「Open Network Lab」第30期デモデイの登壇スタートアップと審査員の関係者一同
2025年9月19日、渋谷パルコ18階の「Dragon Gate」にて、株式会社デジタルガレージが主催するシードアクセラレータープログラム「Open Network Lab」のデモデイが開催された。「Open Network Lab」は今年15周年を迎え、第30期となる今回登壇したのは、子どもの見守り、アニメ制作、物流、農業とそれぞれ異なる分野のスタートアップ4社だ。
以下、各チームのピッチ内容を紹介する。
最初に登壇したのはAdora株式会社の代表取締役冨田直人氏だ。冨田氏によると、現在、子どもたちの多くは8歳頃からスマートフォンを使い始める。そして、約9割もの保護者が子どものスマートフォン利用、特に「LINEの使い方」に不安を抱いているという。
クラスメートとのLINEの中で、いじめや誹謗中傷に巻き込まれるのではないか。あるいはインターネットで知り合った大人とやり取りしているのはないか。さらに、LINEでのトラブル以外にも過剰な課金や、スマホの使いすぎなど親の悩みは尽きない。
しかし、従来の見守りサービスはこうした多様なトラブルを、まとめて解決することができないという課題があった。そこで冨田氏らが警察や大学と連携しながら開発したのが、子どもをいじめや犯罪から守る親子向けAIスマートフォンアプリ「コドマモ」だ。
「コドマモ」は月額790円のサブスクモデルで提供される。子どもが「お前ウザいから学校へ来るな」「裸の写真を送ってよ」といった危険なLINEのやり取りをしている場合、保護者のスマートフォンにその内容が表示されるほか、子どもの外出中の位置特定や、スマートフォンの利用時間の管理、課金の管理など、さまざまな機能を持ち合わせ「子どものスマートフォン利用に関する不安を丸ごと解消できるアプリになっている」という。
同アプリのリリースは2年前。すでに国内で16万以上ダウンロードされているという。さらに大手キャリアとの提携も開始しており、将来的には海外市場も含め「売上1兆円規模を目指す」と述べた。
もう一点冨田氏がアピールしたのが、同社が強みとしている独自技術だ。これは、LINEなどのメッセージアプリを読み取って分析できる「暗号化通信に関する技術」で、子どもの見守りだけでなく、「高齢者や自治体、企業向けのセキュリティ関連サービスにも展開できる」とポテンシャルの高さを訴え、同社への出資を広く訴えた。
続いて、アニメスタジオ向けAIサービス「ANICLA(アニクラ)」を開発している株式会社CrestLab代表取締役の坂東裕太氏が登壇した。
坂東氏らが着目したのは、日本のアニメ現場が抱える課題だ。坂東氏によると、アニメの1作品に必要な作画数は5万枚以上、制作費も4億円以上と年々高騰しているものの、この作画を担うアニメーターの数が国内では減少しており、海外に依存する体制に陥っている。しかし、海外の作画クオリティは低いものも多く、修正コストが増大するほか、日本国内での若手アニメーターの育成機会の損失や、アニメ制作に時間がかかってしまうなどの課題が発生しているという。
「これらの課題を解決し、作画を1分で完結させるアニメスタジオ向けAIサービス。それが私たちの『ANICLA』です」(坂東氏)
「ANICLA」は、原画と呼ばれるアニメに動きをつけるための素材を投入すると、原画と原画をつなぐ間のカット(動画)を自動で作成してくれるAIサービスだ。原画を投入し、動画枚数を指定するだけの簡単操作で、動画のカットをわずか1分程度で作成してくれる。
なお、他社も同様のサービスを提供しているが、作画に時間かかるほか、指定できるカット数が限定されるなどの課題がある。「ANICLA」はスピーディかつシンプルな操作性、さらに「(人手の)クリエイターと同様のクオリティが出せる」ところに強みがあるとのこと。
「ANICLA」を今年8月にリリースしたところ、多くのスタジオから問い合わせがあり、トライアルも3社、さらにこの秋放送のアニメから本格利用も予定されているなど「わずか1ヶ月の間に大きな反響を呼んでいる」という。
現在同社では、アニメスタジオ向けに一部機能を自動化するサービスを提供しているが、将来的にはワークフローの多くをAIで自動化し、「企画情報から一気に作画できるような新しいアニメ制作のフォーマット」を開発する計画だ。さらに、サービスの提供を通して現場データを蓄積し、最終的には「自分たち自身がアニメIPの創出拠点となる」構想も示して、同事業への参画を呼びかけた。
3番目にピッチを行ったのは、グローバルなサプライチェーンを有する大手企業向けの国際物流DXクラウド「Harbitt(ハービット)」を開発しているハービット株式会社代表取締役の仲田紘司氏だ。
現在、仲田氏らがターゲットとしている海上国際コンテナ輸送は「輸出入の約6割を占め、貨物量も年々増えている」という。しかし、国際情勢や自然災害、サイバー攻撃といった要因により、コンテナ輸送の遅延が常態化し、「数週間、1ヶ月以上の遅延」も頻発しているとのことだ。
「(部品の船舶輸送の遅れが原因で)工場が1日停止すると数億円の損害が出る、あるいは欠品のペナルティで年間数億円払うといった企業もあります。このため物流担当者は、今貨物がどこにあって、いつ着くか、これをタイムリーに把握しなければなりません」(仲田氏)
この、船舶で輸送している貨物の状況を確認する「動静確認」と呼ばれる作業は、現場担当者に大きな負担となっている。たとえば、物流量の多い大手企業の場合、一部の重要な貨物をチェックするだけでも「1日数時間以上」かかることも少なくないという。
しかも従来の手法では、一部データしか取れないので、全体の状況を把握することができない。さらに(遅れが発生しそうな貨物の)代替ルートを探そうとしても、工数がかかり過ぎてしまう。船舶物流業界での勤務経験がある仲田氏いわく、こうしたサプライチェーンのトラブル耐性の低さは、自身が業界にいた10年前から全然変わっていなかったという。
そこで仲田氏らが開発したのが「Harbitt」だ。これは、人手で行なっていたデータ収集の作業を自動化し、かつ一部の熟練者のスキルや経験に依存していたデータ活用や、ルート探索といった業務を誰でも簡単に行えるようにした物流クラウドシステムだ。
こうしたサービスは他にもあり、登場したばかりの「Harbitt」はブランド力ではまだ他社に負けるものの、「独自の基盤に基づくデータが網羅的に提供され、高精度の予測や代替ルートの探索などが一気通関で行えるものは他にない」と述べ、その強みをアピールした。
すでに「Harbitt」は大手企業に導入されており、人手で行なっていた作業を自動化することで2000万円以上の金額換算効果が出ているという。現在さらに10社以上と商談が進行中とのことだ。
こうした国際物流領域での展開にとどまらず、将来的には、蓄積した物流データを活用し、「保険や送金、与信といったフィンテック領域にも進出したい」と展望を述べ、仲田氏はピッチを締め括った。
最後に登壇したのは、干ばつ地域に潤いを与える土壌保水剤「SuperSponge(スーパースポンジ)」を開発する株式会社TeraformのCEO日高聡氏だ。
日高氏によると、気候変動の影響により世界中で干ばつが頻発しており、農作物の年間被害総額は、日本円に換算すると実に「10兆円」にのぼるという。日本でも、今年7月、8月に記録的な酷暑や降水量の少なさにより、全国各地で田畑が枯れるという現象が起こっている。日高氏が独自に試算したところ、「47都道府県中32都道府県で田畑が枯れている」とのことだ。
この干ばつによって農作物が枯れてしまう現象の本質的な課題は「水不足により作物が根を張る前に枯れてしまうこと」であり、この課題を解決するために開発しているのが「SuperSponge」だ。
「SuperSponge」とは、微生物に分解されやすい自然由来の素材でできたスポンジ状の土壌保水剤だ。通常は、乾燥状態で縮んでいるのが、ひとたび水を与えると、吸水して膨潤し、その後時間をかけて水分を徐々に放出するため、乾燥地帯でも長時間保水できる。
「利用方法も実にシンプルです。最初に土に投入し、水をやるだけ。これにより、農作物が根を張るまで保水することが可能になり、農家にも負担が少ない土壌保水剤となっています」(日高氏)
こうしたスポンジ型の保水剤には、他社が開発した既存の製品があるが、その原料が石油由来であるためにマイクロプラスチックの問題がある。また、自然由来の製品もあるが生産コストが高く実用的ではない。そんな中「SuperSponge」は、独自技術により、既存の自然由来品に比べて生産コストを1/10程度にまで抑えるなどの優位性を備えているという。
なお、同社は今年4月に設立したばかりのスタートアップだが、この5カ月間にMVP(Minimum Viable Product=最小限の機能を持つ初期バージョン)を完成させるだけでなく、5件の実証実験を締結するに至っているとのことだ。
市場規模については、水田の領域にも進出すればグローバルで50兆円の市場規模があるとした。さらに、将来的には、水分以外にも、肥料などあらゆる物質を内包して徐々に放出する技術を開発することで、新たな土壌インフラを形成できるとし、事業への参画を会場に広く呼びかけた。
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審査の結果、「オーディエンスアワード」は「コドマモ」を開発・提供するAdoraが受賞。「ベストチームアワード」は、「SuperSponge」を開発するTeraformが受賞した。
今回登壇のどのチームも事業内容に説得力があり、見応えのあるデモデイとなった。各チームのこの先の発展に期待したい。