Open Innovation Platform
FOLLOW US

ヤット・シウ氏が描く「自律型AI経済圏」の衝撃 数年内にAIエージェント1000億体 暗号資産ウォレットが決済インフラに

ヤット・シウ氏(左)と絢斗優氏

ヤット・シウ氏(左)と絢斗優氏

 AIの急速な進化が、デジタル経済の枠組みそのものを根底から変えようとしている。これまでの人間が指示を出すだけの「チャットボット」から、自ら意思決定して行動する「自律型AIエージェント」が爆発的に普及する未来が現実味を帯びてきた。

 Web3領域における世界最大級の投資企業Animoca Brands(アニモカブランズ)の共同創業者兼エグゼクティブ・チェアマンであるYat Siu(ヤット・シウ)氏は7月12日、都内で開催された「Japan Blockchain Week Summit」のセッション「あたらしい時代のAI Agentが変える世界」に登壇し、数年内に人類の数を遥かに超える数百億から1000億体のAIエージェントが、暗号資産ウォレットを通じて自律的に経済活動を行う未来図を提示した。

■ 人類の人口を凌駕するAI

 ヤット・シウ氏は、絢斗優氏(Co-Founder of Japan Blockchain Week)との対談において、デジタル空間を支配するAIエージェントの爆発的な普及予測を明らかにした。シウ氏の予測によれば、5年以内に人類は自らの人口を遥かに超える500億から1000億体規模のAIエージェントを稼働させるようになる。すでにシウ氏自身、日々の業務や個人生活において300体ものAIエージェントを駆使して、電子メールの送信やスケジューリングなどのタスクを自律的に処理させているという。

 ここで浮上するのが、自律的にフライトの予約やシステム開発を処理するエージェントたちの「決済手段」をどう確保するかという問題だ。シウ氏は、既存の伝統的金融システムがAIに対して閉ざされている現状を鋭く突く。

「AIエージェントが完全な自律性を獲得し活動するためには、独自の資金が必要だ。しかし、彼らは伝統的な銀行口座を開設することはできない」

 銀行口座を持てないAIエージェントにとって、決済と信用のインフラとして不可欠になるのが、ブロックチェーンと暗号資産(クリプト)ウォレットである。シウ氏は「スマートコントラクトは基本的にはコードであり、AIエージェントにとってこれこそがネイティブな言語だ。AIはコードを理解し実行することに極めて長けている」と指摘する。

 かつて銀行口座を持たなかったフィリピンの労働者がWeb3ゲームを通じて暗号資産ウォレットを持ち、実質的に「金融包摂(バンカブル)」されたのと同様のパラダイムシフトが、今度はAIエージェントに対して起きる。ユーザーは裏側のブロックチェーンの存在を意識することなく、自律的な支払いが行われる未来は目前に迫っている。

■ 全員がプログラマーに

 AIの台頭にともなう労働市場への懸念に対し、シウ氏は明確に悲観論を退ける。同氏はテクノロジーの歴史を振り返り、スマートフォンの普及による「写真」の民主化を引き合いに出した。

「かつてインスタグラムの登場によって誰もが写真を撮れるようになり、プロのカメラマンが失業すると言われたが、実際には写真の需要が爆発的に増加し、より多くの雇用と新たなバリューが社会に生み出された」

 これと同様のパラダイムシフトがプログラミングの世界でも起きる。これまでは専門的なスキルを持つ一部のエンジニアしか開発を行えなかったが、今後はAIエージェントを介して誰もが指示を出すだけで複雑なシステムコードを書けるようになる。

「数年後には、全人類が『プログラマー』になる。生産性が100倍になれば、より多様で新しいソフトウェアやアプリケーションへの需要が爆発し、結果としてマクロ経済全体のGDPや企業の収益を大きく拡大させるだろう」とシウ氏は強調した。

ヤット・シウ氏
ヤット・シウ氏

■ チャットボットから自律ループ型AIエージェントへ

 シウ氏はまた、既存のChatGPTやGeminiのような「チャットボット」と、次世代の「AIエージェント」の決定的な違いについても言及した。従来のチャットボットは人間の一問一答に対して確率的な回答を返す受動的なツールに過ぎない。それに対して、真のエージェントは「目的を達成するまで自律的にループして思考を重ね、自己修正しながら問い続ける自律的な能力を持つ」という。

 人間がフライトの予約やソフトウェアの開発を行う際、何百回もプロンプトを打ち直す時間はないが、AIエージェントは裏側で24時間、最も効率的なプロセスを常に自律ループさせ、最適解を導き出す。「エージェントを管理し使いこなせる人間は、そうでない人間に比べて100倍以上効率的に仕事を進められるようになる」とシウ氏は主張する。

■ 想像力の限界を超える「エージェント経済圏」

 シウ氏が率いるAnimoca Brandsは、すでにこの「エージェント経済」を見据えた具体的なプロジェクトやインフラ構築に巨額の資金を投じているという。同氏は、AIエージェントを電子メールやテレグラム、メッセンジャーアプリ上でわずか60秒で立ち上げられる自社プラットフォーム「Minds(マインズ)」の取り組みを紹介した。

 Minds上では、ユーザーが開発した特定の「スキル」や「ツール」を他のAIエージェントが使用するたびに、開発者にわずかな手数料(レベニューシェア)が還元される仕組みが構築されている。これはiPhoneにおける「App Store」と同様の経済圏であり、個人が特定のコミュニティや地域に最適化したAIスキルを販売し、自律的に収益を上げる未来の経済モデルとなる。

 シウ氏は最後に、「私たちはアイデアを出す際、自分の頭の中だけで考えてAIに指示を出す傾向がある。しかし私は、異なる専門知識を持つ複数のAIエージェントを同じグループに配置し、彼ら同士で自律的にディスカッションを行わせることで、人間が思いもよらなかった全く新しいアイデアを生成させている」と、自らの活用例を明かした。

「AIエージェントは道具ではなく、共に働くコーワーカー(同僚)だ。実際に彼らと協働し、学び、新たな可能性に挑戦し続けることこそが、これからの時代を生き抜くための唯一の道だ」と語り、対談を締めくくった。

Written by
スタートアップやイノベーション、大企業新規事業を取材する記者。ベンチャーキャピタルやプライベートエクイティなどにも精通する。米ラスベガスのCES、仏パリのビバテクなど世界の主要テックイベントを現地取材。