
株式会社funovoが提供する3Dプリントサービス「シェイピー」で作成した建築模型(左)と、伝統模様を用いた窓パネル(以下、全ての画像提供:funovo)
人手不足の建設業界において、AIやデジタル技術を活用したDX(デジタルトランスフォーメーション)は重要だ。大手デベロッパーなど都市部の大企業はもちろんのこと、職人の高齢化や資材高騰などに悩む地域の住宅メーカーや工務店も対応を迫られている。
そうした中、北海道函館市で、地元の住宅メーカーとタッグを組むなど、地域密着型でITソリューション開発に挑むスタートアップがある。公立はこだて未来大学発スタートアップ第1号として2024年11月に創業した、株式会社funovo(ファノボ、北海道函館市)だ。
同社は、公立はこだて未来大学のプロジェクト「高度ICT演習」の成果をもとに、当時システム情報科学部の学生だった松下文太氏(現在funovo代表取締役)と、システム情報科学研究科の博士後期課程だった佐藤紘基氏(現在funovo取締役CTO)らが在学中に起業したスタートアップで、主に住宅メーカーや施主向けにSaaS やITソリューションを開発・提供している。
同社の事業内容や、地域密着かつ学生起業ならではの苦労や強み、今後の展望などを松下氏と佐藤氏に伺った。
funovoでは具体的にどのような事業を展開しているのか。現在の中心事業は「ソフトウェア事業(SaaS、受託開発)」と「3Dプリント関連事業」の2つだと松下氏はいう。
SaaS事業で提供しているのは、部屋の写真をアップロードするだけで壁紙やフローリングなどの内装材をシミュレーションできるアプリ「カベレオン」と、モデルハウスのレコメンドアプリ「モデレコ」だ。どちらもAIを活用したもので、住宅購入希望者と住宅事業者の双方にメリットをもたらすという。
システムの受託開発では、建設現場や住宅メーカーが抱える業務上の課題をデジタルやITを使って改善する。具体的には、建設現場における暑さ指数(WBGT)の自動配信システムや、天気確認と通知業務の自動化システムの構築などがある。
「例えるならば、小さなドミノが自分より少し大きなドミノを倒していくことで、とても大きなドミノを倒すような取り組み。地域の工務店などのDXに入らせてもらい、1日10分の業務負担を削るような改善を積み重ね、結果的に年間で何時間も負担を減らすようなDXを目指しています」(松下氏)
そんなfunovoが特に注力しているのが、3Dプリントサービス「シェイピー」だ。これは、今も二足の草鞋を履いて大学院で研究を続ける佐藤氏らの、AI(大規模言語モデル)や3Dプリンターに関する知見を活かしたものだ。

一般的な3Dプリントサービスでは、ユーザーが精緻な設計図を作成し、それをもとに印刷物を提供するだけのものが多い。一方「シェイピー」では、3Dプリントの全工程をワンストップでサポートする。
たとえば、ユーザーが3D設計図を持っていなくても、平面の設計図や簡単なイラスト(あるいはイメージ)さえあれば、それをもとにAI技術やこれまで建設業界で蓄積した知見などを用いて3D設計図にしてくれる。さらに作成した3Dモデルをモニター上で確認したうえで、印刷できる。「簡単にいうと、伴走型の3Dプリントサービスになっています」(松下氏)
「シェイピー」のメリットがわかりやすく発揮されるのが、建築模型を作成するときだ。建築模型は、住宅の設計や建築において、施主に完成イメージを伝えるための有効なツールとなる。しかし、多くの工務店や設計事務所では、社内のリソースが足りないこと、外注にはコストや時間がかかり過ぎることなどが課題となっていた。
funovoの「シェイピー」は平面の図面やCADデータがあれば、建築模型を作成でき、「(工務店や設計事務所は)コストや手間を大幅に減らしながら、施主とのイメージ共有をよりスムーズに行えるようになります」(松下氏)
なお「シェイピー」はローンチ後半年も経っていないが、すでに建築模型作成の依頼が多数入っているという。ほかにも、地元の住宅メーカーとともに、3Dプリンターで再現した日本の伝統模様(青海波・矢絣・麻の葉・鮫小紋など)を用いた窓パネルをモデルハウスに実装するなど、利用の幅も広がりつつあると松下氏は自信をのぞかせた。
funovoの特徴のひとつとして、はこだて未来大学発スタートアップの第1号に認定されていることが挙げられる。

同社の設立経緯を少し説明すると、事の発端は、大学の課外活動「高度ICT演習」の中で、松下氏らが「カベレコ」という「カベレオン」の前身となるアプリを開発したことにあり、このアプリを北海道のアプリコンテストや、函館市の創業助成金の採択などに出したところ、高い評価を得たこともあり、起業を決めたという。
ちょうど同じタイミングで大学側も、学内の研究成果を事業化するスタートアップを「公立はこだて未来大学発スタートアップ」に認定し支援する取り組みをはじめており、その第1号にfunovoが選ばれた。
大学の支援があったとはいえ、実際に事業を軌道に乗せていくのは簡単なことではなく、「学生起業ならではの苦労も少なくなかった」と松下氏は振り返る。
「特に大変だったのは、創業時は建築に関して素人レベルの知識しかなかったことです。たとえば専門用語の意味がわからず、現場でヒアリングを行っていてもわからない用語が多々出てきて、恥を承知で『どういう意味ですか』と聞きながら、何とか乗り越えてきたという感じです」(松下氏)
ただ、社会経験が少ない学生だからこそ“怖いもの知らず”で「新しい試みや発想ができた」とも話す。たとえば、競合である2つの企業の両方にヒアリング行き、ソリューションも提案してきた。
また、函館は学生の活動に寛容な文化が根付いているため、「未来大学の学生だ」と伝えると歓迎されることも多く、新規顧客の開拓もしやすかったという。
「函館市はコンパクトな街なので、会いたい思った人に比較的容易に近づけることが多いです。加えて、人口の割に高等教育機関が多く、学生と地域の距離が近いため、新しい試みをはじめようとしたときに一緒におもしろがってくれる人がたくさんいます。そうした地域性があったからこそ、我々も事業を巧くローンチできたのではないかと感じています」(松下氏)
また佐藤氏は、大学の研究で得られる知見や技術をコア技術に据え、アプリケーションを高速に開発できることに加え、函館市内の企業に実際の現場で実証してもらえる環境があることで、確実に建設現場に価値をもたらす製品やソリューションを開発しやすいことも、大きな強みだと述べた。
今後の展望を尋ねると、「函館市以外のエリアで事業を展開しようと、人脈を広げている」(松下氏)一方で、「引き続き地元の住宅メーカーなどと協力しながら、函館市内での事業をより一層スケール(拡大)していきたい」(佐藤氏)考えも強く持っているとのことだ。
近年、スタートアップが事業を大きく成長させていくためには、創業当初から海外市場を狙い戦略を練るべきだとの意見をよく聞く。しかし、その一方で、funovoのように地域とともに着実に成長する道もある。そのどちらが正解というわけではないが、地域に根付いたスタートアップが増え、その中のいくつかがグローバル企業として大きく育つ、という流れもあるのではないだろうか。