断する2つの方法があります。ひとつ目は、これはより広く理解されていると思いますが、「ねえ、政府はビットコインに干渉することはできないんだよ。これは変えられないし、ずっと存在し続けるものなんだよ。」という点。 そして、それは市場の誰にとっても不公平なルールではありません。誰もインサイダーの利点を得ることはできません。
もうひとつは、ビットコインは新しい通貨をつくる方法であり、「私たちは政府と競争するつもりです。私たちはもうひとつの選択肢を作って、これらのルールがより望ましいかどうかを見極めます。」だから、私たちは、ハイエクマネーが通貨のプラットフォームと競合できるかどうか、それがハイエクマネーをより面白いものにすると考えています。それは本当に興味深いことです。
松尾:それは、この技術が持つとても興味深い哲学性だと思います。ビットコインだけではなく、ブロックチェーンも他の種類のアプリケーションにおいて、同じような哲学性を持っています。
ジェレミー:それは確実に「ビットコインだけを所有するか、それともライトコインやイーサリアム、他のライバルのものを持っていると良いのか?」という質問につながりますね。私は、競争は変わってきていると思います。これは、長年にわたってビットコインが多くの改良重ねたことで、本当に大きな市場競争の役割を果たしたことの証明だと思っています。
松尾:素晴らしいですね。多くの人々がこの世界、ブロックチェーンとビットコインの世界にいます。彼らはMITがこのコミュニティーのリーダーになることを期待しています。Joiがいつも言っているように、この技術にとって大事なこととは、健全なコミュニティーを維持することです。そしてあなたもまた、前回のMITビットコインエキスポで述べたように、健全なコミュニティーを維持することを重視しています。あなたはこのコミュニティーを健全に保ち、またより健全なものにしていくために何か意見はありますか?
ジェレミー:私がこれを前進させるのに本当に重要だと思っていることは、こういったプログラムに参加した人たち全員が定期的な接点持つことです。そして、日本のビットコインコミュニティーの誰もが平等に議論、分析することにフォーカスし、そこにビットコインの政治的な側面を持ち込みすぎないことです。あるコミュニティーで本当にうまくいっている例を見たのですが、そこでは週に一度、最近ビットコインでどんなプルリクエストがあったのかを話すだけとか、変更されたコードを皆でレビューしたりしていました。私はこういったものがコミュニティーを継続的に健全に保つのに重要だと思っています。
そして、ビットコインの開発により多く投資がなされることが重要だとも思っています。もひとつ付け加えるなら、コミュニティー内に皆を引っ張っていけるような本当のエキスパートでいて、こういった専門家に指導してもらえる機会が多くあることです。私は、こういった専門家を何人かでも育成することが大事だと思っています。
松尾:それはとても重要で興味深いですね。この活動の先にある夢は何でしょう?ブロックチェーン技術やこれを開発することの先にある夢です。あなたのさらなる夢は何でしょう?
ジェレミー:私としては何を見てみたいかというと、規制に関して今後どうなっていくのかということをもう少しはっきり知りたいですね。基本的にはビットコインの使用は表現の自由です。ビットコインやその他のお金を使おうとする行為は、誰からも干渉されずに、誰かから別の誰かへ物が渡るという基本的な人権のようなものだと思います。ある種の社会的な合意というものを突き詰めていくと1つの考え方に行き着くと思いますが、それがこの権利を途中で妥協させてしまうものかもしれません。ただ、私はこの社会は人々がそういった基本的な権利を持つべきという考え方と折り合いをつける必要があると思っています。私たちがこれを守る限り、ビットコインは人々にとって作る価値のあるプラットフォームになると思います。私はこのような視点を社会が持つまでは、実際の私たちの生活になじむことは難しいと思っています。
Jeremy Rubin
co-founder of Tidbit, the MIT ビットコイン Project, and the MIT Digital Currency Initiative
マサチューセッツ工科大学にてRonald L. Rivest教授の元、電気工学、及びコンピュータサイエンスの工学修士を修め2016年卒業。ビットコインの技術に精通し、Tidbitの創業、MIITのビットコインプロジェクト、MITデジタルカレンシー・イニシアティブの立ち上げなど数々の実績を持つ。またScaling ビットコインカンファレンスのプログラムチェアーとしても活動する。現在はビットコインコア技術の進化に力を注ぐ傍、ハードウェアや製造技術、関数型プログラミングにも取り組む。また、ロングボードスケーターでもある。
松尾 真一郎
DG Labアドバイザー(ブロックチェーン)
MITメディアラボ研究員 所長リエゾン
BSafe.network共同設立者
シリコンバレーを拠点に活動する、暗号技術と情報セキュリティ分野の研究者。ブロックチェーンをアカデミアの視点から成熟させる活動をしている。
MITメディアラボでは研究員および金融暗号分野の所長リエゾンとして活動するとともに、東京大学生産技術研究所・海外研究員、MagicCube Inc.のチーフセキュリティサイエンティストを務める。
世界初のブロックチェーン専門学術誌LEDGERのエディタであり、W3Cのブロックチェーンカンファレンスのプログラム委員。Pindar Wong氏ともに、ブロックチェーンの学術研究を行う大学による国際研究ネットワークBSafe.networkの構築を行っている。